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序章「旅の始まり」

小説を書くのはこれが初めてとなります。

お見苦しいところが多々あると思いますがどうか最後までご覧ください。

異世界はお好きですか?

僕は嫌いです。




「ねえ、新くんは異世界って信じる?」


昼食中近くの席で食事をしている友人、無頭 薫は突然支離滅裂な質問を俺にした。


「突然だな?異世界か......。」


そもそも異世界とはなんだ?


よく薫や隼人が読んでいる所謂『ラノベ』では定番だと2人から聞いたが俺はこの手の話題についてひどく疎い。


「よくわからない。」


安直な答えになってしまったがまあいいだろう。


及第点といったところか。


「で?どうして急にそんな質問したんだ?」


「いやいや〜なんとな〜く。聞いて見たかっただけだよ〜。」


そう言って薫は玉子焼きを口に運んだ。


「それにしても今日はいい天気だねー。」


窓の外を見ると確かにいい天気だ。


雲一つない快晴で遮る物のない太陽はいつにも増して燦々と輝く。


ん?


空の先に何か見える。


なんだあれは?


俺の視力ではよく見えない。


「おい、薫。」


「ん、どしたの?」


「あれ、見えるか?」


俺は薫に分かるように空の先にあるものを指差す。


「んー、飛行機みたいだけど....どうかした?」


そうか、飛行機か。


だが問題はそこではない。


「アレ、近づいてないか?」


「まっさかー。」


薫は冗談気に笑っているが俺は笑えない。


今確信した。


間違いない。


あの飛行機は近づいている。


黒煙を上げながら。


それにしてもなぜだ?


なぜ誰も気づかない?


飛行機がすぐそこまで近づいているんだぞ?


普通なら映画みたいに叫んだとしても良いはずだ。


それなのになぜいつもと同じように過ごしている?


お前らはイかれてんのか?


「おっしゃ、サッカーやろうぜ。」


前言撤回だ。


お前らはイかれてる。


「おい!みんな!!早く避難しろ!!飛行機が落ちてきてこの学校に当たる!!!」


「はぁ?何言ってんの?」


「西野ォ、勉強のしすぎだぞー。」


「あれ?でも....」


何人か飛行機に気づいた奴もいるがダメだ。


ほとんどの奴らが信じてない。


まずい。


このままだとマジで全員死ぬ。


「全員!!!外を見ろ!!!!」


その場にいる全員が怪訝そうな顔で外を見た。


「あれ?あの飛行機なんかヤバくね?」


「煙でてんじゃん。」


「ねぇ、先生呼んで。」


そうだ。


先生を呼べば....


