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第30章 最終回 転生をきみに(前編)

「待ちましたか?」

沙織さんは時間通り、来てくれた。

夕暮れ時、まちがすべて赤く染まっていた。


「いえ、今来たところです」

嘘だ。本当は時間休を使って早く来た。

沙織さんのスーツ姿もとてもかっこよく、かわいかった。


「よかった。うん……」

「どうしました?」

「いや、スーツ姿の達雄さんも、なんか新鮮だなと思って」

「お見合いの時もスーツだったじゃないですか(笑)」

「あの時は、緊張していて、あんまりじっくり見ることができなかったから(笑)。かっこいいですよ、本当」

「(グハ)」

悶えそうになるのを抑える。

「ありがとう、ございます。沙織さんもすごくかわいいですよ」

「もー、恥ずかしいですよ」

彼女の顔も真っ赤に染まった。


「じゃあ、行きましょうか」

恥ずかしさをかくすために彼女は早口でそういった。

「はい、よろこんで」

「もうまた」

「つい癖で(笑)」


おしゃれなイタリアン。

課長にごちそうしてもらった、コースを注文する。


「乾杯」

ワインをふたりで飲む。幸せな時間だ。これを永遠のものにする。それが今回の目標だ。


「本当においしいですね。このお店!」

沙織さんは上機嫌にそういってくれた。

サラダに、スープ、パスタ、肉料理、デザート。全部が最高だ。


デザートのパンナコッタを食べ終わると、ふたりの会話は少しずつ少なくなる。

あとは、本当のメインイベントだけだ。


「実は、この前言った大事な話なんですが……」

「ハイ」

ふたりとも緊張した顔になる。

「じつはですね」

「はい」

「今度、急に自分が海外転勤することになりまして」

「えっ」

彼女の顔がこわばる。

少し泣きそうな顔だ。

「どのくらい、行くんですか?」

「アメリカに1年です」

「1年ですか」

彼女は下をむいてしまう。


「それで、出会ったまだ間もないのに、こんなことを言うのも早いと思うんですが……」

「えっ」


おれは人生で一番緊張していた。さっき飲んだ赤ワインのおかげで、まだなんとか正気を保てている。そんな感じだった。


生涯最初で最後。今までの思い出がフラッシュバックでよみがえる。転生拒否、がんばった就職活動、辛かったブラック企業、狂ったように勉強した感謝の英語勉強12時間。舞い降りた天使。最高のデート。安西先輩のエール。


もうなにがなんだかわからなかった。

自分の純粋な気持ちをぶつけるだけだ。これで、失敗したら転生だ。もうどうにでもなれ。


「お付き合いを前提に結婚してください。そして、一緒にアメリカへ来てください」

言った瞬間、酔いが一気にさめた。

おまえは何を言っているんだ。違うだろう。そうじゃないよ。順番が違う。

「結婚を前提にお付き合いしてください」と言おうしたのに、大混乱して自爆してしまった。

カモン、転生トラック。もう、いっそ転生させてくれ。

周りのお客さんもクスクス笑っている。終わった。さらば、現世。こんにちは、異世界。


沙織さんもクスクス笑い始めた。

「もう、達雄さん。何言ってるんですか?」

彼女は笑いをこらえている。

「ですよね。酔っちゃったかな。本当にすいません」

「はい、喜んで」

おれの口癖だった。でも、声はかわいい女の人の声だった。


「えっ」

「だから、さっきの変わったプロポーズの答えですよ。達雄さん」


まわりのお客さんから拍手が鳴り響いている。

人生最高の瞬間だった。


「幸せにしてくださいね。達雄さん」

「はい、喜んで」

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