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アイス‐ルフラン



 「コーヒー飲むよね?………あと秘密兵器があるの。ちょっと持ってくるね。」


 そう言って彼女は席を立ち、さっと奥の部屋に消えてしまった。

 

 …………秘密兵器?

 

 しかし、限りなく怪しい言葉を残して立ち去ってしまった。

 おそらく、パーティーに入れない、人見知りで石橋を叩いても渡らないほど慎重な僕のために何か考えてくれたのだろう。と楽観的に考えてみたが、いつもの、恐ろしくおっちょこちょいなアイスさんの行動を考えるとかなり不安な気持ちになっていた。


 「………はぁ、大丈夫かなぁ。」と僕は呟く。


 アイスさんの方はというと、奥の部屋でなにかを探しているようで、ガタゴトと音がして、時おり「あれぇ!」とか「どこいっちゃったのぉ!」などと声が聞こえてくる。


 そして、僕はひとり静かにうつむいて、なぜパーティーに参加することができないのか考えていた。

 本来僕はあの特殊体質のせいで他人とコミュニケーションをとると、ものすごい量のエネルギーを消費してしまう。そのため、日常的に他人とできるだけ関わらない消エネモードで生活せざる負えないようになってしまった。

 このように人とできる限り関わらない生活を送っている僕は、他の人から見ると、かなりネガティブな人間に見えるらしい。

 だから今の僕には友人と呼べる人はひとりもいない、知人と呼べる人もごく少数である上に、パーティーに参加するための活動。いわゆる、パー活もまったく行っていない状況だった。


 「……………はぁ………。」


 思わず、ため息が漏れてしまう。考えれば考える程みじめな気分になってしまう。


 「……コトッ」

 

 見上げると、いつの間にかアイスさんが目の前に立っていた。

 アイスさんはマグカップを僕の前に置くと「……飲んで。」とコーヒーを勧めてからカウンターの上に本のようなものを置き、一口コーヒーを飲んでから椅子に腰をかけて、ゆっくりと話し出した。


 「‥‥ねえ、ハルトくん。パーティーに入る当ては見つかった‥‥?」


 「‥‥‥‥‥え、えーと。‥‥いえ、まだ‥‥。」


 実際、パーティーに入る当てなどひとつもなかった。


 「‥‥‥ふーん、そう言えばねぇ、ハルトくんの同期に(鋼鉄の乙女)って呼ばれてる娘いるでしょ‥‥あの娘、この間、フリーになったって話よ。‥‥あの娘なんてどうなの?‥同期でしょ。」


 鋼鉄の乙女。エヴァ‐M‐ユグドラシル。彼女は確かにそう呼ばれていた。同期の中で桁違いの強さをもっていた彼女は確か、このブラックプール冒険者ギルドのトップクランのメンバーだったはずだ。だけど、どうやら彼女は現時点ではパーティーを外れているらしい。

 だからといって彼女をバディに誘うなんてことはできない。強く美しいエヴァさんは僕の憧れであった。だけど、同期でありながら僕は彼女と一度も話したことがなかったのである。


 「そ、そんなの無理ですよ。エヴァさんは僕なんて相手にしてくれないと思います。」


 「えぇー。そんなのわかんないよ。一回誘ってみれば‥?あっ‥‥でもね、あの娘の後見人がね、なぜか、あのスノウ長官だから、もし本当に誘う時はわたしにひとこと言ってね。」


 「‥‥‥‥はい。考えてみます。」


 そうは答たが、実際にこの僕があのエヴァさんを誘うことなど出来っこないと内心考えていた。それを見透かしたようにアイスさんは僕の顔を覗き込んできた。


 「誘わないでしょ‥‥?。しようがないわね‥‥‥それじゃあ、ヨウ老師の講習はどうなのよ?‥‥誰か訓練生入った?。」


 僕が受講している唯一の訓練講習は一子相伝的な?感じで受講生は僕一人だけであった。

 アイスさんはたくさんの冒険者が受講する訓練講習に入り、その中から仲間なり、友達なり、コネなりを僕に見つけてほしいと考えているようだった。

 

