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心の色  作者: yuki
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前編

 静かな場所は好きだ。

 シーンとした無音の世界に時計の針の音や、風で揺れる木々の音を聞くと、落ち着ける。気持ちがいい。


 私は目をつむり、筆をぎゅっと握りしめた。ふぅ……と深く息を吐き、気持ちを落ち着ける。

 そしておもむろに目を開け、目の前の真っ白なキャンバスに色を加えた。

 私はただ淡々と塗り続ける。

 やがて、キャンバスに白が消えた時、私は筆を止めた。

 絵を描く時、私の意識はぼーっとしている。「集中している」といえば、聞こえはいいけど、ただ私はぼーっと描いているだけだった。


 ジッと描き終えた絵を見る。隅から隅まで見て、はぁとため息をついた。

 私の目に映っているのは、黒、灰、黒、黒……ほとんどが黒に染められている自分の絵を見て、ただただ冷めた目で見るしかできなかった。


 最近、絵を描くと、大体真っ黒な絵になってしまっている。昔はカラフルな色を使っていた、とはいえないけどそれなりにいろんな色使いができていた。それなのにどうして使えなくなってしまったんだろう……。


『黒い絵』を描き終えてからはいつもそんな疑問が頭に浮かぶ。しかし、考えても考えても理由がわかることはなかった。

 また一度、ため息をついて、筆や筆洗を持って水道へと足を進めるのであった。


私が通っている学校はただの平凡な、変わりばえのしない学校だ。しかし1つ、特色を挙げるとすれば、それは部活だろう。この学校は部活の数が驚くほどたくさんある。


 運動部では、野球部、ソフトボール部、バスケ部、バレー部、テニス部、バトミントン部、柔道部、空手部、合気道部、弓道部、アーチェリー部、剣道部……思い出せる運動部でもこの程度だろうか。そして文化部は、美術部、パソコン部、吹奏楽部、軽音楽部、コーラス部、書道部、漫画研究部、読書部、茶道部、華道部、家庭科部、園芸部……と私があげたのはほんの一部分にすぎないが、それほどたくさんある。しかも文化部はどれほどあるのかは分からないが運動部の倍はあるらしい。しかし、運動部は1つの部活でも男女分かれるのでそう考えれば差はないのかもしれない。


 そして、部活が多いというのもあるけど、特色はそれだけではない。何かというと、実は運動部の大半と文化部の約半分は受賞経験があるのだ。それも、優勝や金賞が常連の。

 私の所属している美術部ももちろん数々の賞を受賞してきた。部全体の賞もあれば少人数の団体や個人もある。……といっても個人の賞は個人が持っておくべきなので、コピーした賞が飾られているのだけど。


 そんな私も、受賞経験はある。金賞や銀賞、たまに銅賞も受賞していた。まぁそれも半年前の話なのだけど。


 というのも、半年前くらいから私の絵は黒くなった。

 いや、少し違う。

 最初はまだ灰色の方が多かった。黒も確かにあるものの、まだ少ない方だったのだ。最初はモノクロの絵なんだなと思ったし、他の人も賞賛してくれたけど、何度も何度描くうちに、絵は黒みを強め、ついには色のある絵を描けなくなっていた。

 黒と白以外の色を出し、絵を描こうとも思った。でも、完成した絵はいろんな色が歪に混じった混色、それも黒に近い色ばかりで、赤とかオレンジ、黄色などの暖色の色なんて、ありはしなかった。


「(私、もう描けないのかなぁ)」

 なんて、心の中で呟いて馬鹿な疑問だと(かぶり)をふる。

 洗い終わった筆や筆洗をいつもの場所に戻し、帰り支度を整える。

 時刻は5時。1時間半ほど美術室にいたようだ。

 美術室を出て、鍵を閉め、職員室へ向かった。


「今日も描けなかったかぁ」

 私の姿を見て、先生の第一声はそれだった。目線を斜め下に逸らして鍵を渡す。

「お前はみんなと行かなくてよかったのか? 郊外スケッチ」

 先生にそう問われ、拳をぎゅっと握りしめながら「……いいんです」と呟くように言う。

 今日は金曜日なので、美術部は郊外スケッチがあるのだ。しかし、私の絵はスケッチも黒くするので行くのを断った。そして1人で絵を描いていた。……意味は、なかったけど。

「それじゃあさようなら」

 私は逃げるように先生にそう言い、先生もまた、「おー、さよーなら」と軽く返した。そして私は早足で学校から去って行った。


次の投稿は10月20日です。日が飛んでしまいますが、ぜひお楽しみいただければと思います!

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