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THE Defected Phoenix  作者: 電球フィラム
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黒い影への苦悩

ああ、しんどい。例え代謝が凄まじく良くて、擬似的な不死身だとしても出血多量はしんどい。血液パックが右腕に付けられている。切り取った左腕は縫い付けられ、人工皮膚で繋げられ、外見上は繋がっているように見える。とはいえ、神経は繋がっていないので動かないし、感覚もない。

「ステノ、調子はどうだ?」

金髪のショートヘアの男がこちらを見ている。スムク=キアーナ。医者、だけど闇の世界の住人。現役の時のセシルさんと同じで、公には出ることのない人間だ。

「大体良くなった。ありがとう。」

スムクが私の隣に腰掛けた。

「お前、代謝がいいのは知ってるが、無痛だとは思わなかったぞ。」

「ちゃんと痛みはあるよ。慣れただけ。」

スムクはタバコに火をつけた。

「最近も近場の子供たち守ってんのか?」

「ああ、学校や公園でね。」

「3年目か…。もう気づかれたのか?」

「……四肢が無くて、義手義足を上手く使ってるって事になってる。」

「常にか?気味悪がられないか?」

「そんなの2回も戦争した後だし、こんな世の中だし、いくらでもいるでしょ。手足欠損なんて珍しく無いわよ。」

「再生する事は?」

「まだ……それは………。」

「ま、そりゃそうだな。毎日どこかがランダムで欠けて、尚且つ次の日には治ってるなんて、普通の人間からしたら新手の生物兵器かと思われるだろうな。」

スムクが煙を吹き出した。

「結構気にしてる事ズケズケ言うわね。」

「そりゃあお互い黒いとこ隠しあってる仲だろ?裏の世界でも俺たちの過去言っちゃったらお前のところ以外に客が居なくなる。」

「解体屋とこれから解体される少女の子供。歩くよりも人の捌き方を先に学んで、それで人体を理解して今医者なのよね。」

「お前の大っ嫌いな解体屋だ。憎いならいつでも殺したっていいんだぜ。」

「何度も言うけど、私はあなたを殺そうだとか思ってないわ。今医者としてそれを良きことに使ってるなら良いのよ。第一、人捌いてたのは子供の頃だし、大人にそれしか教えられてなかったなら仕方ないよ。」

スムクはタバコを窓から投げ捨てた。

「汚い。」

「育ちが悪いんでね。」

スムクは立ち上がって歩いていった。

「皆は大丈夫?」

「ああ、何とかなってる。いや、してるって言った方がいいか。ウチの妹がやらかさないか神様に祈ってな。」

スムクとすれ違いでアビゲイルが走ってきた。薬の副作用だけだったのですぐ治ったようだ。

「ステノさん、なんであんなことしたんですか?もっと自分の体大切にしてください。」

「ごめん、あの時は必死すぎて咄嗟に体が動いてた。でも、アビゲイルも人の事言えないでしょ。」

「そ、それもそうですね。ごめんなさい。」

アビゲイルがいつもと変わらない様子でホッとした。キアーナ兄妹に向ける信頼が相変わらず厚いようだ。

「ちょっと外に行かない?薬品の匂いがキツいし。」

「はい、大丈夫ですよ。」

私達は建物から出た。てか、この建物なんなんだ?勝手にキアーナさん達が使ってるけど、空き家なのかな?近くに腰掛けるのに丁度よさそうな瓦礫を見つけた。砂を払い落として、その上に座った。

「食堂、どうしよう……。」

「ワームに壊されちゃいましたからね…。いい見方をすれば壁になってみんなを守れたと言えないこともないですが、住むところもないですし…。」

「荷物もまだありそうだから、持ってこれるものだけ持ってくる?」

「今から行きますか?私はいつでも大丈夫です。」

私は腕についている血液パックを見た。ほとんど空になっていたので、スムクに教えて貰った取り方で取り外した。痛みを伴うかと思ったが、すんなり無痛で取れた。その後少し準備をして、私たちは街と砂漠の境に沿ってフォルラ食堂を目指して行った。

