第22章 ガールズサイド
「ちょっとわたしなにしてるのよおおおおお」わたしは、枕に顔をうずめて、絶叫していた。彼との初デートから4時間後。明日は仕事だというのに、全然、憂鬱ではなかった。それくらい、嬉しはずかしい思い出になってしまったのだ。
「いきなり、ほっぺに……。ほっぺに……」わたしはさきほどの光景を思い出す。顔から火を噴きだすかのようなあつさだった。
「ちゅ」あの音が、頭のなかをリピートしていた。
「完全に痴女じゃない……」あれは誰だったのだろう? 。わたしであったはずなのに、そうじゃないと思いたい気分でいっぱいだった。
達雄さんとはじめてのデート。楽しみで、あんまり眠れず、少し変なテンションになってしまったのがいけなかった。たぶん、そうだ。
「彼があまりに正直に自分の気持ちをぶつけてきてくれたから、我慢できなくなっちゃったんだよ」クマの人形にわたしは語りかける。
最初は適当な気持ちだった。
「ごめん、ほかに好きなひとができたんだ」1年前の和夫の言葉を思い出す。何年も付き合ったのに、終わりは一瞬だった。
その後の1年間は、抜け殻のような時間だった。ただ、仕事をして、ただご飯を食べて、そして寝るだけの単調な生活。たまに、ネット小説を読んで、「転生」したいななんて妄想するときもあった。
お母さんがそんなわたしを心配して、お見合いの話を持ってきてくれた。予定もないし、まぁいっか。そんな簡単な気持ちだった。彼のユニークな経歴にも興味があった。単なる知的好奇心だったのかもしれない。
「あのお見合いは楽しかったな」わたしはふと思いだす。彼のお母さんが暴走して、彼があたふたしていた。あの光景をみて、1年ぶりに本気で笑ってしまった。
そして、彼の天然ぶりだ。普通のひとは、あんな行動できない。へんてこなんだけど、それがとても一生懸命で……。そして、なぜかそれが愛しく感じてしまって……
あの日を境にわたしの世界は色づき始めた。セピア色の世界は終わったのだった。
「今日はもう少し一緒にいたかったな、達雄さんと」
本音を吐き出して、わたしは布団に入る。今日は恥ずかしいんだけど幸せな気分に包まれながら眠れそうだ。