 「………だからね、ハルトくんは人気のある講師の訓練講習を受けるべきだと思うの。‥‥それでね。」


 さっきどこかから持ってきた製本された冊子を僕の前につき出して「ジャッジャジャーン!」と言いながらどや顔で見せてくる。


 「ん‥‥?‥冒険者ギルド本部講師査定……」


 「――――――バシッッ!!」


 「痛っ!」


 「アイス!それって冒険者さん達には見せちゃ駄目なやつでしょ。」


 帰り仕度をしていた隣の受付嬢アリッサさんが見るに見かねて、近くにあった本を丸めてアイスさんの頭をおもいきり叩いて注意したようであった。

 

 「何すんのよぅ、アリッサ。」


 アイスさんが頭を押さえながらぶつぶつと訴える。


 「何すんのって、あなたバカなの!それよ!その冊子!あとで事務長に怒られても知らないからね。」


 「アハハ!大丈夫、大丈夫、この世はバレなきゃなにやってもいいのよ。」


 などと恐ろしいことを口にして笑っているが後日アイスさんは事務長にこっぴどく怒られることになる。

 そしてそんなアイスさんを見て「‥‥本当に知らないからね。」と言い残して、アリッサさんはさっと帰途についてしまった。


 「…………本当に大丈夫なんで…す……?」


 かなり心配になりアイスさんの様子を伺いながら聞いてみる。


 「なによ!ハルトくんまで、大丈夫、大丈夫よ。お姉さんにまかせておきなさい!………たぶん。」


 少し言葉を濁したが、そう言ってアイスさんはその冊子をぺらぺらとめくり始めた。そしてなにかを見つけたのか、パッと開いてバンッと僕の前にその冊子を開いた。


 「ジャスティン‐ロウ講師なんてどう……?」


 どう……?と言われてもどう答えていいやら困っていると。


 「……わぁお。すごい!すごい!!この人ってばドラゴンスレイヤーの称号持ちよ!」


 ―――――ドラゴンスレイヤー?


 僕はびっくりして冒険者ギルド本部講師査定評価表なるロウ講師のプロフィールに目をやる。

 そこには確かにドラゴンスレイヤーの文字が書かれていた。しかし、僕にはそれを信じることはできなかった。

 僕の記憶が確かなら、百年以上前この大陸に災厄を撒き散らし暴れまわり、数十万人規模の犠牲者を出したと言われている災厄のブラックドラゴン‐バハムートが大陸最後のドラゴンであり、その時にある冒険者と英雄と呼ばれる人達によって人類の悲願であったこのブラックドラゴン‐バハムート討伐が成されている。 それ以来、この大陸内にはドラゴンはいないはずである。


 「うーん?……でもこれは嘘ね、まぁ、いいとこドラゴンじゃなくてワイバーンスレイヤーね。それも多人数討伐の内の一人ってとこかしら。」


 「………はぁ、ですね。」と首肯する。


「……イステリア公国、サウスサンプトン出身、………イステリア近衛兵団入団、…サウスサンプトン冒険者ギルド上等冒険者かぁ………あっ!すごーい、この人イステリア公国十傑にも選らばれてるよ。」


 イステリア公国はここブラックプールの北西にある小国ではあるが、それでも公国十傑に選らばれることはすごいことであり、実力がなければ貰えない名誉ある称号であった。


 「後ね、これは内緒なんだけど、冒険者ギルド本部の査定評価は B + ね。…冒険者ギルド本部の査定は厳しくて有名だから、B + でも相当すごいんだよ。」


 「………人気もあるんですか?」


 実力があるのはわかったが、ある程度人気がないと人が集まらないだろうと思い聞いてみる。


 「えぇーっ!ハルトくん知らないの!?ロウ講師の講習は超人気あるんだよ。」


 それでも僕はなにか断る理由はないかとプロフィールにじっくりと目を通す。


 「……ん?。ん?。決めちゃう?‥ロウ講師で決めちゃう‥?」


 アイスさんは目を輝かせながら僕に是非を迫ってくる。

 そして僕は完璧なプロフィールの中にひとつのある欠陥を見つけていた。

 ロウ講師の講習は昼間訓練講習のみで夜間訓練講習はいっさいやってなかったのである。

 昼間にバイトをしなければ食っていけない僕にとっては致命的であったので、正直にアイスさんにそう言うと、「……そっか、そうだよね。」と言ってあっさりと引き下がり、次の講師を探すべく、ぺらぺらとまた冒険者ギルド本部講師査定評価表なるものをめくり出すのだった。


 「……………はぁ……。」


 ……いったい、いつまでかかるのだろう……。

ありがとうございました。

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