「そういえば、左腕は大丈夫なんですか?」

私は左腕の事を忘れかけていた。左腕に力を込めようとしたがどうにも動かない。指が少しピクピクと動くくらい。

「まだダメみたい。」

「あ、見えてきました。あれですよね。」

アビゲイルの指さす方に崩れた建物が見える。ワームが押し潰したその様子が今でも思い浮かぶ。よくよく思い出してみると、これまでにも色々あって壊れているから、そこまでショックということはないが、それでもそれなりに来るものはある。よく目を凝らしてみると何かがそこにいる。

「アビゲイル、走るよ。」

「はい。」

走ってそこに駆けつけると、何人か人がいた。ものをガサガサと漁っていて、持ち帰ろうとしている。

「コラー!人ん家で何してんだー!」

私の声を聞いた人達が慌てだし、持っているものをボロボロ落としている。アビゲイルがロケットランチャーもどきを撃ち込んだ。あたふたしている人達が跳ね上がったり伏せたりしている。ロケットランチャーもどきの弾は着弾すると、煙が思いっきり吹き出した。フォルラ食堂跡は真っ白の煙になった。義足のリミッターを外し、地面を蹴った。直ぐに車のあるであろう位置まで走った。ビンゴ!煙の中に車を見つけたので、一つずつタイヤをパンクさせていき、車の中から私たちの家のものを取り出した。その後車の上で待機した。何か揉めているようなパニックになっているような声が聞こえる。1人が車に辿り着いたようだ。なんか、布やらなんやらを継ぎ接ぎにくっつけたような仮面をつけている。

「こっち、こっちにあるぞ!車!」

私はその人の近くに降りて義足のバネをしっかり使ってタックルをした。車と私の間に挟まれた人はそのまま倒れ込んだ。

「うわ、なんだコイツ!」

継ぎ接ぎの仮面をつけた人達がここに集まってきた。煙も晴れてきてだんだんと見えてくる。私は右腕で銃を構えた。

「お前達、私たちの家で何してる?」

「う、うるせぇな!もう壊れてんだからお前の家もへったくれもあるか!」

私は少し違和感を覚えた。

「どこに住んでるんだお前達は?」

「なんでそんな事言わなきゃならねーんだよ、お前。」

「言わなきゃ撃つよ。」

「ひっ、分かりました。言います言います。俺たちそこらで窃盗してるヤツです。スリや空き巣とか。」

私はコイツらの背中と車の中を見た。おかしい。武器が無い。ハンドガンすら持っていない。たとえ戦闘しない盗みをする奴だとしても、ハンドガンか刃物くらいは持ってるはずだ。私はさっきタックルした男に手を伸ばした。他の人達はコソコソと話している。さては逃げる気か…。

「下手に動くな、撃つよ。」

彼らはビクッとして動きを止めた。私は男の服の中から板のようなものを取り出した。まな板…?普通なら防弾チョッキ、酷くても鉄板くらいは入れてるだろう。それが、薄っぺらい木の板。突然、仮面をつけた女性と思われる人が泣き崩れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。どうしてもこうするしかなかったんです。子供に食わせるために、死なせないために…。」

「どういうことですか。」

私は拳銃を仕舞った。アビゲイルもこちらにたどり着いて私の隣に立った。

「俺らはコラプトパラスの住人だ。たまたま、お前達がワームと戦ってるところを見て、それで壊れた建物から盗もうって計画立てて行ったらこの建物だけで、しかも失敗するなんてな。ついてない。」

コラプトパラス。ウィール国を囲むウィールパラスの中でも南側に位置するサウスパラス地方、そこの一部には、巨大な集合住宅が存在する。その集合住宅もかなり粗悪な作りになっていて、崩壊や破損は日常茶飯事。治安も生活水準も最悪。色々な建物が複雑に積み重なり、まるでアリの巣の様に迷宮化しているため、薬物売買や闇取引の現場や潜伏先となることもある。彼らは、そんな場所に住んで尚、大きな闇に手を染めてない。今回が初めてだろう。仕事先でも潰れたか。

