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牧場国家「日本」

作者: 神林 醍醐郎

◯牧場国家「日本」



僕は羊


牧場国家「日本」に生まれた


僕には 仲間がたくさんいて


放牧先で 草を噛んでる



僕らは 草を噛みながら


いつものように 愚痴り合う



「毛を刈られちゃって 肌が寒い」



「そんなのマシさ


 僕の友達は 足を怪我したんで


 首を切られて 食われちまったよ」



「人間ってのは たちが悪いね


 僕らから 奪うばっかりで


 何も与えてくれやしない」



不満を口々呟いて 日向に寝そべり 欠伸する


そうするうちに 日は暮れて


牧羊犬が現れる


人間様の飼い犬は 盛んに吠えて 大威張り


僕らは 牧場へ追い立てられて


背後で 柵が閉じられる



「こんな暮らしは うんざりだ」



星のまたたく夜空を見上げ とある仲間が唾を吐く



「俺は ここから逃げ出すぞ


 柵に囲まれてはいるが


 見てみろ あそこの一カ所だけは


 板が腐って 緩んでいる


 自由を求めて 行こうじゃないか」



この若者の 後を追い 数十匹が逃げ出した


かく言う僕も 柵を抜け 牧場国家を脱け出した



さて 夜は明けて 日が昇り


僕らは ようやく足を止め


小川で喉を潤した


顔を上げれば 見渡す限りに 緑の草原


後ろを見ても 追ってくる 犬の姿は見えなかった



「やったぞ これで自由だ


 もう毛を刈られることはない


 首を切られて 食われることもない


 うるさい犬に 追いかけられることもない


 俺たちは自由だ」



皆が皆 喜んで 勝手気ままに草を噛み


暖かい草地に寝転んで 鼻歌なんぞを口ずさむ


そんな至福のひとときを 遠吠えひとつが終わらせた


牧羊犬の叫びとは 似てはいれども 違うもの


見れば 汚れた狼が 群れなし こちらへ駆けてくる



僕らは慌てて逃げ出した


てんでばらばら 散り散りに


仲間のことを思うような 余裕は一切存在しない


かえって 誰かが捕まれば 自分は助かるかもしれない


そんな思いを抱きつつ 僕らは必死に逃げ惑う


狼たちは執拗で その上 群れは一つでなかった


一つの群れを振り切れば 別の一派が現れて


僕の仲間を次々と 引き倒しては 殺していった


気づけば 残るは 僕一人


狼たちに追われつつ 向かう先には 牧場国家



足がもつれ 諦めかけた その時に


牧場国家の策越えて 牧羊犬が飛び出した


たった一匹 その犬は 狼たちに立ち向かう


吠え声立てて 飛び跳ねて 狼たちを怯えさす


そうするうちに 人間が 鉄砲担ぎ 現れて


空砲 一発 轟かす


狼たちも これには挫け 尻尾を巻いて 逃げていった



「食われなかったのは お前だけか」



人間様は しかめ面 僕を睨んで 溜息を吐く



「羊ってやつは どうしてこうも 馬鹿なんだ


 大人しく 飼われていれば いいものを


 進んで 死ににいきやがる


 そんなに 食われたいのなら


 今夜の飯にしてやろうか」



こんな具合に言われても


逃げ出す気力は もう無くて 尻を押されて 柵に入る


柵の中では 残った仲間が 蔑みの目で 僕を見ていた

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― 新着の感想 ―
[良い点]  表現に工夫がなされていて面白かったです。現代の生き辛さと汚なさが牧場という形で風刺されていて共感できました。 [気になる点]  特には。 [一言]  こういった作品を読むたびに、世の中の…
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