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送り火の森

掲載日:2017/02/26

 ここはどこだろうか?

 くしゃくしゃと濡れた落ち葉の地面が音をならす。

 辺りは真っ白な霧に覆われていて、よくよく見えなくて何だか恐い。

 それでも時おり見える灯りにつられて私はその方向へと歩いていく。

 最初からこのようにすればいいんだと分かっているかのように、てくてくと歩いていく。

 いつまでたっても灯りには近づけないでいるが、私は歩いていく。

 

 「おやぁ? こんなところで何してんだ?」


 不意に後ろから声をかけられて思わず声をあげそうになるが、なんとか押さえて振り向こうとした。


 「あぁだめだめ、この場所で振り向いちゃいけないよ。未来永劫迷い続けなくちゃいけない」


 声はどこか優しくて悪い人のようではなさそうだった。

 その人に顔をぐいっと前に戻されて再び前を見据える。

 この人は何なのだろうか?

 聞きたい衝動があるが何となく聞いてはいけないような気がして開きかけた口を閉じた。

 かわりにこう聞いた。


 「私はあの灯りに行きたいんです。どうしたらいいですか?」


 不意に後ろから気配が消えて辺りの空気が一変した。

 こんな森の中で霧が深いのに風が吹いたように頬に空気の揺らぎを感じた。

 ざぁざぁと森の木々が私を嘲笑っているかのようでとても気味が悪い。

 私は気持ちを圧し殺して前に進む。


 「この森は暗いんですね。どこまで続いているんですか?」


 独り歩きしながら誰かがいないと知っていても私は言葉を紡ぐ。


 「この森のなかにいるのは私とあなただけですよね。何かちょっと変な感じですよね?」


 誰がいないと分かっていても私は言葉を紡ぐ。


 「―――私って生きているんですかね?」





 ざぁざぁ ざぁざぁ ごだぇばぁんだぁがぁじぃでるざぁ






 不意に景色が変わる。

 霧の中の森から、都会の高層ビル群の間へと。

 たくさんの車がクラクションを鳴らしていて、飛行機なんかは雲を伸ばして飛んでいく。

 人混みはごった返していて、そのなかを私は歩いていく。

 人が私を避けるように歩かないのは何故だろうか?

 私はあてもなくさまよっていく。


 すると、見たことのある景色が私の目の前に飛び込んできた。

 都会の交差点だった。

 人々は信号待ちで立ち止まっていた。

 私も立ち止まる。

 そして幾らかして信号が青く輝く。

 私たちは歩き始めた。

 それぞれ携帯を手にもって歩いていたり、急がしそうに走っていたりと様々だ。

 ふふっと笑ってそのまま歩く。


 信号がてかてかと点滅を始めた。

 私は等の昔にわたり終わっていた。

 だけどふと気になって後ろを振り返った。

 そこには信号の点滅に気づいていないような男の子がいて、携帯の画面に夢中で気づいていないようだった。

 そして向こうから猛スピードでくるトラック。

 中の人は気を失っているようだった。


 あぶないっ!!


 そう思ったのは一瞬だった。

 私は一気に彼のもとに走った。

 そして彼を引き寄せて道路の端に投げ飛ばした。

 遅れてくる強い衝撃。


 その時世界がゆっくりと針を刻んでいた。

 

 まわりの驚くような目。


 彼の呆然とした目。


 そんな彼らに向かって私は笑いかけた。


 そしてそのまま目を凝らすと路傍には何かがあった。


 それははかない百日草だった。


 あぁ、死んだんだ、私―――――


 瞬間視点が変わる。

 時間が止まる。

 正確には彼と私以外の時間が。


 私は路傍にたっていて私を見ていた。

 彼の呆然とした顔が急に崩れ嫌みたらしい顔に変わる。

 激しい憎悪のような、そんな顔だ。


 「あんたは俺を庇って死んだ」


 うん、分かっている。


 「俺はあの時死ぬべきだったんだ」


 うん、分かっている。


 「あんたは俺の人生をめちゃくちゃにしやがった」


 うん、分かっている。


 「なのにあんたはまた俺を助けた」


 どうしてだろうね?


 「あんたは俺の運命をねじ曲げたんだ」


 そうなんだ。


 「だから、あんたは永遠にさ迷い続けろ」


 嫌だよ。

 

 「だめだ、それがあんたの選んだ運命だ」


 嫌だ、嫌だ、嫌だ、止めてよ!!






