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THE Defected Phoenix  作者: 電球フィラム
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WBW【後半】

例の砂嵐から15分。未だ砂は舞い、振り積もっている。商店街の賑わいも全く無くなり、静寂に包まれていた。昨日の時点ではまだ活性化していなかったが、ステノが追い払ったチンピラを喰らった後に覚醒し、気が荒くなったのだろう。しかしあれほどの砂嵐を起こすとなれば…。

「おい、ジジイ!聞いてるのか!」

うむ…。一番の問題は真横におるチンピラ野郎、もとい世界中心機関の奴ら。これでも世界を再び纏め、秩序ある世界に戻すなんてほざいてるから呆れたもんだ。あそこに属してる人間が全員こんなクズどもと同等だとは思わんがね。急に胸ぐらを捕まれ無理やり立たされる。男の顔がグイッと寄ってきた。

「無視してんじゃねーぞ、パラスの分勢でよぉ!」

「パラスで何が悪いのか。」

「あぁ!?こちとら毎日必死こいて生きようとしてる人間見てんだよ!テメェらみたいなパラスから流れる甘い汁吸って生きてる寄生虫なんぞ助ける義理もクソもねぇんだよ!サッサと滅べばいいんだよ、このクズが!」

「フッ、まあその辺にしておけ。WBW討伐中は極力手を出さない約束であるしな。」

男が私の服を離した。首元が伸びてしまったかな…。白髪の男は笑みを浮かべながら私の前に立った。

「すまないね、うちの者は正義に仇なす者には容赦がなくてね。正義の代行者としては申し分ないがね。」

「話は済んだな?じゃあ疾く失せな。」

「まあまあ、急ぐな。私たちは同じ老人だろう。人生がもうすぐ終わってしまうし、そちらはその残りの時間を檻で過ごすかもしれん。もう世間話なんてものはできんかもしれないだろう。付き合ってやろう。」

「付き合っているのはコチラだがねぇ。」

「討伐作戦まで時間があるだろう。なあ、付き合ってくれ。」

………。

まさかコイツらがここまでクズだとはな。白髪の男も後ろに整列してる下っ端も隠し銃をこちらに向けていた。こちらが気づいていないとでも思ったか。たかが無駄話をしたいがために…。

「ああ、わかった、わかった。」

私は両手を頭の後ろに持っていった。

「良い判断だ。もっと早く決めてくれれば良かったのだがね。」

私からすれば目の前の白髪のヤツも若造なのだがな、力は向こうの方が上だ。ここは従うのが最適だろう。不満なのだがな。

「それでは、お前の事を聞かせろ。例えば、そうだな……あの武器に関する話をしろ。」

「あの武器の出処か?それなら、解体屋とかの闇業者から丸ごと頂いたものだがね。」

「またまた、ご冗談を。もし本当ならどのようにその所から丸ごと頂いたんだ?」

「ああ、潰した。」

「は?」

「頼まれたからな、金も貰ったし。」

「あんた、何者だ?」

「しがない殺し屋さ。10年前、70歳で最後の大仕事を終わらせてからは食事処を経営してるがね。」

「2321年生まれ……。火星戦争の真っ只中か。一体いつから殺し屋を?」

「わからん。物心がついた時からもう、誰かに頼まれて人を殺してた。」

世界中心機関の奴らが少しザワザワとし始めた。彼らの予想よりも大きな悪がここにいたと言うことに驚いているのだろう。例え戦争中だったとは言え、60年間、毎日のように人を殺そうと計画し、そして実行してきた人間である私に、『巨悪』以外の言葉が当てはまるだろうか。

「そうか、やはり貴様を捕えざるを得ないようだな。自らが殺めた人間の数も知ることのない大虐殺者め。」

「10142」

「は?」

「10142人。それがワシの殺した人の数だ。よく覚えておけ。」

「そうか……。では、彼女らは人を殺して得た金で買った奴隷か?」

「口は災いの元という言葉を知らんのか?奴隷な訳があるまい。私の大事な娘だ。」

「じゃあ、なんだ?道端に倒れててそれを保護したとでも?」

「ああ、アビゲイルとステノはそうだな。サヤカは気づいたら住み着いていた。」

「ほう、では、私から1つ質問いいか。どうしても気になっていたのでね。」

白髪の男が、私の本性を知った時とは打って変わって、テンションが上がっている。他の男達も何かヒソヒソと話している。

「なんだ、言ってみろ。」

「三人の中で、どれが一番の名器だ?」

「もう一度言ってみろ。」

「焦らすな、早く教えてくれ。ステノ、アビゲイル、サヤカ!どれが一番気持ちよかっっダァッッッッ!!!!!!」

私はその男に一発、膝を入れてやった。恐らく感覚が鈍っていなければ、コイツはもう子供を作ることは出来ない。白目を向き、その無駄にデカい図体が倒れていく。私はすかさずトランシーバーを起動した。

