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蛍火送り  作者: 椎井 慧
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 ――まだ死ぬ前の僕は、普通の高校生だった。地元の中学を卒業して、地元の少しだけ頭の良い高校に進学して、多くはないけれど仲の良い友達がいて、クラスに好きな女の子がいて。とにかく何処にでもいる普通の高校生だった。

 僕には歳の離れた妹がいた。一回りも歳下の妹が可愛くて可愛くて。ハルカと名付けられた春生まれの彼女は名前の通り、僕の人生において春のような存在だったよ。高校では部活にも入らず、学校から帰ってくると毎日妹と遊んでやったもんだ。



 僕と妹の間では『影おくり』という遊びが流行っていた。『影おくり』っていうのは、地面に写る影を瞬きをしないように十秒間見つめて、そのまま空を見上げる遊び。地面の影と同じ形をした白い影が空に投影されるのが面白くて、僕たちはいろいろなポーズをしては『影おくり』をして遊んでいた。特にハルカが気に入っていたポーズは両手を耳のように頭から突き出す『うさぎ』。僕のお気に入りはね、頭の天辺に両手を乗せて両肘を左右に大きく広げた『大目玉』だった。僕が『大目玉』のポーズをすると決まってハルカは「ようかいだぁ!」なんて楽しそうに笑ってくれたんだ。



 “その日”も僕らは近所の小さな神社の境内で『影おくり』をして遊んでいた。ハルカを肩車して『影おくり』をする僕たち。いつもよりずっと高い目線にハルカは興奮してはしゃいでいるようだった。

「さ、もう暗くなってきたから帰ろうハルカ」

「ん、おうちまで、かたぐるまして?」

「えぇ、重たいよ」

「いやいやいや! かたぐるましてー!」

 駄々をこねるハルカに、わかったわかったとため息を吐く。僕はハルカに甘々の甘ちゃんだったので、駄々をこねれば大抵のわがままは聞いてもらえると思われていたみたいだ。まぁ実際そうだったんだけれど。

 ハルカを肩車しながら、神社の長い階段を降りる。八月の終わりに差し掛かって秋の匂いがし始めた夕焼け空には、蜻蛉がつい、つい、と独特の線を描きながら飛んでいた。目の前を横切る蜻蛉にハルカが手を伸ばし、前に体重をかけたその時。

 僕の身体はバランスを崩して階段を転げ落ちた。転げ落ちる間、ハルカが怪我をしないように抱き締めたような気がするけど、よくわからない。頭を何度も打って、僕は階段の下にたどり着く前に意識を失っていた、ような気がする。ただ、首の辺りでバキッて太い枝を折るような音が聞こえて、この世のものとは思えないぐらいに痛かったことだけは覚えてる。

 とにかく、次に目が覚めたら、僕はホタルだった。だから実際、自分が死んだのかどうかもよくわかってないんだ。ただ、妹が――ハルカがどうなったのか。それだけが気掛かり。



「ハルカ、元気かな。元気だといいな」

 そう言って再び窓の外の流れる景色を眺めるヒカル。その瞳には不安の色が色濃く滲んでいた。


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