「あれ?開かない.....。」


先生を呼びに行こうとした女子生徒が扉の前でもたついている。


しかも「扉が開かない」という絶望的な言葉を発しながら。


「ちょおまw流石に開かないことないだろ〜。」


今度は年中チャチャらしてる釘那が扉に近づく。


「この教室で半年も学生してんだ...ぜ!!」


「ぜ」の言葉とともに扉を強く開けようとするが扉はビクともしていない。


「あっれ〜なんだコレ?」


釘那の顔は以前笑ったままだがその半笑いのポーカーフェイスには焦りのふた文字が浮かんで見える。


「ね、ねぇ!飛行機ヤバくない!?結構近いよ!!」


この女子の発言とともにクラス全体に一斉に緊張が走った。


女子たちは叫び、男子たちは必死に扉を開けようとした。


飛行機はもう目と鼻の先にある。


「どけぇぇ!!!おまえらぁぁぁ!!その窓ぶっ壊す!!!!」


男子生徒が椅子を持ったまま叫んだ。


「うおおおおおおおおおおお」


その男子生徒は廊下側の窓に椅子を思い切りぶち当てた。


何かが壊れる音がした。


「よぉぉしぃぃぃぃ!!!!これで窓はぶっ壊れたぁぁぁ!!!」


しかしぶっ壊れたのは窓ではなくその男子生徒が持っていた椅子だった。


「馬鹿な.....」


自身の策が全くの無意味であったことに男子生徒は深く落胆した。


「この調子だと教室からの脱出は不可能みたいだね。」


ようやく薫が口を開いた。


「『不可能みたいだね』じゃねぇよ。どうすんだ?このままだと全員死ぬぜ?」


「ハァ」と薫はため息をついた。


「校庭を見て。誰もいないだろう?」


薫の言う通り校庭には誰もいない。


「それがどうしたんだ?」


「つまり教室に閉じ込められているのは僕たちだけじゃないってことだよ。

いま教室にいない生徒たちもきっと食堂だったりで僕たちみたいに閉じ込められているんだよ。

もちろん先生たちもね。」


なるほど。確かにそれについては納得できた。


だが


「それがどうした?」


『飛行機が近づいてくる』『教室から出られない』この二つの問題の解決には一切なっていない。


「『それがどうした』か。そうだね。死ぬときはみんな一緒だよということだよ。」


薫は誇らしげにそして自慢げに言った。


「おい!諦めるな!何か策があるはずだ!」


薫のイチゴ牛乳を強奪し、糖分を取り頭を働かせる。


「あっ、僕のイチゴ牛乳.....。それと別に諦めてるわけじゃないんだよ?策もないこともないんだよ?」


「あるなら先に言ってくれ!」


「でもこれは酷い賭けになるよ?それでもいい?」


「何もないよりマシだ!!」


「わかった。それじゃあみんなにも聞いてもらおう。」


そう言うと薫は席からたち黒板の前に立った。


「生き残りたい人は聞いてくれー。」


クラスの視線が一斉に薫に集中した。


「生き残りたい!助けてくれ!!」


「うるせぇ!俺が生き残るんだ!」


「いやよ!死にたくない!」


「俺今だから言うけど実はホモなんだ。」


クラスの友情にヒビが入る瞬間と恐ろしいカミングアウトの瞬間を見てしまった気がする。


「どうどう。静粛にー。」


薫が教室を静める。


「えー、ざっくり説明するとこの教室を密室状態にしている見えない何かに盾になってもらおうと思います。詳しく言えb.....


教室は数秒の沈黙のあと再び先ほどの地獄絵図状態を取り戻した。


薫は呆れたという顔で自分の席に着いた。


「全然駄目じゃねぇか!」


「だから言っただろ?酷い賭けだって。」


確かに薫は『酷い賭け』と言っていたが.....


『その策』についてではなく『その策』を『聴くものたち』についてだとは思いもしなかった。


この教室を囲っている見えない盾。


盾の強度は既にここにいる全員が理解している。


椅子を思い切り当てても壊れない程度の硬度、果たして飛行機の衝突にも耐えられるか?と聞かれたらいい返事はできないがこの策を信じるぐらいしか生き残る方法はないだろう。


「いや〜、みんなおかしいね。殴り合いまで始まっちゃったよ。僕の言った案についてはもう記憶の片隅にもないんじゃないかな。」


「気にするな。人間結局自分のことしか考えてないってことだ。」


「......そうだね。さて飛行機激突まであと数分.....。もしかしたら人生最後の時間になるかもしれないけどどうする?君も彼らみたいに自暴自棄になる?」


薫はその自暴自棄になった彼らに目をやる。


暴力、強姦、読書、破壊、各々が好きなように好きなことをしている。


その姿はまるで自身の欲に忠実な獣のようだ。


他のクラスでも同じようなことになっているのだろう。


醜いな、人間は。


「いや、よしとくよ。俺はお前と談笑でもして死ぬとするさ。」


「そうかい。じゃあ軽く話そうか。」


もし次目が覚めたらそこは天国か地獄かわからないがこんな心の底から笑い合える友とまた会いたいものだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


『本日午後一時半ごろ青天市に飛行機が落下する事故が発生しました。この事故での死者は...落下した場所では........


男は不愉快きわまりなとでも言いたげな顔でモノクロのテレビの電源を切った。


「つまらない。なんてつまらないんだ。これはテレビだぞ?もっと視聴者が興味を持つような番組にできないのか?仮にも君たちの創造主が視聴しているのだぞ?おい、わかっているのか人間?」


男は虚無に向かって問いかけた。


無論返事が来るはずもない。


「まったく...それにしてもいったい何人あちらに飛ばせば気がすむというのだ?私は運送会社ではないというのに.......。」


男は席を立ち横たわる少年に声をかけた。


「起きろ少年。君は仮にも創造主の前にいる。不敬であろう。」


しかし少年は目を覚まさない。


「起きろと言っている。聞こえないのか?ならば実力行使だ。」


少年の腹部に重い蹴りが入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


誰か.....呼んでるのか?


うるさいな....


それしても偉そうだな....


何様のつもりだよ.....


疲れたな.....


このまま眠ってしまえばどれほど楽だろうか.......


