第14章 恋愛ロンパ
「……というわけなんです、やすにし先輩」
ここは駅前の喫茶店。あの無慈悲な一撃によって、切られてしまった電話をかけなおすこと5回。先輩はやっとあきらめて、電話に出てくれた。そして、休日の土曜日の昼、こうして相談に乗ってもらっているということだ。
「なるほど。お見合いした相手と明日デートなのに、デートの仕方がわからないと」
「そうなんです。助けてください」
「おまえな~、もうすこし状況考えて話せよ。あれじゃあ、勘違いされて、即通話拒否だぞ」
「ほんとうにすいません。気が動転していて、変な方向にテンションが……」
「しっかし、二次元にしか興味ないのかと思ってたわ、おまえ」
「すごいいい人だったんですよ、沙織さん。もう天使みたいで」
「ハイハイ、のろけ乙」
安西先輩は、おれが今の会社に入社したときから、色々と面倒をみてくれた人だ。オタク知識にも、色々と理解があって、それなのに彼女もしっかりいる。おれからすれば超人だ。
「こんなこと、安西先輩にしか頼めないんです。ちゃんと、お礼はするんで、デートの心構えとか教えてください」
「んなこと言ったって、おまえだってデート経験くらいあるだろ」
「うまくいったのは、画面のなかだけなので……」
「……」先輩がかわいそうな目でおれをみてくる。
「いつも変なテンションになって自滅したり」
「……」先輩の目がウルウルしてきた
「掲示板の知識を鵜呑みにしすぎて、自爆したり」
「……」先輩がハンカチを探し始めた。
「そんなかんやで、前回は3か月で振られました」
「少し時間をくれ」頭をかかえて、先輩は絞り出すような声でそういった。
先輩が立ち直るまで、10分はかかってしまった。お互いのホットコーヒーはもう冷めていた。
「よし、わかったぞ」先輩は重い口を開いた。
「……」
「もっと自然体でデートしろ」
「自然体ですか?」
「そうだ、自然体だ」
「でも、おれなんかの……」
「それは違うぞ」どこかで聞いたようなキレのあるツッコミが入った。
「えっ」
「お見合いの時、向こうから映画に誘ってくれたんだよな?」
「そうです。あの時は奇跡が起きました」
「なら、少なくとも、お前に少しは興味があるってことだ」
「そうなんですか!」
「だから、今回は守りを固めろ。焦って関係を進めるんじゃない。少しずつ慎重に、自分の自然体で接しろ」
「でも、少しくらいかっこつけたほうが」
「それは違うよ」また、別パターンのツッコミが。
「えっ」
「むしろ、かっこわるくてもいいから、自分の素をみせろ。かっこつけなんて簡単にばれる。それでは、信用なんて生まれないんだよ」
「信用?」
「そうだ、信用だ。まだ、出会って間もないんだよ。お前らは。ふたりの信頼関係をしっかり作ることの方が大事なんだよ」
「なるほど」
「沈黙が多いからって、変なテンションになるなよ。それであんまり、ディープなオタク知識をひけらかすんじゃない。沈黙を怖がるな。むしろ、楽しめ」
「勉強になります」
「よし、それじゃあ服を買いに行くぞ!」
「一生、ついていきます先輩!」
(先輩、くれぐれもトラックに注意してくださいね。あなたみたいなすばらしい人は絶対に転生できないと思います)おれはこころの中でそうつぶやいた。




