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社長令嬢にとっつかまりまして。  作者: 雪村陽
第三章 青葉商店街の危機
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第四十七話 開店まで駆け抜けろ!③

 運用テストは、大沼の尽力により四日で完了した。ここで何か問題が生じれば、その問題にかかわるテスト工程をやり直さなければならないわけで、ひとまずそうならなかったことに胸をなで下ろす。

 そうして迎えた、運用テストが完了した翌日の、帰りのホームルームのことだった。

「……先生からは以上だ。大月、風間、例の件について頼む」

 オニセンに呼ばれた里香と博史が、プリントを配り始めた。

「はい、これ優也の分ね!」

 里香に渡された二枚のプリントを見ると、そのうち一枚は青葉商店街周辺の地図――ID登録が可能な地域すべて――で、もう一枚は、その一部が拡大化された地図だった。前者の地図で、後者の地図の大まかな位置が把握できるようになっている。

――これはまさか……。

 配り終えた里香と博史がみんなの前に立ち、里香が両手を合わせて言う。

「それじゃ、みんなお願い! 広告はわたしの家に用意してあるから、準備ができた人から順に取りに来てね!」

 みんなは「はーい」と当然のように返事をして、パラパラと解散していく。

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 みんなが教室を出ていく前に叫んだ。これはあまりにも申し訳ない。

「みんな引き受けたっての? なんで!?」

 俺が続けて叫ぶと、「なんでって……ねぇ」と遠藤――文化祭でクラスの意見をまとめてくれた、ボーイッシュな見た目の女子――が苦笑して言う。

「森田君が文化祭でリーダーやってなかったら、みんな協力してくれなかったかもね」

 俺がポカンとしていると、「わからないかい?」と小田切――弁護士を目指して勉強しながら、文化祭で仕入れ管理を担ってくれたインテリ風の男子――が遠藤に続いた。

「あんな血が滾る勝負をみせられたらね。応援したくもなるさ。しかも、今度はあのリーブスを相手にしてるって? 全く、君ってやつは……」

 呆れたように笑う小田切に、藤堂――陸上部の姉さんの後輩で明るい元気娘――が続く。

「麗奈先輩にはたくさんお世話になってるしね! お別れなんて、絶対に嫌だよ! みんなでやれば、二時間もかからないでしょ? ぱぱっとやっちゃおうよ!」

――まじかよ……。

 いつの間にか側に来ていたオニセンが、俺の頭をコツンと叩いて言う。

「みんな、お前のことを気に入っているんだよ。いつまでそうやって、蚊帳の外にいるつもりだ? 絶対に成功させなければならんのだろう? こういう時は、仲間を頼れ。俺も、微力ながら参加させてもらうぞ」

 オニセンは二枚の地図をひらひらとさせながら、教室を出て行った。

――仲間……か。

 文化祭で一位を獲ったあの瞬間。俺は確かに、クラスの一員になれたのだと、喜びでいっぱいだった。だが、青葉商店街に危機が迫ってからというもの、文化祭での出来事はすべて、俺の中で過去のものとなってしまっていた。

 みんなにとっては、そうではなかったようだ。面倒だとか、なんで俺がとか、そんな負の感情が一切感じない笑顔を、俺に向けてくれている。

「ありがとう。みんな、頼む」

「はい、頼まれました!」と遠藤。これを合図に、みんなは教室を出て行く。

「博史と里香が二人でとりまとめてくれてたのか?」

 教卓のところにいる二人に視線を移して聞くと、博史がニヤリとして答える。

「俺は部活で忙しいからな。やったのは、ほとんど里香だよ」

 里香を見ると、気恥ずかしそうに顔を伏せて、「わ、わたし早く帰って広告みんなに渡さなくちゃ!」と足早に教室を出て行った。

「……なんだあれ」

 呟くと、博史の隣に来た長谷川が顔をほころばせて言う。

「里香ちゃんね。優也君ともっと仲良くなりたいんだって」

「……はあ? 何を今さら」

 クラスの中では割とよく話をするし、里香とは仲のいい方だと思うんだが。

 博史は腕を組み、うんうんと頷いて言う。

「つーわけで、俺が優也と仲良くなるための秘策を伝授してやったんだ」

「秘策だあ?」

 訝しんで博史を見ると、博史は自信たっぷりに答える。

「冷めちまったやつの心を開かせるにゃ、鬱陶しいと思われるぐらいにこっちが熱くなってやらなきゃ駄目だってな」

「……さいですか」

 最近、妙に絡んでくると思ったら、そのせいか。

「優也君なら、負けないよね?」

 不安そうに聞いてきた長谷川に、俺は「はっ」と笑って返した。

「当然だろ。みんなに恩ができちまったからな。この借りは必ず返す。無事この学校を卒業できたら……このクラスみんなで、パーッとやろうぜ」

 博史と長谷川は顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。

 人事は尽くした。あとは天命を待つのみだ。

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