永遠の星空
遥の願いは叶えられた。それによって何か良くないことが起こったりすることはなく、その後、俺たちは何事もなく来た道を戻った。
「わたし、とても満足しています。幸せな気分です。今まで生きてきてよかったなーって思えました」
遥は子どものように燥いでいる。これから彼女には幸せになって欲しいと願いたいが、禍福は糾える縄の如し、とも言う。この先ずっと幸せが続くことはありえない事であり、必ず苦しいこと、辛いことは訪れるだろう。その時、また彼女は立ち直るだろうか。俺たちが生きてきた時間は短く、時を経るにつれ、幸福や不幸の大きさは確実に増幅する。俺たちはまだ世界の一パーツにもなり得ておらず、現実を何も知らない。今日知ったことは、広大な世界において些細な一例に過ぎないことだ。
「なぁ、遥」
「何ですか?」
楽しそうな声色のまま、遥はこちらを向く。俺の中に渦巻いているのは、大きな不安だった。遥のことを守りたい。これから苦しいことがあったとしても、側に居られる存在でありたい。あまり遊ばない彼女と、唯一遊べる存在でもありたい。これが独占欲というものなのだろうか。
「……魁人君、昔の魁人君みたいな顔してます」
心の葛藤を感じている俺を見て、遥がぷぷっと笑い声を漏らす。
「え……どういうこと?」
「過去の魁人君も、わたしを前にしてそんな悩み抜くような表情をしていたんですよ。あれはー……まだお付き合いをする前のことでしたかね」
遥は思いだし笑いをやめない。そうか、その時の俺もこんな想いを抱いたのか、と思い、少し親近感が湧いた。過去の俺も、やはり変わらず今の俺なのだ。彼女の前に立つ記憶を持たない俺は、昔の俺にはなれないと感じていたが、そのようなことはなさそうだった。そのことに、言い表せない喜びを感じる。
「……話の腰を折ってすみません。それで魁人君、何でしょうか?」
「いや……」
改めて問う遥に、俺は言葉を返せない。何とか繋げようと必死に言葉を探す。
「……星空、綺麗だったな」
「はい。美しかったです」
「……」
「……」
無言の空間はすぐに訪れる。頼りない自分に腹立たしさを覚えた。
「……ごめん、こんな俺で」
俺の謝罪に、遥は笑顔を返す。
「いえ、そんなに自分を卑下しなくても大丈夫ですよ、魁人君。ありのままでいてください。変に肩肘張られる方が、わたしとしてもしんどいです」
「……分かった」
俺は素直に頷く。
「じゃあ、一つだけ言わせてくれ」
今、俺がこうして遥の横で並んで歩けているのは、彼女が願ってくれたからだ。それに尽きる。ならば、俺には絶対にしておかなければならないことがあった。彼女の力が無ければ、俺はあの星空を見ることはできなかったし、遥を置いてけぼりにして死んでいたことだろう。それを全て覆してくれたことに対して、伝えられずにはいられない。
――俺を生きさせてくれて、ありがとう。
お前は俺を助けられなかったと言ったが、それは間違いだ。充分俺は助けられた。だから俺は生きることができている。そう感じた。
「…………はい。また、ここで星を見ましょうね」
来年、再来年もここに来て、遥か彼方まで続く星空を遥と見たい。何年経っても、あの場所を漂う星空は変わらないだろう。だが、見るたびに感じ方は変わるはずだ。来年見る星空は、きっと違ったものになる。今年以上の感動を覚えるかもしれないし、逆になってしまうかもしれない。どうなろうと、俺はその結末を受け入れなければならない。
だから。
だから、俺は決意する。
今日の星空を、俺は忘れない。現在に生きる黒瀬魁人の脳内に焼き付ける。
俺たちのために遥が描いてくれた星空は、永遠に残り続けるのだ。
以上をもちまして、「君が描いた星空へ」を完結いたします。最後まで読んでくださってありがとうございました。
最終話を投稿した時点での数字を見ると、自分の未熟さをひしひしと感じざるを得ません。ですが、これもまた現実だと受け止めて、これから精進していくのみです。遥に教えられた魁人が考えていましたが、これが「真実であり現実である」のです。
さて、余談なのですが、11話の最後の文章に、少しだけ小細工をしてみました。投稿前に読んでくださった方には、「主人公の想いの全部を、あの8行に込めた」と告げました。初見で気づいてくださった方がいらっしゃれば嬉しく思います。もし「何のこと?」という方がいらっしゃれば、是非そこに戻って確認してみてください。
少し長くなりましたが、ここまでお付き合いいただいてありがとうございました。現在、私は、オーバーラップ大賞に応募するための次の小説を執筆しております。8月の中旬には投稿したいと考えておりますので、そちらも楽しみにしていただけると嬉しいです。
ご意見や感想などございましたら、ぜひお伝えいただけると嬉しいです。Twitter(@yamiyami2016)でもお待ちしております。
また次の小説で皆様にお会いできることを心待ちにしております。ありがとうございました。
深淵ノ鯱




