第29章 本望
ついに覚悟を決めたおれは、沙織さんにメッセージを送る。安西先輩は言っていた。
「諦めるな」と。
おれは、今まで一番欲張りになるつもりだ。生涯最後になるかもしれない。これに失敗して、転生するかもしれない。でも、そうだってかまわない。それほどまでに、おれは彼女のことが好きだった。心境は、すべてを悟った状態だ。
「本望」
おれは大声で覚悟をきめた。そして、メッセージを送るために、スマホでメッセージを書く。
「こんばんは!達雄です。このまえ、言っていた食事の件ですが、明日か明後日でどうですか?」
まずは、確実に。しかし、大胆に。
すぐに携帯が鳴った。
「こんばんは! いいですね。明後日なら早く仕事が終わると思うので、どうですか?」
即レスだ。とてもうれしかった。
「では、明後日で。この前と同じ駅前で、待ち合わせでいいですかね? 場所はイタリアンとかでどうですか? 」
課長に前に連れて行ってもらったお店だ。いつものように飄々と「デートならこういうお店がいいよ~」なんていって、教えてもらったから大丈夫なはずだ。
「イタリアン食べたいです! 楽しみにしてますね」
彼女はかわいらしい顔文字とスタンプを送ってくれた。
「可愛すぎる」おもわず、口から声が漏れていた。
おれもすぐに返信する。
「自分も楽しみです。あと、大事な話があるんです。ご飯の時、話すので聞いてください」
しれっと、大事な話をすることを告げた。
「わかりました。そちらも楽しみにしてます」
今回も即レス。彼女もだいたいはわかってくれているようだ。
短いんだけど、すべてわかったかのような文面だった。もう、お互いの気持ちはほとんど固まっている。たぶん、ふたりの気持ちは同じだ。
その後、2,3のメッセージのやり取りをする。他愛もない話だったが、幸せな時間だった。お互いがお互いを好きであるというのを匂わせた幸せなやり取り。
「それでは、おやすみなさい」
と彼女に送る。
「ハイ、おやすみなさい」
幸せな時間はすぐに終わってしまう。でも、もう彼女のことを手放すつもりはない。
これに失敗したら、たぶん転生だ。なぞの確信がおれにはあった。でも、もうなにも怖くはなかった。彼女と進む未来がないのなら、転生だって悪くない。
「感謝するぜ」
おれは漫画のセリフを思い出していた。
「沙織さんと出会えた、これまでのすべてに」
寝る前に、壮大な死亡フラグを立てていることに気がついたのは内緒だ……。




