1話
悪魔好きな方や考えるのが好きな方は
読んでください。
ちょうど6時40分を時計の針が指した時、俺は椅子に座っていた。
目の前にはちょびひげを生やしたごつい顔つきの男が鼻を鳴らして、こちらをにらみつけている。
俺はその男を凝視したけれど、自分がどうしてここにいるのか分からない。
俺が何をしたというのだ。ちょっと考えてみるのだが、やはりこうなった原因は不明である。
「はけ! 吐くんだ」
と男はかすれた声で怒鳴るのだが、俺はキョトンとした目で彼を見つめる。
俺は犯罪なんかした覚えはないし、ストーカーをした覚えもない。
ましてや喧嘩すらしたことのない俺が、犯罪者になどなるわけがない。
いやまてよ。ここは警視庁もしくは地方警察署じゃないのではないか。
ただ呼び止めて、就職口を聞こうとしているのかもしれない。
だから俺は、自分の就職口を考え始めていた。
しかし自分はどんな仕事をしていたかも思い出せない。
「ずっと黙ったままか。畑島、お前にお願いする」
男はため息をつきながら頬に手を当てて、紙のようにかすれた声で1人の男を見上げる。畑島と呼ばれた痩せ細っているメガネの男はコクリと頷き、今目の前にいるこのいかつい男とすぐさま交代した。
「裕太さん、あなたは本当に犯していないのですか」
と畑島は座った後に尋ねてくる。その声は俺の声とすごく酷似しているように聞こえるが、あまり気にしなかった。
「犯してはいません。それに私は犯罪などを犯せない人間です。喧嘩もしたことはありませんから」
「……なんのことをおっしゃっているのですか? 犯罪を犯したかとは言ってないじゃないですか」
「……えっ!?」
俺は畑島のこの言葉で戸惑った。「犯す」と聞けば誰でもそちらの方を思い浮かべるではないか。間違っていることなどあり得ない。こいつはいったい何を考えているんだ。
俺は頭を抱えながら畑島の澄まし顔を凝視し続けたけれど、答えは一向に分からぬ。