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ダイアウルフ‐ハルシオン



 ロンじいが冬場にベースキャンプとして使っていた小さな猟師小屋がわたし達の最初のみかとなった。

 その山小屋はこのメイクーン島の中央にそびえる最高峰霊峰カカ山のふもと。千年杉と呼ばれる大きな杉の木と透きとおった水の流れる美しい清流との間にひっそりとたたずんでいた。

 初めてこの場所に訪れた時は、この夢のような美しい景観に本当に驚いたものだ。


 「‥‥どうじゃ!?エヴァ。」


 「‥‥‥あははは。おんぼろじゃ!」


 美しい景観の中に佇むその猟師小屋は確かに小さく、今にも崩れそうなほどぼろぼろだった。


 「おほっ!。笑ったのぉ!?」


 わたしが笑ったことがよほど嬉しかったのか、ロンじいはわたしを持ち上げてくすぐり初めた。


 「ありっ?むひゃ!?きゃっ。きゃはは‥‥‥じい。やめ。やめてぇ!うひゃはは‥‥‥。」


 「うわっははは‥‥。確かにおんぼろじゃの。でも大丈夫じゃ。これから直せばいいだけじゃ。」


 「‥‥‥エヴァも手伝う!!」


 「ほうか。ほうか。エヴァも手伝うてくれるか。」


 ロンじいは嬉しそうに微笑みながら、わたしを降ろして頭をぽんぽんとその大きな手で優しく叩いた。 

 

 その時のわたしはこの美しい大自然の中でロンじいと一緒に暮らせることが、何よりも嬉しかったのである。

 

 この後、わたしは自然豊かなこの場所で幼少期を過ごし、少なからず少女と呼ばれるような存在へと変わっていくのである。


      

     

      ーー数年後ーー


 「________はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥。」


 真っ白い雪の上にそりを引くロンじいの背中が遠くかすむ。

 目の前には白い雪の上に残るロンじいの足跡しか見えなくなっていた。わたしは歩くのを止め、立ち止まり、両膝に手をついて身体を丸めて息を整える。


 「‥‥‥‥なんて強い足だ‥‥。」


 わたしは顔を上げて白い霧の中を歩くロンじいの背中を見あげて、そう呟いた。

 わたしの少し先を歩いていた、大きな身体を持った銀色に輝く灰色狼ダイアウルフも立ち止まり、心配そうな目でわたしを見つめている。


 

 ダイアウルフというのは灰色狼の一種で、その銀色に輝く毛並みがダイヤモンドのように美しく輝くことからダイアウルフと呼ばれている。そして、大陸においては寒冷な山岳地帯や高地に生息する大型の灰色狼を一般的にダイアウルフと呼んでいるようである。

 

 そして、このダイアウルフはわたし達がこのカカ山の麓に来て二カ月ほどたった頃‥‥。

 この当時、ロンじいとわたしは夏から秋に変わり、冬に向かう季節の中、山小屋の増改築や畑の開墾、そして冬に向けて本格的なシーズンとなる猟にへと忙しく働いていた。

 わたしもできる限りの手伝いをしながら、ロンじいと一緒に楽しみながらこの大自然を満喫していた。

 だが、ロンじいは元々猟師である。冒険者をやめて以来猟師として三十年以上この山々を歩き廻っている。とくに秋から冬に向かう雪の降り初めるこの時期が猟の最盛期であったために、ロンじいは連日猟に出かけ、小屋に帰る日が三日、四日に一度という日が続いていた。

 そんな日が続いたある日の夜、三日ぶりに猟から帰ってきたロンじいを出迎えると、その腕の中になにか白くてもこもこした小さな動物がいた。


 「‥‥‥なんじゃ!?そのモコモコは‥‥?」


 そう聞くと、ロンじいは抱きかかえたそれを見せながら笑ってこう答えた。


 「わはは‥‥このもこもこはダイアウルフの子じゃ。母親とはぐれたようでのぉ。かなり弱っておる。どうじゃ?、エヴァ。こいつを助けてやらんか‥‥?」


 そう言ってロンじいはわたしにそのモコモコした、小さい小さいダイアウルフの子を渡し、わたしをいつもの優しい目で見つめるのだった。


 「‥‥‥ぅんと‥‥‥‥助ける!!」


 ロンじいにすればわたしをいつもひとりきりにしておくことが心配だったのだろう。だからあのときはそんな思いがあってダイアウルフの子を拾って来てくれたのだと思う。

 

