第11章 奇跡2
「クスっ」彼女は突然、笑い始めた。もうすでに、終わったと思っていたときに起きた奇跡だった。
「でも、おばさま。自慢の息子さんなんでしょう。母から聞いていますよ。外国語を必死におぼえて、就職先をみつけて、活躍している息子っていつもパート先で、みんなに自慢しているって」
「えーやだ、沙織さん。恥ずかしいから、達雄の前でいわないでよ」凍り付いていた場が一瞬で融解した。
「もう、恥ずかしがっちゃって」向こうのお母さんも笑顔だ。
よかった。奇跡はおきた。
「じゃあ、場も和んできたし、あとは若い人たちだけでということで」向こうのお父さんが提案した。無口な人だったが、かなり渋い声だった。でも、優しさを含んだ声だった。
「そうですね。沙織さん、変な息子だけどよろしくね」うちの父親も同調する。
「お父さん、気が早いわよ」母親が突っ込む。
「ではでは」ぞろぞろとみんな会場から出ていく。ここからはふたりだけの空間だ。
静かな和室。平穏とししおどしの音だけ響ている。
「やっと、ふたりきりになれましたね」沙織さんがおだやかに話しかけてくれた。
「すいません。さわがしい母とボケた父で」
「とてもたのしい時間でしたよ」少しいたずらな笑顔でそう返してくれた。かわいい。かわいすぎる。
「達雄さんはいまどんな仕事をしているんですか?」
「えっと。小さいんですが、輸入関係の会社で働いています。主に、発注やら交渉とかを担当していますね」
「すごいですね。わたしは本当に普通の事務って感じなので、憧れちゃうな」
「(憧れちゃうなんてはじめていわれた。ほれてまうやろおおお)いやいや、たいしたことでは」
「英語は大学とかで専攻していたんですか?」
「いや、完全に独学なんです。お恥ずかしい話ですが、新卒の時、就職がうまくいかなくてニート状態になってまして」
「ああ、お母さんもいっていましたね」
「そうなんです。で、趣味の海外ドラマをずっと見ていたら、聞き取れるようになっていたんです」
「すごいですね!天才です」
「いやあ、本当にラッキーだったとしか。アニメとかをグータラみていた本当に駄目ニートでしたから」
「でも、いまはやりたいことができてるんでしょ。必要な周り道だったのだと思いますよ」
「(えっ、なにこの人。天使かな。もしかして、おれ転生間際?)」




