第30章 最終回 転生をきみに(後編)
前回のガールズサイドです。
「実は、この前言った大事な話なんですが……」
彼はついに口を開いた。ついにきた。いつ来るのかひやひやしながら、待っていた。美味しいごはんも少し味がわからなくなっていた。
「ハイ」
わたしは震えた声になる。
「じつはですね」
「はい」
わたしの心臓はすごい音をたてている。
「今度、急に自分が海外転勤することになりまして」
彼の言葉は、わたしの予想とは違っていた。
「えっ」
突然のことで、よくわからない声を出してしまう。
目に涙がたまる。
「どのくらい、行くんですか?」
震えながら、わたしは聞く。
「アメリカに1年です」
「1年ですか」
わたしは下を向いた。泣いちゃだめだ。泣いちゃだめだ。必死に自分にそう言い聞かせる。
アメリカ。1年。会えなくなる。せっかく、こんなに好きになったのに。ここで終わりなのかな。
「それで、出会ったまだ間もないのに、こんなことを言うのも早いと思うんですが……」
わたしの予想に反して、彼は言葉を続ける。
「えっ」
もうなにがなんだかわからない。混乱した頭で、わたしは彼の言葉を待つ。
「お付き合いを前提に結婚してください。そして、一緒にアメリカへ来てください」
「えっ」
最初はなにをいっているのかわからなかった。
周りの人がクスクス言っている。そうか、これはプロポーズなのか。
でも、普通、逆じゃないか。なんで、お付き合いをふっ飛ばして、結婚なんだ……。
真面目に考えたら、どんどんおかしくなってきた。
おもわず笑ってしまう。本当に達雄さんらしい。大事なところでずれている。
でも、そこが大好きだ。彼ともっと一緒にいられる。言い間違えだったとしてもそれだけで十分だ。最高に幸せな言葉だった。
「もう、達雄さん。何言ってるんですか?」
少し意地悪をしてみる。これくらいはいいだろう。
「ですよね。酔っちゃったかな。本当にすいません」
少し泣きそうな声で彼はそういった。本当ですよ。なんでプロポーズという大事な場面でそんな変なこというんですか。そして、わたしは本心を伝えた。彼の口癖をまねて。
「はい、喜んで」
レストランを出て、わたしたちは近くの公園を散歩していた。
言葉は少なく、ただ手を握ってブラブラしている。
指と指が絡み合い、お互いの体温が伝わってくる。本当にあたたかい。
「ひどいですよ。達雄さん。あんな大事な場面で、あんなひどい言い間違えをするなんて」
「本当に面目ありません」
「本当です」
そこでふたりは同時に笑い出した。
「だから、その分、幸せにしてくださいね。一生の借りですよ」
「ハイ」
彼は情けなくいう。
「あとこれは、わたしからの仕返しです」
「えっ」
口と口が触れ合う。わたしからの精一杯の仕返しとプレゼントだった。
「これからずっと一緒ですね、達雄さん」
最高の一日だった。
あと1話だけ続きます。