 一方、わたしはこの小さい小さい贈り物を三日三晩寝ずに看病してこの小さな命を助け。

 その後、そのダイアウルフの子にハルシオンと名付けた。ハルシオンというのは、同じ銀色の髪を持つ、七英雄サーガに出てくる、わたしの最も憧れる女性、大魔法使いアシャリータ‐ハルシオンの名字をからもらった名前だった。

 そして、このハルシオンがわたしの友達と呼べる初めての存在となったのだ。


 その小さかったハルシオンも今ではエヴァより二回りも大きい立派な狼となり、心配そうな目で、「‥‥クゥン。」と呼びかけて、この小さな姉のことを見つめていた。


 「‥‥‥大丈夫じゃ。ハル。」


 そう言って、背嚢はいのうに差してあった身長ほどもある短槍を手に取ると、それを杖がわりにしてゆっくりと起きあがり、また一歩一歩、雪を踏みしめて歩き初めるのだった。


 しかし、わたしは真冬の雪山の猟がこれほど過酷で厳しいものだとは思っていなかった。

 

 この場所に越してきた当初から、わたしはロンじいが猟に出かける度に、「一緒に連れてってくれ。」とロンじいに猟に連れていってくれるよう執拗しつようにせがんでいた。

 猟に出たロンじいを小屋で待つ間、ロンじいがこの山々でどんな楽しいことをしているんだろうと考えると居ても立ってもいられない気持ちになり、どうしてもロンじいと一緒に猟に行きたくなってしまっていた。

 ロンじいはその度に少し困った顔をして「‥‥まだ駄目じゃ。」とか「もう少し大きくなってからじゃな。」と言って、決して猟に連れていってはくれなかった。

 

 しかし、わたしが十歳になると、ロンじいはわたしに猟に出るためのノウハウを少しずつ教えてくれるようになる。

 それは弓の扱い方であったり、捕ったウサギの毛皮の剥ぎ方などであったが、少しずつわたしが猟に出るための準備をしてくれていた。

 そんな中でわたしの場合、特に弓の扱いに関しては特異な才能があった。

 通常、弓の練習は、何年もの月日をかけて的までの距離を、十メートル、二十メートルと伸ばしていき、最終的に百メートルほどの的を射ることができるようになると一人前と言われている。

 だけどわたしは二週間ほどで百メートル先の的を射抜いてしまったのだ。

 これにはロンじいも驚いて「エヴァは弓の天才じゃ。」と言って大変な喜びようであった。

 しかし、この弓の才能にはちょっとしたからくりがあった。というのも、この頃になると、この霊峰カカ山の麓の大自然の中に存在するたくさんの精霊達ととても仲良くなっていて、さらに風の精霊シルフや水の精霊カノン達とは特に仲良しで、わたしは彼女達をコントロールして扱えるようにまでなっていたのである。

 弓の練習を初めてすぐに、矢に風の精霊シルフをまとわせてはどうかと考えて実践してみたところ思いの外うまくいってしまったのである。


 それが影響したのかわからないが、十一歳になった秋口からわたしはロンじいに連れられて、狩猟デビューすることになる。

 それが約一年前のことで、昨年はまだ雪の降り積もる前の秋の猟と雪が溶け初める春の猟に、予行演習のような形でロンじいに連れていってもらっていた。

 

 そして、今回の猟は十二歳になってから数えて三回目の真冬の猟行にあたる。


 今回も鹿の毛皮で作ってもらった暖かいブーツと赤熊の毛皮でできた頭からすっぽり被る外套がいとうを着て、ロンじいがラッセルした跡を一歩一歩踏みしめ、遠く離れたロンじいの背中を追っていた。

 

 雪山に入るとロンじいはとても厳しい表情になる。

 そしてわたしに雪山の歩き方、動植物の知識、狩猟のノウハウなどを優しい口調で厳しく教えてくれるのだ。



 

ありがとうございました。

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