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ハイパーサイメシア


 ――――――今はなき、大サザン帝国。

 

 今から千年程前、サザン士族はこのユグラシアル大陸の北西に位置するハンガル半島を中心に周辺士族や豪族達を支配下に置き、その勢力を伸ばす地方豪族であった。

 有力な地方豪族であったサザン士族は、その後百年ほどで、後に西域十年戦争と呼ばれる統一戦争に参戦し、西域統一を目指すほどの大きな軍事国家へと成長していくのだった。

 

 そうして十年以上も続いたこの西域十年戦争を終結に導いた国家こそが士族長、ユグロ‐サザンに率いられたサザン士族であった。

 サザン士族長ユグロ‐サザンはこの西域十年戦争勝利を期にサザン王を名乗り、サザン王国を建国。首都をハンガル半島北部に位置するサザンクロスを国都とすることにした。

 この後、サザン王国は中央ユグラシアル及び大陸北部に侵略戦争を開始して国土を広げ、百年程の月日を経て大陸の半分近い土地と国家群を征服するに至り、サザン王国は大サザン帝国を名乗り、その帝都サザンクロスは人口百万人を越える大陸最大の大都市へと発展してゆく。


 そんなサザン士族の歴史の上にあって、サザン士族が極西のハンガル半島にいた時代から脈々と受け継がれたのが、サザン古武術であった。

 サザン古武術は帝都サザンクロスで受け入れられて、サザン帝国の正式な国家武剣術となって帝都サザンクロスと共に最強の武剣術として発展していくこととなる。

 そして、その繁栄は帝都サザンクロスが灰燼はいじんに帰すまで続くことになる。


 繁栄発展を続けた大サザン帝国が滅亡するきっかけとなるのは大サザン帝国が大陸南東部に目を向けた為だろうと言われている。

 大陸北西及び中央と南東地域の間にはドラゴニア‐バルト高地という四千メートル級の山々が連なる山岳地帯があり、この大陸を南北二つに分断している。

 そして南東部に出兵するにはこのドラゴニア‐バルト高地を通過しなければならない。しかしここは、この大陸唯一にして最後のドラゴン―――――神竜バハムートのみかであった。


 今から百年程前、隆盛を極めた大サザン帝国のおごりからだろうか、十七代サザン帝はその言葉どおり神をも恐れぬ行動を起こしてしまう。

 

 ―――――ブラックドラゴン‐バハムート討伐命令。

 

 そしてこのオーダーと同時に帝都サザンクロスには三万人を越える討伐軍が編成されて討伐に向かったと言われている。

 しかし、この三万を越える討伐軍(第一次神竜討伐軍)の兵隊は誰ひとりとしてドラゴニア‐バルト高地から帰って来なかった。

 その後も二次、三次と討伐軍を出兵するがいずれも失敗に終わり、大サザン帝国はこれらの出兵をきっかけに衰退の一途をたどってしまう。

 

 そして、大サザン帝国滅亡を決定的にしたのが神竜バハムートによる帝都サザンクロス襲来(神竜バハムートの災厄)であろう。

 第三次神竜討伐軍による出兵が失敗したと同時に怒り狂ったバハムートが帝都サザンクロスに襲来。帝都は一夜にして灰燼に帰してしまう。

 帝都は両翼五十メートル、全長三十メートルのまさしく怪物に火の海とされてしまったという。

 

 しかし、その後、吟遊詩人の奏でるサーガには、数万人の死者と数十万人の重軽傷者であふれかえり地獄と化した帝都に七人の英雄達が現れて神竜バハムートを討伐するという英雄讃歌が歌い語り継がれている。

 このサーガ自体の信憑性は定かではない。しかし、この時にブラックドラゴン‐バハムートが討伐されたという記録が大陸の歴史書にも残されている。

 

 そして、このサーガに描かれている七英雄のひとりが――十五代サザン古武術伝承者‐ハンニバル‐ヨウ――その人であった。



 「‥‥‥ハンニバル‐ヨウ‥‥?」


 そう呟いて、そんなことがあり得るだろうか‥?と考えてみる。‥‥いや、そんなはずはない。ありえない。だけど、どこで見たものか知れないが、十五代サザン古武術伝承者‐ハンニバル‐ヨウという記憶はある。

 こんな偶然の一致があるだろうか?それなら僕が持っているこの記憶が嘘なのか?それともこの老人による経歴偽造?‥‥そんなことできるだろうか?

