3話
「私は《ヤツ》にやられたのです。だからこんな傷を負っている。《ヤツ》が存在しなければ、私はこんなことにはならなかった」
「奴とは誰ですか? 私のことですか?」
俺はくぐもった声の人に尋ねてみると、返ってきた答えはあまりにも抽象的すぎて頭の中でパニックを起こす。
「《ヤツ》とは悪魔のことだ。悪魔が私の身体を奪おうとして、このようになった」
この怪我人さんの表情は包帯で見えないが、俺には関係ないようだったから安心したわ。
口から一息出ると共に、胸をなで下ろした。
けれど、なぜ畑島はこの人を俺に紹介したのだろうか。紹介するということは、俺に知らせたいというのに等しい行為だ。畑島は何を知っているんだ? 知っていることを全部吐いてほしいくらいだ。
「では神楽さん。彼の隣へ行きましょうか」
畑島は神楽さんの車椅子の持ち手に手を置き、前へと進めていく。
小さな車椅子が俺の隣に置かれて、血まみれの神楽さんは俺の方を指差した。
しわしわの指からは血が滴り、その血は俺の服にベトリと付着する。
そこからは異様な臭いが漂ってくるのだが、自分の加齢臭によって一瞬でかき消された。
というよりは、血が蒸発したと言った方がよいのかもしれない。
「やはりそうか。お主は私に取り憑いた《悪魔》のようだ。よって、この場で排除する」