「分かった、分かった。少し分けてやるから、それでいいだろう。」

「ほ、ホントか!ホントにくれるんだろうな!?」

「その代わり、少し手伝って貰いたいことがあるんだけど、どうかな?」


━━━━━━━━━━━━━━━


「う、うわわ、気持ち悪っ!」

「普通の人間になら誰にでもついてる部位だ。次キモイとかほざいたらぶち抜くぞ。」

あの盗人たちはスムクの培養した人工内臓を運んでいる。

「ステノ、なかなかいい仕事するじゃないか。見直したぞ。」

「たまたま思いついたのよ。ウィンウィンでしょ。私たちは彼らに手伝って貰って、彼らは食料が手に入る。」

「ま、なんか普通の労働だな。」

突然『手術中』と雑に描かれた扉が思っきり開いた。中から両手にメスを持った人物が飛び出してきた。

「兄ちゃん!元に戻せた!」

「余計なところ弄ってないだろうな。お客さんはパズルじゃねーぞ。」

「わーかってるって分かってる!大丈夫ったら大丈夫!」

「ステノ信用できるか?」

「私のこの目を見ても信じれないの!」

真ん丸に開かれた目からは何か興奮と狂気、そして無邪気さが感じられた。

エバラバスタ=キアーナ。

スムクの妹。ハッキリ言うと、壊れている。壊されたのでは無い。自分から壊れる道を辿った。解体屋の娘だった時に、人を解体すること以外に楽しみを覚えることしかしなくなったのだ。スムクは解体することを叩き込まれた。エバラバスタは解体することを自分から知ったのだ。故に、人の体を知り尽くしていて、手術の腕は非常に長けている。しかし、その探究心は止まることを知らない。未だに、人の体を探ろうとしている。スムクによって抑制されているために、勝手に人をさらって解体することは無いが。

「ああ、うん、分かったよ。信じるよ。」

「やったー!」

バスタはぴょんぴょんと跳ねながら窓から飛び出して行った。

「相変わらずね。」

「困ったもんだ。」

スムクはいつの間にかタバコに火をつけ、口にくわえていた。

「なんだ、もう全部終わったからいいだろう。文句あるのか?」

「無いけど…。」

「そういや、アビゲイルだったか?」

「サヤカ」

「ああ、うん、サヤカ、あいつ目が覚めたみたいだぞ。行っといてやれ。」

「え、早くそれ言ってよ!」

私はサヤカの元へと向かった。アビゲイルがサヤカに抱きついて泣きじゃくっていた。

「サヤカー!よかったー!」

「私は大丈夫だから、大丈夫だから。あだだだだ、背中背中!ステノ、助けて!」

私はアビゲイルを引き剥がした。アビゲイルはまだ泣いていた。どんだけ嬉しかったのさ。でも、これだけサヤカの心配しながらもこっちの手伝いもしてくれてたんだな。私はアビゲイルを撫でた。アビゲイルは不思議そうにしてこちらを見た。セシルさんは治療が終わったばかりで、まだ目が覚めていない……と思ったらもう起きていた。

「体が動かんが口は動く。」

「あんまり無理しないでよね。」

「で、そこに並んでるやつがワシらの家の跡から物を持ち出そうとした不届き者達か。」

彼らは小刻みに首を縦に振った。

「まあ、ステノから約束をしたのだから破る訳にもいかん。しっかりと食料を渡そう。ただしな、条件がある。」

彼らは落胆したり、怒ったような表情をした。少し、嫌悪な雰囲気だ。

「コラプトから引っ越してコッチへ来い。」

「へ?」

「ワシは闇の住人だ。こっちが与えた食べ物を無効に持ってったらどうなるかは目に見えとる。なら、安全なこっちに引っ越して来る方がいいだろう。」

「住むところがないだろうが!いい加減なこと言うなよ、ジジイ!」

「この建物は勝手に使ってる空き家だ。土地ならいくらでもある。建物を建てるリソースさえあればいつでも住める。」

「仕事はあるのか?」

「ノースパラス地方のウィール国への輸出入をするための港でならいくらでも人を雇ってるだろう。サウスからは遠いだろうが、イーストパラスからなら、直行バスがある。もちろん、イーストパラスでも仕事は沢山ある。心配は無い。」