 それに、ハンニバル‐ヨウといえばブラックプール冒険者ギルドの創始者にして初代ギルド長官の名前だ。

 このブラックプール冒険者ギルドでこの名前とサザン古武術の名を使って経歴偽造などできるだろうか?‥‥たぶん出来ないと思う。

 しかし、ハンニバル‐ヨウという人は今から百年程前に活躍した人物である。もしも、この目の前の老人が本当にハンニバル‐ヨウであるなら百二十歳以上という計算になってしまう‥‥‥。

 

 「あん!?‥‥はて小僧、なんでわしの名を知っておるんじゃ。その名はずいぶん昔に捨てたはずじゃがのお。」


 「え、えっ。えっ!?‥‥じゃあ、ハンニバル‐ヨウというのは本当の名前‥‥?」


 「捨てた名じゃ!!今はその名は捨てて、ヨウとだけ名乗っておる。それになんじゃ小僧、さっきから聞いておれば呼び捨てにしおってからに。ヨウ老師と呼べ!今はそう呼ばれておる。」


 「は、はい。すいません。‥ヨ、ヨウ老師。‥‥それでは、サザン古武術伝承者というのも本当なんです‥‥?」


 そう聞くと、ヨウ老師は眼光を光らせて僕の顔をじっと見つめた。


 「ん!?小僧‥‥われは何者じゃ?」


 「えっ、ぼ、僕はあれですよ。たいしたものじゃありませんです、はい。」


 「‥‥なんじゃ?それは。わしはなんで知っているのかと聞いとるんじゃ!それは国家秘密級の事柄じゃ。それを知っておるということはなんかしらの秘密があるんじゃろう。」


 顔をさらに近づけて言い寄ってくる。

 

 ‥‥‥ち、近い。それにもの凄い圧を感じる。これは言わなければならないのか?‥‥まあ隠していることでもない。


 「あの、えーとですね、僕には生まれつき‥‥絶対記憶の能力があるんです。」


 そうこれが僕を縛りつける鎖である。一見、すべてを記憶できる能力は素晴らしく良さそうな力であるのだが、僕にとってこの力はまさしく最悪の能力であった。

 とにかく情報量が多すぎるのだ。この多すぎる情報量は僕の脳につねに負荷をかけ続けて何かにつけてパニックやらフリーズを引き起こしていた。

 人間の脳は本来不必要な情報を忘れることで正常に機能するものなのである。例えるなら僕の脳は物が捨てられなくてゴミ屋敷化してしまった部屋と同じようなものである。

 良い思い出も嫌な思い出もすべて抱えながら生きることは通常的にいちいち最悪でひどく最低な気分である。

 いつの頃からか僕の正常だった精神は内向的ないびつなものに変わってしまう。

 そして、僕は心の内に引きこもり、重度のコミュ症を患ってしまったのだ。


 「‥‥‥ほぉう、ハイパーサイメシアか‥‥それで小僧、名前は?」


 「は、ハイパー……?」


 「ハイパーサイメシアじゃ。先代の師匠がそれじゃった。‥‥んで、名前は?」


 「は、はい、ハルトです。」


 僕がそう答えるとヨウ老師は僕の両肩をガッチリと掴んでさらに顔を近づけた。


 「ハルト。おんし、わしの弟子になれ!。」


 「へ?」


 こうして僕はこの日からヨウ老師の弟子となり、人類史上最強の人間から最強の武剣術サザン古武術の教えを乞うことになる。

ありがとうございました。

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