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第五十一話 葉山陽菜子の場合

 芝の緑で覆われた土手に、大の字で寝転んだ。温かい日差しが全身に溶け込み、時折春風が優しく顔を撫でていく。やっぱり俺はここが大好きだ。

「今日で陽菜子先輩は卒業か。寂しくなるな」

 隣で膝を抱えている陽菜子先輩は、「嬉しいことを仰いますね」と微笑を寄越した。

 あの多忙な状況下にあっても、陽菜子先輩は国内最高ランクに位置する某私立大学に合格していた。将来俺を支えるため、商学部で勉学に励むそうだ。

「俺なんかより、よっぽどすげえ商売人になっちまいそうだな」

「ネットショップは、優也さんの経験と胆力があったからこそ成し遂げられたのです。そのどちらも、大学で学べるようなものではないと思います」

「そうかな」

「そうですよ。けれど、大学でしか学べないこともあると思います。優也さんの経験とわたしの知識を合わせれば、きっといつかお父様を越えることができるのでは――と、そんなことを想像していたりします」

「意外と、野心家なんだな」

「葉山輝夫の娘ですから」

 陽菜子先輩は誇らしげに「ふふん」と笑った。輝夫さんを越える、というのは恐れ多い話だが、陽菜子先輩が側に居れば、きっとどんな壁にぶち当たっても乗り越えられる――そんな気がするのは確かだ。

「頼りにしてるよ」

「ええ! それで、結婚式はいつにします? 新婚旅行はどこがいいですか? あ、子供は何人――」

「待て待て! 物事には順序ってものがあるだろ!?」

 陽菜子先輩はぶすっと不貞腐れて正面を見た。

「もうっ! わたしはいつまで準備完了のままお待ちしていればいいんですか!?」

 陽菜子先輩には心底申し訳ないと思うが、俺はまだ準備完了には至っていないのだ。

「……ネットショップ、成功はしたけどさ。俺、結局みんなに助けられてばっかりだっただろ? システム回りは陽菜子先輩と里香にほとんど任せてたし、大沼がいなけりゃ課題を消化しきれなかっただろうし、ゲンさんにはすっげぇ負担かけちゃったし。終いには、クラスのみんなにまで頼っちまって」

「みなさん、優也さんだから力を貸してくださったんですよ。それもまた、優也さんの力だと思いますけど」

「でも俺、もっと自信をつけたいんだ。だから、その……なんだ。えっと……」

 今日、絶対に陽菜子先輩に告げようと心に決めていた言葉が、喉元で止まってなかなか出てこない。

「だから……なんです?」

「ひ、ひ、ひな、ひにゃ……」

「ひにゃ?」

 恥ずかしさのあまり、誤魔化してしまおうと思ったその時。勇気を振り絞って俺に告白してくれた里香の表情が頭を過った。ここできっちり言えなけりゃ、ただのヘタレ野郎だ。

「……陽菜子に相応しい男になれるように頑張るから! それまで、待ってくれないか」

――やった! 言えた!

 渾身の呼び捨てである。きっと陽菜子先輩……もとい陽菜子は、嬉しそうに頬を赤く染めているに違いない。そう思って陽菜子を見ると、陽菜子は「君にはがっかりだよ」と言わんばかりの表情をしていた。

「優也さんにしては……合格点でしょうかねえ」

「なんだよそれ!」

 クスッと笑って、あふれんばかりの笑顔を咲かせた陽菜子は、スッと立ち上がって宙を舞い、俺の胸に飛び込んできた。

「――捕まえましたっ!」


最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました。


二作品目になりますが、前作よりもたくさんのポイントをいただくことができ、少しずつ成長できているのかなあ……としみじみ思っていたりします。


これから、すでにご指摘いただいている点や表現の修正作業を少しずつ行う予定ですが、お話の筋を変更するつもりはありませんので、これでクローズにしたいと思います。


ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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