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01.とりあえず利害一致


真朱の色の短髪。


時間が経った血のように暗い朱殷の瞳。


嫌味な位に赤、赤と続いている中の唯一の救いといえば、彼の着ている白の軍服。その装飾品の数々からこの男はそれなりの階級だと思う。


少なくとも尉官以上。


顔を見ると嫌気が差すほどに炎なものだから、ほんの少し下、肩の方に目を向けていると、彼の身体に違和感を覚えた。けれど、そんな事は私には関係がないと首を横に振る。



「貴方。一体何?大体、初対面なんだから名乗るのが常識でしょ、軍人さん」


「ラミス・ロカ。王都デイニタの……少佐だった」



成る程佐官なのね。

つまり尉官より上であり単独で短期間の作戦を実施できることが期待される部隊を指揮する上級士官……のうちの一人がこいつ、と。



「ふーん……佐官なの。村や花畑を燃やしたのは軍の命令?それとも、マナの処刑人としての役割なのかしら?」



花畑は一メールほどの木製の柵で囲まれている。

私は丁度花畑の中の柵に近い所で花の手入れをしていた。一方、こいつは柵より外側で棒立ちしたまま、その身体はピクリとも動かない。

まさか……危害を加えるつもりはない?

しかしそれも実は嘘で、この花畑を再び燃やすつもりなのも考えられる。

どっちにしても狙いが読めない以上信頼する訳にもいかないから、ここは悪役を演じてやるわ。


まあ本当の悪はこいつなんだけどっ!



「……言い訳するつもりはないがそのどちらでもない。その事に対しては謝罪しよう。すまなかった」


「!!」



軽々しく頭をさげたそれに怒りで胸の中が熱く重苦しくなっていくのを感じた。私は柵の外に連なる木々を数本、生き物の形に変化させて男を取り囲ませた。

〝マモリビト〟として覚醒した私は、草花などといった植物と干渉して発生させる特殊能力を使える。これらを使用するには勿論マナを使うが、人間がマナを用いて作ったとされる魔法には属していない。なので念じてから発生までの遅延時間はほぼゼロ。完全に魔法の上位互換な訳だけど、それはこいつにも言えた話なのが非常に腹が立つ。



「君と争うつもりはない。俺は以前より弱くなってる。この腕がその証だ」



危機感ゼロの男は自らの右腕に視線を置いた。

右腕の上腕より先がない。右袖はひらひらと風でなびいている。さっきの違和感はこれね。



「中々にバランスを取るのが難しくてまだ慣れない。戦闘なら尚更だ」


「なら使えばいいでしょ、力を」


「嫌だよ。余計君に嫌われるだろ?俺は君に求婚しに来たんだから」


「……政略結婚的な?」


「違う違う。話を聞いてくれ」


「じゃあ何なのよ!?」



疑うべきは軍による政略結婚だけれど、これも違う。じゃあなんだってのよ。

そろそろ苛立ちを覚えているので早くケリをつけたい所だと思い。木々で作られた生き物達を動かして襲わせてやろうとも思った。でも抵抗しようという様子が全くない事もあり流石の私も仇だから、と言って無抵抗の人間を一方的になぶり殺すの程非情ではない。

政略結婚でなければ一体何なのか。

立場か、金なのか。

この花畑にはマモリビトのマナと大地のマナを十分に含んでいて、ひとつひとつが特別な力を持つ。枯れるか燃やされるかすれば花そのものすら失われる。切られるか引っこ抜かれるかすると花のマナは大地に還らずに花の中で循環し続け、何はそのマナも消えてゆく。

逆を返せばそのままの状態を綺麗に維持さえしていれば特別なマナを含んだものを入手できる。用途は様々。特殊能力を一時的に得るなど、もしくは、何らかの研究材料にする事もできると聞いたことがある。そしてやはり、それは非常に高価で高く売れる。

それが目当て……?



「そ、それは……単純だ。君が好きだからだ」


「全く理解できないわね。私のどこが好きなのよ」


「……そうだな、まずは、銀の髪だ。毛先が僅かに青いもまた綺麗だなと思う」



……この男。よく見てるわ。

確かに私の髪は銀だ。それに、毛先は僅かに青い。事実だがかなりよく見ないと気がつかない……はず。

おまけに桃の瞳の色が花のようだなんていう典型的な口説き文句も平然と口にしてきた。これを言ってもまだ恥ずかしがっても居ない様に私はとても、とても腹ただしい。



「……そう。私は貴方の事が嫌いよ。大嫌い」


「なら……こうしないか? この花畑を狙うの奴らは多い。花畑を荒らす魔物、売り捌こうとする盗賊やはぐれ者の商人……君一人でこの広い花畑を守るのは大変だろう。悪いが、軍の情報網に嘘はない」


「……」



確かにこの世界における魔物は身体を維持させる為に肉を喰らい、養分をそこら辺のマナが通った草花で補っている。特別なマナを含むこの花はまさに魔物達にとっては一級品であり御馳走だ。近場の魔物はよく此処に訪れていざ花を食べんと突進したり、飛んできたりする。勿論それは日々阻止しているのだが、日に日にエスカレートしているような気がしてならない。盗賊やはぐれ者の商人も狙ってくる。中には魔法を使う者もいるから、正直勘弁してほしいのよね。



「俺が柵の外で花畑を狙ってくる奴らをことごとく追い返すし倒すから……一緒に暮らそう」


「いや、それ私はともかく、あんたにメリットあるの」


「あるさ。俺が嬉しい」



気持ち悪い。

単に私がこいつを嫌っているのと、その真意が見えないせいで気持ち悪い。

ただそれでも私にもメリットはあるのは、少なくともこいつは花畑を燃やす意思が見受けられない。

だったら、こいつの私への好意を利用すればこれから随分と楽になる。

……なんて、どっちが最悪なのよ。



「……分かったわ。ただし、少しでも花を燃やしたら殺す。周りの木々も燃やさないで。花にまで燃え移ったら最悪よ。それから私の前で炎は使わないで。後は私から三メートル以上の距離をとりなさい。近づかないで」


「注文多いな……まあいいか。よろしく。フロール」



私は能力を解除させて、木々を元の形に戻し、一先ずはこいつを家に招き入れる事から始まると思うんだけど…。



……何で私の名前も知ってるの?





まだまだ謎なラミス…。



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