エバニアの凶兆
エバニアギルド酒場
エナメルでソフィアたちと別れたあと、情報収集のついでに昼飯をとる。
「ビールとオススメ料理を頼む」
カウンターで店主に銀貨を渡しながら、そう言う。ちなみに通常ビールと料理を頼んでも小銀貨2、3枚だ。それなのにカウンターで銀貨を渡す行為は、情報を聞きたいと言ってることと同じなのだ。
ビールと料理を持ってきた店主が、
「それで何をききたいんだ?」
「ああ この国の情勢だな。あとは王城がどうなってるのか、とかかな」
「貴族様たちのことはわからないが、エバニアの衛星国家の一つタミールにギランの衛星国家イラ、ニバとダマンの3国が侵略を開始した。」
「タミールは対西部国家の唯一の要衝だよな。それでこの国は援軍を出してるのか?」
エバニアの西側には大陸を寸断するように山脈が走っている。西側から東側へ行くためには、山脈の切れ目にあるタミールを経由するしかない。
「ああ 他の国の手前、形だけのようだが奴隷部隊を送り込んだらしい。さすがに挽回は難しいらしいぞ」
「おいおい タミールが落ちると、次はこの国なのは子供でも分かることだろ」
「だから グレッグ公爵はギランの工作員なんじゃないかと噂されている」
「確かに、クーデターとタミール侵攻が無関係とは考えにくいよな」
(クレイド伯爵に話を聞く必要があるな。国を乗っ取るのではなく、売り渡すつもりなら、悠長に反撃の機会を伺うわけにも行かないだろう)
礼を言い、銀貨を置いて席を立つ。
緊急性が高いと考え、クレイド伯の執務室に転移することにした。
「おお シン君 待っていたぞ」
「突然の訪問申し訳ございません。街できな臭い噂を聞いた為、緊急性が高いと判断致しました」
「私もグレッグ公が関与していると思うが、推論でしかない。しかしだ、脅威が目の前に迫ってきている現実を考えると、今が決断する時だ。タミールの首都は要塞砦だ。まだ落ちるまで時間がかかろう。それまでに王と王都を取り戻す。」
クレイド伯の作戦はこうだ。
クレイド伯とベルメール伯の密書を、クレイド領やベルメール領にいる副官たちに届ける。
そこで副官たちは領主軍をまとめ上げ、電撃的に王都を攻めるという算段だ。
「本来このような作戦はとりたくはないのだ。
成功しても失敗しても、国の防衛力が落ちるからな。ギランいやグレッグに利するだけなのはわかっておる。」
しかし、これしか作戦はないのだ。とクレイドは苦渋の表情でそう告げる。
「・・・お言葉ですが、その作戦の成功率はかなり低いとかんがえますが」
「ああ その通りだ。しかし今動かなければ、この国は無くなってしまうからな。シン君には悪いが、クレイド領とベルメール領まで旅をしてくれないか」
「・・・わかりました。クレイド領とベルメール領までの旅は承ります。ただし、内容を変えて頂きたい。精鋭をそうですね、60人くらいですかね?王城内を占拠するのに必要な人数ですが」
「シン君その作戦は君にほとんど負担が行くがいいのかね?」
「はい。これが一番被害が少なくなるのではと思いますので。それに成功率も高くなるはずです」
「悪いな」
「いえ 作戦失敗したら、ソフィアに恨まれますからね」
「くくく。そうだなあいつは怖いからな。頼むぞ」
と、さも愉快そうに笑って俺の肩をたたく。俺も苦笑しながら応える。
「お任せ下さい」
その後ベルメール伯とも連絡を取り、密書を預かり両方の領地に届けることにした。
「それでは今日は帰ります。ソフィアたちを家に連れて帰らなければならないので」
「ああ 娘たちを頼む。また今度ゆっくり話をしよう」
薄暗くなったエナメルに転移すると、すぐにソフィアから信号が届く。
「ん?何かあったのか?」
焦りながらも8人が一緒にいることに安堵する。
「あっ 来たよ〜」知里
「おかえり〜」芽衣
「おそい!」ソフィア
「おい 何かあったのか?」
「何も」
と得意げな表情をして偉そうだ。
「よくわかったな」
「フフン、メルちゃんがね感知でシンが帰ってきたことを教えてくれたの」
俺はがっくりとうなだれて
「それでなぜお前が偉そうなんだ」
と突っ込んでしたまった。
(メル何気におそろしい子)