滅びかけの世界
2082年。それは人類にとって大きな転機であった。当時の一番の大国がとある宣言をした。「我々人類はこれから宇宙を『資源』としてみなす。」全人類の目は輝いた。宇宙という無限の資源。口でこそ反対した者はいたが、心の奥底ではその欲望が渦巻いていた。しかし、人類はそれが後々自らを衰退させる『禁忌』であったことに気付かされる。最初の危機は直ぐに訪れた。『月』は『地球』にとって必要不可欠、言わば運命共同体とも言える存在であった。物凄いペースで採掘された月は地球上に影響をもたらした。地球上の気候の変化が顕著に現れ始め、直ぐに対策が取られた。人類は月の質量を戻そうとした。結果として月の質量はほぼ元に戻り、地球の環境も元通りになった。だが、かつての美しい月は消えた。その4年後、月の資源を密かにとっていた国がいた事が判明する。それが引き金となり、30年に及ぶ『月代戦争』が始まった。地上は毒にまみれ、生物兵器がうろつき、戦争中には10億人、戦争後も飢餓や治安の悪化、危険な生物兵器による殺戮、テロ等により犠牲者が大量に出た。しかし、月の資源を勝手にとっていた国々を潰した、という戦争であったために、国などの共同体はそれなりに存続していたために復興や地球の環境を復元することは直ぐに進めることが出来た。100年後には地球の環境はほとんど元に戻っていた。だが、時が経てば人類は忘れる。今度は火星を目指した。長い時が経ったために、現存する全ての国は、宇宙を目指す為の技術は持っていた。次々と火星へと進出して行った。誰もが予想できたことであろう。またもや資源の取り合いで戦争が起こった、火星の上でも地球の上でも。2291年。月代戦争の終結から148年後の出来事である。結果、火星は普通の生き物が暮らしていける環境に整備されかけていたが、逆にさらに悪化した環境になってしまった。地球上も同様、火星程ではないが、また、『月代戦争』後に戻ったようになってしまった。火星に取り残された者達は、来るはずのない迎えに祈りを捧げ、あるものは飢え、殺し、奪い、食い、そして挙句の果てにかつての友を喰い、あるものは自らの命を断ち、あるものは獣の餌となった。人類最大規模の悲劇は77年後の2368年に幕を閉じた。人口は急激に減り、世界人口は1億人を下回った。復興などできるはずもなく、生き残った人間達は、ただもっと生き延びることだけに必死だった。そんな惨劇が起きてから12年後、科学者『ウィール=ピオニーア』の呼びかけに応じ、全世界から生き残った科学者が集まり、『ウィール国』が作られた。ほかの人間はそれに沿って、それぞれに共同体を作り荒廃した世界を生き延びようとしていた。
「リカルド、カイル、お疲れ。」
「ウィルか、お疲れさん。」
「ウィルさん、お疲れ様です。3人揃いましたね。」
「ちょっと後輩がドジしててちょっくら助けてきたんだ。さて、どれ頼もうか。」
「とりあえず飲み物選びましょう。僕はカフェ・ジュースにします。」
「ん?カイルは仕事昼までだよな。わざわざカフェインとってどうすんだ?これから何か作業でもするのか?」
「姉がやっている宿のパンフレットの作成を手伝うんです。なのでカフェインをとろうと思って。」
「そうか、そりゃ大変だな。じゃあ俺はビールでも頼むかな。ウィルはどうすんだ?」
「あーっと、酒は少し抑えてるからなぁ。ベジタブルジュースにするかな…」
「あ?これまたどうしてだ。」
「いや…妻にな…。健康診断の結果見られてて野菜不足だったことがバレてな。これが参った。」
「ていうより、リカルドさんこそ昼間からビールってそれこそ変じゃないですか。」
「酒がなけりゃ仕事なんてやってけねーさ。別に何かやらかしたって酒飲んどけばいい気分になるのさ!」
「いやいやいや、リカルドさんウィール国直送の荷物担当じゃないですか!俺らウィールパラスの人間がやらかしたら奴ら何するか分かったもんじゃないですよ!」
「まあまあまあ、そんなこたいいじゃねーか!で、飯はどうすんだ?」
「俺はなんでもいいぞ。カイルは何かあるか?」
「ピザなんてどうですかね。久しぶりに。」
「おお、いいな。」
「いいんじゃないか。ねーちゃん、注文いいか?」
「はい、どうぞ。」
ウィルは注文をし終えた後にお茶を1口飲んだ。
「あ、これ物騒ですね。シケイティオ砂漠で盗賊団が出てるみたいですね。確かウィルさんってイーストパラス地方にお住いじゃありませんでしたか。」
「ん、ああ、そうだよ。シケイティオ砂漠の近く。」
「え、それじゃあ家にいた方がいいんじゃないですか?奥さんとお子さんいますし。」
「そうしたいのも山々なんだがな…。仕事を休むと金が入らないし、妻が孤児院の協力者でな、極力金銭面では力になってやりたいんだ。後、あそこには心強い人がいる。」
「心強い人?お前が住んでいる地域で傭兵でも雇ってるのか?」
「いや、いつ越して来たか分からないんだが、いつからか盗賊団やらを追っ払ってくれててな、それでその人とにかく強いんだ。」
「なんだ、俺よりもごつい奴か?解体屋やら素手で引きちぎっちまうような。」
「いや、むしろ逆だ。見た感じでは細身の少女だ。」
「「少女!?」」
リカルドとカイルが大声で叫んだのでその場にいる皆がこちらに目線を向けた。ウィルは気まずくなって咳払いした。
「ああ、そうだ。最初は本当に大丈夫か?と思った。しかし、さっき言った通り強かったんだ。どうやら義手と義足を付けてるみたいでな、射撃、近接、どちらもやってのける。俺もこの目で盗賊を撃退してるのを見たんだ。」
「てことは四肢が無いのですね。なかなか不憫な方ですね。」
「で、そいつの名前はなんて言うんだ?」
「彼女の名前は」
「へっくしょっ!風邪でも引いたかな…。」
「そんなあなたにサービスでジンジャースープはいどうぞ。
『ステノさん』。」