意識が深淵に向かう中重い痛みを腹部に感じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うわぁぁぁ!!」


飛び起きて辺りを見回す。


ここはどこだ?


辺り一面何もない白。


目の前には黒いデスクとひと昔前のテレビ...


少し前まで薫と話していたが......


それより飛行機は!?



胃の奥から熱い何かが込み上げて来る。


「う...オェ......」


込み上げて来る何かを必死に抑え嗚咽する。


「悪く思うな。お前を起こすにはこれぐらいがちょうどいいと思ったんだ。」


背後の声に視線を向ける。


しかしそこには誰もいない。


「誰だ!!?」


「神と言った方がイメージがつきやすいか?」


どこからともなく聞こえる声に戸惑いながらも質問する。


「ここはどこだ!?他の奴らは!?お前には聞きたいことが山ほどある!悪いが答えてもらうぞ!!」


「ほぅ。面白い。」


神というやつは『意外だ。』とでもいう風に俺を笑った。


「お前が初めてだよ。この俺にここまで偉そうに接してきたやつは。」


「どういう意味だ?俺以外にもここに人がいたのか?」


「ああ。そうとも。ここには君以外にも人がいた。彼らは皆、困惑しながらも敬語で話してくれたというのに.....

まったく...君というやつは.....」


神は深いため息をついた。


なんてめんどくさいやつなんだ。


こんなのが本当に神でいいのだろうか?


「チッ.....わかったわかった。わかりましたよ!敬語で話しますよ!」


この状況で相手を不快にするのは良くないと俺は判断し、ゴマをする方針で話を進める。


「おお!そーかそーか!敬語で話してくれるのか!では君の質問にドシドシ答えよう!」


俺の手のひら返しに疑問も持たず神は満足げに受けの体制に入った。


「じゃあまず質問だ....質問です。」


敬語に慣れていないわけではないがこいつに敬語で話すと自分のリズムが崩れる。


はっきり言って不快だ。


早急に質問を終わらせよう。


「ここはどこなんですか?」


俺はさっきまで確かにあの高校にいた。


まず確かめるのは自身の置かれている状況の確認だ。


「いい質問だ。そうだな.....ここは.....天国と地獄の狭間....とでも言っておこうか。」


「そんな非科学的なことを俺が信じると?」


俺は虚無を睨む。


「そんな顔をするな。しかしお前を信じさせる証拠をここにはない。だからお前はこの事実を信じるしかない。」


「はぁ。仕方ないか......。」


「次の質問はあるか?」


神の語気からどこか楽しげな雰囲気が漂う。


こいつ....楽しんでるのか.....?


「じゃあ質問です。俺は元の場所に帰れるのか?」


さっきの質問の回答から俺は天国と地獄の狭間にいることがわかった。


このことから今の俺は少なからず『生』よりも『死』に近いことがわかる。


「そうだな.....ムリだ。」


「な!?」


ムリだと!?


ふざけるな!


「どういうことだ!?」


「そのままの意味だ。ムリ。」


違うそうではない。


俺が聞いてるのは『なぜ』ムリなのか、だ。


「これを見ろ。」


目の前のテレビに電源がついた。


流されたニュースは青天市に落下した飛行機に関してだった。


「見ての通りお前はこの事故で死んだ。そしてあっちの世界のお前の体はすべて消し飛んだ。ないものを蘇らせることはできない。だからムリだ。やろうと思えばお前......『西野 新』を作ることはできる。しかしその『西野 新』はお前じゃない。お前の姿をした精巧な偽物に過ぎない。1パーセントでもお前の体が残っていれば話は別だが.........」


目の前の世界の色が抜け落ちていくのがわかる。


体の力が抜ける。


死んだ?


俺が?


嘘だ。


「じゃ、じゃあ!他のみんなは!?」


薫に隼人、それに他の奴らは!?


「わかりきったことは聞くな。お前もわかっているんだろう?」


神は呆れたと言った風に吐き捨てた。


テレビの画面に目を向ける。


死者は1000人超え。


落下地点の青天高校の生存者は5名。


その5名も重体で現在治療中。


落下地点


青天高校


生存者


5名


死者


1000人


血に染まった数字と現実にようやく絶望を理解した。




誰かが叫んでいる。


誰だこの男は?


男は泣いている。


何かを直視した後のようだ。


自分から最もかけ離れていてすぐそばにある『現実』。


彼はそれを見てしまったのだ。


誰とも知らぬ男が泣いている。


なんだ、俺か。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


気がつくと体に毛布がかけられていた。


誰がやったんだ?