「WBW、先程の浮上から浮き上がらないままだ。出来れば隣にいるコイツらに任せたいところだが、サヤカ、陽動を頼む。くれぐれも気をつけてくれ。」

白髪の男の部下達が殴りかかってきた。姿勢を低くして拳をかわし、投げた。男はそのまま建物の屋上から落ちていった。

「約束が違うな、WBW討伐中は手を出さないのではなかったのか?」

私は砂漠の方へと目を向けた。サヤカが砂の海の上を飛んでゆく。サヤカの真下の砂が僅かに盛り上がる。

「今だ、サヤカ!真下からくるぞ!」

サヤカはすんでの所でかわした。一瞬ヒヤッとしたが大丈夫そうだ。

「円口型だ。飲み込まれないように注意し、飲まれても落ち着いて脱出するんだ。頼んだぞ!」

ワームが地面から這い出てくる。恐らく高さは5メートルほど、長さは30メートルほどあるだろう巨大個体。ということは周りに幼体は居ないか?

「幼体は恐らく居ない。この巨大な一匹だけが相手だ。」

サヤカがワームの顔の前でふわふわと飛んでいて、それをワームが追っていく。ステノとアビゲイルが乗っている。ビークルがワームの側面まで行き、止まった。ビークルの背面ドアが開き、アビゲイルが車に固定された機銃で撃ち始めた。ステノも運転席からライフル銃を向けている。私はスナイパーライフルを構えて、ワームの硬い頭と体の殻の裂け目に弾を撃ち込んだ。神経毒を内部に含んだ銃弾だが、1発だけじゃ不十分だろう。私は次の弾をリロードした。サヤカの陽動が上手く言っているらしく、ワームはそちらに向かって口を開けて突進している。ビークルの付近では殻に穴が開き、ワームの血液が流れ出ている。ビークルが動き出し、ワームから離れていく。ビークルの背部からRPGが撃たれ、殻の穴で爆発した。ワームの体に穴が開き、血液がドボッと流れ出す。奇妙な鳴き声を上げながら巨体をくねらせ、砂嵐が起きた。視界がハッキリせず、スナイパーライフルを撃つことが出来ない。

「三人とも大丈夫か?」

「こちらサヤカ、私は大丈夫だけど、念のために一旦高度を上げる。」

「こちらステノ、銃撃を止めてそのまま離れる、なるべくそっちには行かないように注意する。」

未だに砂が巻き上がっており、ワームは暴れ回っている。私が目を凝らしていると、急に後ろから首を絞められた。そのまま持ち上げられ更に強い力で締め付けられる。私は直ぐに肘の隠しナイフを展開し、何度も肘打ちで刺した。10回刺してようやく手が離れた。そのまま建物の屋上からさっきの奴と同じように投げ捨てた。砂嵐の中、どこからさっきみたいに奇襲が来るかわからん。

「セシルさん、大丈夫?」

「ああ、問題ない。そっちはどうだ?」

「若干ワームの動きが鈍ったみたい。毒が回ってきたかも。」

砂嵐が先ほどよりも薄くなり、ワームを視認することが出来るようになった。後ろから殺気…!私は咄嗟に避けた。先程まで私がいたところに鉄パイプが振り下ろされ、コンクリートに穴が空いていた。白髪の大男が呼吸を荒らげてこちらを見ている。

「ーーーーーーーッッッッ!!!!!」

まるで獣のような雄叫びを上げてこちらに飛んできた。ジャンプでかわそうとするが、右足に激痛が…!やはり歳か…!私の身体は男にはね飛ばされ転がった。建物から落ちる寸での所で引っかかった。全身が痛い。起き上がることすら出来ん。あの男はニヤニヤしながら歩いてくる。手には先程とはまた別の鉄パイプを持っている。

「貴様ァ!さっきと同じ痛みィ!くれてやるゥゥゥァァァァ!!!!!」

男は先程私への仕返しとばかりに股間へと鉄パイプを振り下ろした。しかし、私に限ってはそこは弱点ではない。私はハンドガンを取り出し、男の腹を撃った。

「何故だ!どうして!」

「20の頃に解体屋に捕まって慰みものにされてな。それ以来排泄は機械に頼りっぱなしだ。勿論性行為などできるわけが無い。お前のような性欲の塊のような奴とは違ってな。」

トランシーバーからアビゲイルの音割れした声が聞こえる。

「お爺ちゃん、ホントに大丈夫!?」

「大丈夫だ、気にするな。それよりワームはどうだ?」

「それが、そっちに向かってる!」

私は砂漠の方を見た。ワームと目があった。ワームは叫び声を上げてこちらに勢いをつけて突っ込んできた。

「血か!こっちで血が流れた。すまない、援護を頼む。」

私は武器を仕舞い、建物から飛び降りようとした。男が三人、呆然と立ち尽くしている。

「お前ら早く来い!死ぬぞ!」

私がそういった瞬間に建物にワームが突っ込んだ。私はワームの右側に飛び込み、食われずに済んだが、恐らく、他の奴らは食われただろう。私の体が砂の上に落ちた。意識が朦朧としてきた。やはり…歳か……。