 「―――そこまでにしておけ。大事なやつが壊れちまう」


 ぱりんと音がなったような感じがして、彼の顔がガラスのように砕けていく。

 そのかわりに私はもといた霧の深い森のなかにいた。

 そして目の前には年齢が少しいっている男の人がいた。


 「ようやくこれでわかったろ? お前が生きているかどうかがよ」


 「はい………私は運命をねじ曲げたんですか?」


 「まぁそうだな。あれだけ注意しておいたのにも関わらずお前はまたやっちまったからな。まぁそこは俺と似ているかな」


 「私は……あの灯りに辿り着けないんですよね?」


 男の人はしばし黙考して口を開く。


 「あぁそうだな。お前は永遠にここをさ迷い続けるだろうな」


 彼のいった通りに成ってしまった。

 私は……永遠にここをさ迷わなければならない。

 そんなのは絶対に嫌だ。

 運命は自分で決めるものだ。

 誰かに与えられるものではない。

 彼に言われた通りになんてならない。

 だから……私がするべきことはっ―――


 「私を……私をつれていってくださいっ!!」


 「運命に抗おうというのか?」


 「はいっ!! 私の運命は私で決めます」


 「たとえ、それがお前自信の力でどうにでもならないとしてもか?」


 「はいっ!! この命の灯火が終わるときまで私は……私は抗います!!」


 「お前が、お前でなくなるとしてもか?」


 「いいえ、そのときは私が終わってしまったときです。私は、私自身が終わるときまで他の運命に抗います!!」


 その瞬間、森の霧が吹き飛んだ。

 明確な私の意思が、心の迷いを吹き飛ばすように、それは綺麗に吹き飛んでいった。

 同時に多数の光が私の目のなかに飛び込んでくる。


 「その心意気気に入った!! よし、合格だ!! ついてこいっ!! 今日からお前は送り火師だ!!」


 目の前の男の人がそう叫ぶと、踵を返して光の方へと進んでいく。

 私も遅れないように後をついていき溢れんばかりの光の奔流に目を潰されないように少し目を覆いながら歩いていく。

 そして森を抜けた途端に目の前には大いなる青空と白い雲、そして満月が漂っていた。

 その光景に目を輝かせながらも男の人がいる小高い丘の木の根もとへと急ぐ。


 「どうだ? 綺麗だろう?」


 男の人は指を指して木上を見上げる。

 すると、きらきらと輝く星のようにたくさんの鬼灯のような実がなっていた。

 どれも幻想的で目を奪われてしまうが、私はこの輝きを知っている。


 「ほぉら、お前の送り火師としての最初の仕事だ。ちゃんと送ってやんなよ」


 そういって男の人は杖を差し出す。

 私はそれを受け取り、私の型に変形して念じる。

 やり方は聞いていないが何となく分かっている。

 だから、静かに目を閉じて言葉を紡ぐ。


 「大いなる空の彼方へと、あなた方の魂を送ります。運命に成されるがままに散った儚き命達よ、輪廻の環へと戻りなさい。今宵の空は遥かなる青空で光に向かって飛んで逝きなさい」


 そして私は私の回りに青色の焔を発現し、それをふぅと静かに吹く。

 青の焔は静かに散っていき、鬼灯の実はその実を弾け、中から数多の光の粒子が飛んでいく。

 それはやはり幻想的で儚いものだった。

 自然と涙が溢れてきたが、泣き崩れることはしないでただ見つめ続けていた。

 

 「初めてにしては上出来だな、結構、結構」


 男の人はそう言ってがしがしと私の頭を撫でる。

 それは、なかなか痛いものだったが私にとっては優しい歓迎のような気がした。

 少し、お父さんみたいだと思った。


 そして男の人はこう言った。


 「そうだ……お前にまだ名前を聞いていなかったなぁ。名前は何て言うんだ?」


 「私は――『大変だ源さんっ!! 虫型の混魔が現れちまったっ!!』――です……?」


 「なぁにぃ? そうじゃあ仕方ねぇ。おいお前の名前はまた後だ。今は混魔の方へと急ぐぞ!」


 源さんはすぐに声のした方に走っていった。

 急なことで頭が追い付かないが―――


 「おいっ、ぐずぐずすんなよ? まだ夜は始まったばかりだ。日が開けるまで続くから覚悟しておけっ!!」


 「あっ……はいっ!!」


 そう言われて私ははっとする。

 そして遅れて、私は走り始める。

 遠くでは源さんの仲間とおぼしき人が呼んでいるのが見える。

 そこまで、いやどこまでも私は走り続けよう。

 いつか、私が終わってしまうそのときまで。

 今この瞬間を大事に噛み締めて生きていく。

 他人に決められた運命など乗り越えて。

 私は私自信の運命をつかみとる。







 天高く輝く星達は私を見守るかのように見下ろしていて


 どこまでも広がる大いなる空は私の行く先を広げていて

 

 満月は私の門出を祝ってくれるかのようであった


 ここは八百万の神が住まう国


 その上に浮かんでいる小さな小さな浮游島


 神々でさえもこの森に何れか帰る不思議な場所


 現世でいて浄土でもある夢の場所


 それが 送り火の森


 果たして私はどこへいくのだろう?


 果たして私はどうなるのだろう?


 その答えは何処にあるかは分からないけど


 私は運命に抗い続けよう

 



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