神か?


「まったく、話の途中で気を失うやつがあるか!」


またも神の声がどこからともなく聞こえる。


「どういう意味だ?」


「お前のお仲間たち....全員とまではいかないが、今も生きている。

無論、現実世界以外でな。」


少し寂しげに神は呟いた。


「俺もそこに連れていってくれ!」


「まぁ待て。....お前は命を賭ける覚悟はあるか?命を守る覚悟はあるか?命を守るために命を奪う覚悟はあるか?これからお前が行く世界は神である俺も手出しが出来ない無法で自由で幻想的な世界だ。」


なんだ?


手が震える。


恐いのか?


いや違う。


これは.....


「竜が火を吹き戦士が舞い雷の降る冒険の世界。お前に覚悟はあるか?」


拳を握る手に力が入る。


なんだ?


さっきまでとは心情がまるで違う。


俺はショックでおかしくなったのか?


もしかしたらそうかもしれない。


でなきゃこんなにワクワクしているはずがない。


「だいぶ落ち着いたようだな。その顔が何よりの証拠だ。冒険心に心を奪われた愚かな少年のようだ。見ているのがなんだか滑稽に感じるよ。」


パチンと誰かが指を鳴らす音がした。


白い世界に対極な黒い扉が現れた。


「これは.....?」


「お前の求めるあちら側の世界への扉だ。進みたければ進め。止めはしない。」


神は無機質に言い放った。


俺はドアノブに手をかける。


緊張のせいか力がいまいち入らない。


まだ震えている。


「おっと、その前に大事なことがあった!」


神は何かを思い出したかのように俺を呼び止めた。


「なんだよ....。」


「ほんとお前は神に対して図が高いな?まぁいい。」


いいのか.....


「あちらの世界で早々にくたばってもらっては困るからな。俺からのささやかな祝福を授けよう。」


黒い光が俺の胸を刺した。


「ガハッ!?」


ゴポリと鮮血が溢れ出す。


「てめ....なんの....つもりだ!?」


「言っただろう?ささやかな祝福を授けるって?祝福だよ。祝福。」


出血箇所を手で押さえる。


「驚いた.....神様ってのはこんな文字通り出血大サービスの祝福をしてくれるんだな!?」


強気で言っているがかなり痛い。


少しではあるが視界も霞む。


「喜んでもらえて何よりだ。その喜びこそが俺の原動力になる。

さて、旅立ちの時だ。その祝福に関しては先に言ってる奴らが手取り足取り教えてくれるだろう。」


神の声とともに黒い扉が開いていく。


扉の先は底の見えない闇だ。


この先に本当に冒険が待っているのか怪しさしか感じない。


「それより教えろ!あのとき学校の扉はなんで開かなかった!?」


「その質問はお前で2回目だ。」


2回目?


俺より前に来た誰かもこの質問をしたということか?


「その質問に対しての答えは今は言わないでおこう。しかしいずれ知ることになる。あの事件の犯人も。お前たちがなぜその世界にいるのかも。

ではせいぜい悠久の日々を楽しみたまえ!」


俺は見えない何かに押され扉の先の闇へと突き飛ばされた。


あの野郎。


次会ったら絶対ぶん殴ってやる。


覚えてろ!


「クソ神!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まったく.....手のかかるガキもいたものだな。」


神は一息つき自身の席に着いた。


「『クソ神』、か.....。そんなこと言われたのは久しぶりだな.......。

さて、ココアでも飲んで一眠りしますか!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ッッ!!」


ここはどこだ?


あのクソ神に突き飛ばされたところまでは覚えている。


辺りを見回す。


人はいない。


ここは....草原か?


正確には草原の近くにある道だが。


俺の知っている限り日本にこんな場所はない。


となるとここがクソ神の言っていた世界か?


うーむ。


あいつが言っていた冒険心をくすぐるような場所には見えないな。


のどかな草原が広がる田舎道。


これのどこが冒険の世界だよ。


しかしふと気付く。


「いや、いきなりそんな場所に出なかったのは幸運か?」


たしかに冒険したいのは山々だが、いきなりドラゴンと戦ったりするのはどうあがいても無理だ。


こういう『始まりの草原』的なRPGのチュートリアル的なステージでは何をするのが正解なんだ?


くそッ!


薫や隼人がこういうの詳しいんだよな!


俺も少しぐらいはかじっておけばよかった!