━━━━━━━━━━━━━━━


爺さん、爺さんはどこだ。ワームは建物に突っ込んでから、何かを取り込むような動きをしている。瓦礫の中に、どこかにいるはず。私は食堂の跡地に急接近した。いた。砂の上に横たわっている。私は直ぐに爺さんを抱えあげ、飛んだ。直ぐにアビゲイルとステノのいるビークルへ向かった。ビークルの天井に飛び乗ると、車の天井が開いた。

「セシルさん!」

「大丈夫、気絶してるだけ。それよりも早く、ワームをどうにかしなくちゃ。」

街の方から叫び声がする。フォルラ食堂にワームが突っ込んだせいで、街の人々がパニックに陥って建物から飛び出してきた。このままじゃ、ワームが街の方へ……。

「ステノさん、そんなこと止めて!」

アビゲイルの叫び声にビックリしてステノの方を見た。血が飛び散る。ステノは、自分の左腕を切り取って掲げた。

「このデカブツが、こっちで血の匂いがするだろ。こっちへ来い!」

ワームは頭をこちらへ向けた。

「サヤカ、私の左腕持って囮になって!最初と同じ作戦よ!」

「嫌だ!」

「何!?今更怖気づいた訳?最初はあんなに余裕ぶっこいて囮になってたのにさ。」

「囮になるのが嫌じゃなくて、切り取ったまんまの腕なんか持ちたくない!」

「文句言うな!さっさと行け!」

ステノは私に左腕を投げつけた。血がべっとりと付いている。私は吐き気を我慢しながら飛んで行った。ワームはこっちに向かって突進してくる。街とは逆方向に誘導していく。ビークルから再び無数の鉛玉が放たれる。さっき開けられたワームの傷が土だらけになっている。心做しか、少しワームの動きが早くなったり遅くなったり、不規則になっている。爆発がもう1回起きる。ワームの身体の半分くらいの穴が開いている。ちぎれるまでもう少しだ。

「サヤカ、こっからはもう穴に向かってRPG撃ち込みまくる!囮を頼んだよ!」

「分かった。」

私はワームの方を見た。ワームは相変わらず大口を開けてこちらに向かってきている。ん?なんだアレ?何かがワームの中でぶら下がっている。黒い袋が、ワームの上部から伸びるワイヤーでぶら下がっている。目をよく凝らして見てみると、傷ついた袋からは足が出ている。

「ステノ、待って!」

私はワームの口の中に飛んで行った。ステノがトランシーバー越しに何かを叫んでいる。私は口の中に飛び込むと、復路を掴んだ。携帯用ナイフでワイヤーを切る。凄い硬い。ナイフで切れそうにない。ワームの口が閉まる。辺りは真っ暗になったが、ライトをつけて口にくわえた。もうどうにでもなれ、と思って袋に空いた穴を広げる。中から大人の女の人が出てきた。私がその人を抱き抱え、飛ぼうとした時に背中に激痛が走った。消化液がかかった。私は痛みを堪えて、愚痴とは逆の方に飛んでいく。開いた傷口から勢いよく飛び出した。私はそのままビークルまで飛んで気を失った。


━━━━━━━━━━━━━━━


「アビゲイル、アビゲイル!」

「はいっ!」

私はハッとして飛び起きた。目の前にお爺ちゃんとサヤカと知らない女の人が倒れてる。

「ボサっとしてないで早く仕上げないと!」

私はビークルから降りて砂をかき分けた。砂の下にあった機械版に暗証番号を入れると、事前に用意しておいたガスボンベが出てきた。ワームが動きを止めているのを確認して、私は首元に注射器を刺した。お爺ちゃんが必要な時以外使うな、と渡してくれた薬。本来は代謝を異常に促進する薬だけど、私は薬の適合者らしく、薬の効果が切れるまで、身体能力が増強される。体が暑くなって服がキツくなる。身長がどんどんと高くなり、筋肉が膨張する痛みが全身を駆け巡った。私はボンベを掴み、ワームの傷口へと投げ入れた。次々と出てくるボンベをしっかりと投げ入れていく。15本全部投げ入れた所で頭がクラっとした。目線がどんどん下がっていき、身体が縮んでいく。口の中に血の味が広がり、鼻血まで出てきた。私は何とかビークルに乗り込んだ。

「アビゲイル、ありがとう!」

ステノさんはビークルの屋根の上に登った。ワームはゆっくりと向きを変え、こちらに向かって口を開けて叫んだ。RPGが放たれるのが見えた。ワームに着弾した瞬間、派手に爆発した。轟音と強烈な光が見えたあと、辺りに肉片と液体が降り注いだ。血と火薬の匂いの混じった気持ちの悪い匂い。私は口の中に溜まった血を吐き出して、血を拭った。ビークルから外に出ると、ステノさんが隣に降りてきた。

「お疲れ様。後は私が何とかするからビークルで休んでて。」

「ありがとうございます。」

私はステノさんに支えられながらビークルの助手席に座った。あの姿はどうしても気に入らない。身体中は痛くなるし、血は沢山出るし、何よりとても怖い見た目になってしまう。でも、誰かを守るためなら、いくらでもそんな苦痛耐えてみせる。意識が遠のいていく。私は目を閉じて眠った。

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