第6章 船出
あたらしい船出は順風満帆だった。
最初に任された取引先の通訳は簡単に終わった。もうほとんど、2社間で合意が取れていたようで、今回はその最終調整ということだったらしい。
上司の山口さんからは褒められた。
「いや~ほんとうに助かったよ。ありがとう。しっかし、英語上手いね。びっくりしたよ。帰国子女とか?」
「海外には1回もいったことないんですよ。家に立てこもって、覚えました」もう、無駄に取り繕う必要もない
「なんじゃそりゃ(笑)」
「引きこもり留学です」
とりあえず、1か月の試用の後、正式に採用という形となった。ついに、2度目の奇跡はおきたのだった。
その間、大なり小なり問題は起きたが、なんとか乗り越えることができた。上司の付き添いで、はじめて海外にもいった。ドラマでみたことがあるような街並みや料理にテンションがあがった。
本場でも、なんとか自分の英語が通用して安心した。得意先から、「こっちの生まれ?」と聞かれたので、もう自信満々だった。「いえ、ニート出身です」とどや顔で答えてしまいそうになった。
考えてみるとなかなか海外出張先で、転生するパターンは少ないはずだ。ここは、天国かもしれない。上司の前でにやつきながら、そんなふうに考えていた。
いま、おれは28歳になった。だいたい、転生するパターンは10代から30代前半と相場が決まっている。つまり、あと数年ぶりであれば、転生する危険性はかなり下がるのだ。ここが正念場である。
多くの転生者には、だいたい共通性がある。
① 学生かニートかフリーターか社畜(10代後半から30代前半まで)
② リアルが充実していない
③ 恋人がいない
これがおれの考える転生3大条件だ。もちろん、勇者の才能を生まれつきもっていたり、料理技術がプロ級とかだったりの諸条件もあるが、そんなものおれにはない。幸運なことに、今の職場は労働管理がしっかりしているので、①はクリア。②もアニメや仕事仲間との関係がうまくいっているので回避できているはずだ。
そう、だからこそ③の条件をクリアしなくてはいけない。
「恋人を作らなくては」
史上最大の難問だった。