第17章 イベント
映画がはじまった。最初のデートで映画というのはなかなか無難なチョイスだと思う。恋愛本にもよく書いてあった。初デートの王道定跡のひとつだろう。映画上映中は、会話をせずに時間がつぶせるし、終わった後は、感想を言い合うことで会話をつなげることができる。名前はもう忘れてしまったが、ありがとう自称プロナンパ師。あなたのことはたぶん忘れない。
彼女が見たがっていた映画は、探偵が酒場にいる有名なコメディー映画だった。デートにコメディーでいいのかと思ったが、おもしろかった。きっと恋愛映画とかだったら、うまく感想もいえないだろうし、デート慣れしていないであろう自分に対しての彼女の気配りだったのかもしれない。そう思うと、すごくうれしい。勘違いかもしれないけど、幸せな気持ちだった。
映画の後は、先輩が教えてくれた美味しいカフェへ。
「おしゃれなところですね。よく来るんですか?」
「じつは、先輩に教えてもらって(笑)。先輩がデートで来た時、美味しかったからいいぞ~と教えてもらったんです」先輩のアドバイス通り無理にかっこつけようとはしない。
「そうなんですか」
「なかなか、美味しいお店をしらないので、すいません。かっこわるいですよね」
「そんなことないですよ。しっかり、準備してきてもらったみたいで、とても嬉しいです」
「本当に先輩様々で」
「仲がいいんですね!」
「ハイ、入社したときから、面倒を見てもらっている先輩で。趣味も合うので」
「ああ、アニメとかですか?」
「そうなんです、ハハハ」墓穴を掘ったか。選択肢をひとつ間違うと、一気にバットエンド直行かもしれない。セーブもロードもできない極限状態だ。
「わたしも少しは見るんですが、あんまり詳しくなくて。今度、おススメを教えてくださいね」彼女は笑顔でそういってくれた
「(観音様がみえる)はい、是非とも!」<今度>という言葉がとても嬉しかった。ああ、今度があるなら転生してもいい。いや、ダメだ。
「映画おもしろかったですね。わたし、あの主役の俳優さんが大好きで」
「ああ、あのひとおもしろいですよね。三枚目な感じで、飾らなくて、自分も好きです」
「飾らない感じが少し達雄さんに似ているかもしれないですね」<主役=飾らない感じがすき=おれ>というなぞの三段論法がおれの頭では成立していた。あれ、もしかして、おれ口説かれてる?
「もう、やめてくださいよ。本気にしちゃいますから」
「本気にしちゃってください」彼女はさらにからかってくる。いかん、このままでは、萌え死ぬ。だが、人生に一片の悔いなしと叫べる自信があった。それくらい、幸せな時間だった。