「あ、ありがとうございます!おかげで私たちは救われます!本当に、本当にありがとうございます!」

女の人が深くこちらに頭を下げている。最初は盗人を救うなんてお人好し過ぎると思ったが、そうでもなかったようだ。

「それじゃあ、子供とか年寄りを連れてこないと行けないな。少し俺達は出かけてくるがいいか、スムクさん?」

「構わん、行ってこい。」

コラプトの方達が退室した後、入れ替わりで女性が扉からこちらを覗いた。その姿は白く輝いているようだった。

「あのー、すみません……。ここどこですか?誘拐?」

「誘拐か…。まあ、ここにいるヤツらのこと考えたら、そう思えなくもないかもな。でも、真逆だ。アンタを助けた。」

「わ、私を?」

「ワームの中に吊るされてたのを見つけて助けました。危ないところでした。」

「あ、えっ!そう言えば、攫われた後にそんな事になったような…。」

「攫われた?誰に攫われたんだ?」

「……あっ!思い出しました。全身黒い布で覆われた人達が異端者だって言いながら私を攫って、その後……。ダメです、ここから思い出せません。」

「ああ、そう言えばお互い自己紹介もまだだったな。私はセシル=フォルラ。食堂を営んでいる者だ。」

「私はステノ=トルレイト。セシルさんの養子です。」

「私はアビゲイル=フォルラです。同じく、セシルさんの養子です。」

「私はサヤカ。居候してまーす。」

「スムク=キアーナだ。医者をやってる。外で騒ぎまくってるやつは妹のエバラバスタだ。まあ、気にしなくていい。」

「私はウィロウ=キョウ。シスターをやっています。イーストパラスとノースパラスの狭間くらいの所の教会に住んでました。あ、良かったらウチに来ませんか?ここ見た感じボロくて今にも崩れそうなので。私の教会もそれなりに広いですよ。」

キョウさんは腰に手を当ててドヤ顔で言った。手や足も顔と同じように白く、まるで光っているようだった。アルビノ、なのかな?セシルさんの方を見た。何か難しそうな顔をしていた。

「どうしたの、セシルさん?」

「いや、なんかどこかであったような気がするのだが…。多分たまたますれ違っただけか…?いやはや、現役時代は人の顔は絶対に忘れなかったのだがね…。」

「とりあえず、食堂も無くなっちゃったし、教会を借りよう。」

「了解です。私が案内しますねー。」

その後、私たちは空き家の荷物を全て片付け、教会へと向かった。うん、相当デカかった。余裕でフォルラ一家だけでなくキアーナ兄妹まで住めそうな程の部屋もあった。どうやら彼女は2週間ほど拉致されていたようで、少しホコリが溜まっていた。彼女曰く「葬式とお祈り以外はやることがめっきりない。」ということで毎日だだっ広い教会を組まなく掃除しているらしい。食堂が壊れた時はどうなるかと思ったが、こうしてゆっくり、ベッドで寝ることが出来て幸せだ。


━━━━━━━━━━━━━━━


報告開始


報告:実験体49について

実験体49

状態 アルビノイド 女性 【検閲】


恐怖洗脳の手法

薬品39-b投与後、WBWの体内にて監禁


結果

軽度の記憶障害。しかし、洗脳可能域まで至らず。恐らく被検体は【検閲】である為だと思われる。やはり、彼女に執着する必要はありそうだ。


報告終了

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