だが俺にもわかることぐらいはある。


まずは人との接触を試みる。


見る限りこの道は何かが頻繁に通っている。


車?


いや、馬車か?


しかし考えていても仕方がない。


道なりに進もう。



頭に友人たちの姿が浮かんだ。


いや、あいつらなら心配いらないはずだ。


俺が思っているよりもあいつらはしぶとい。


きっと生きてるはずだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


道なりに歩くこと.....


俺は腕を見た。


腕時計がない。


しまった。


『これでは道なりに歩くこと○○分』というよくあるあのシーンが再現できないではないか!


「はぁ。」


落胆のため息が漏れる。



背後から何かが近づいて来る。


この音、人ではない。


この音は.....馬車か?


背後を向くと馬車が走ってこちらに向かって来る。


おぉ。異世界初のコミュニケーションが今始まるのか!?


馬車を操縦する御者は俺に気づき馬車を止めた。


悪いがこの人で色々と試させてもらおう。


「おい、若いの!どうした?こんなとこで。」


馬車を止めた中年の小太りの御者は笑顔で俺に尋ねた。


日本語だ。


いやこの世界だと日本語とは言わないのだろうか?


とはいえ言葉が同じことに安心した。


もし訳の分からない言葉で話して来たら俺はこの人を殴って逃げていただろう。


ああ。おれはそうする自信がある。


「おい、若いの。なにボーッとしてんだ?」


御者は馬車から降り俺にデコピンした。


「アイタッ!すいません。久しぶりに人に会ったので少し感動していました。」


とっさの嘘だが我ながら酷いな。


「そうか!そうか!するとアンタは旅人かなんかか?」


なるほど.....旅人か。


それならなんとか話を合わせれそうだ。


「はい、そうなんです。それで食料を盗賊に奪われここらを彷徨っていたらあなたに会ったという訳です。」


「そうかい。そりゃ災難だったな!で、お前さんよかったらこの先まで送っていてやろうかい?」


「この先?」


「あぁ。この先のフィルナ王国だ。なんでも王様がひどく寛容らしくてな、隣国でも評判の国なんだよ!どうだい?乗ってくかい?」


評判の良い国か.....


今俺の考えた『安全異世界生活憲法』は安心安全が第一だ。


それに則るとこの国に行くのは決定事項となる。


問題はこのおじさんの馬車に乗るかどうかだ。


別にこのおじさんが怪しいと言っているわけではない。


むしろ善人のオーラがプンプン出てる。


道端でお金を拾ったら交番に届ける。


それぐらいの善意を彼からは感じる。


しかしここは異世界。


今までの常識が到底通用するとは思わない。


そもそも見ず知らずの人の馬車に乗るなんて正気の沙汰ではない。


しっかりしろ西野 新!


小学校の頃習っただろう!?


『イカのおすし』だ!


しかしその国まではどれくらいかかるんだ?


それによっては『イカのおすし』を今回ばかりは無視することになるかもしれない。


「すいません。」


「お?どうした?」


「その国までは歩いてどれくらいかかりますか?」


「そうだな.....一週間ぐらいだ!」


「馬車に乗せてください!」


俺の中の『イカのおすし』が一瞬で消え去って行くのがわかった。


ありがとう『イカのおすし』。


君のことは忘れない。


「よし、じゃあ乗った乗った!早くても明後日の昼頃には着く!それまではねんねしときな!」


おぉ.....なんだこの人。


ハンドル握ると人が変わるタイプの人か?


「せいっっ!!」


御者の掛け声とともに馬車は走り出した。


馬車に乗るのは初めてだが案外心地いいものだな。


俺は荷台で荷物とともに揺られた。


しかし2日か。


案外かかるものだな。


...........


母さん元気ですか?


俺は元気です。


俺はどうやら今非現実にいるようです。


母さんのいる天国も同じようなものですが.......。


この世界だと今は何月くらいなのでしょう?


ほのかに香る甘い風が頬を撫でます。


俺は一体なぜ馬車で揺られているのでしょう?


母さんに会うのはまだ先になりそうです。



そして長くも短い旅は幕を開けた。



異世界はお好きですか?

僕は嫌いです。










「異世界はお好きですか?僕は嫌いです。』を最後までご覧いただきありがとうございます。

この作品は皆様からのコメントや評価を見た上で今後続編を作るかどうか考えさせていただきます。

自身の文章力の向上のため日々精進していきたいと思います。

本日はありがとうございました。


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