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社長令嬢にとっつかまりまして。  作者: 雪村陽
第三章 青葉商店街の危機
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第四十六話 開店まで駆け抜けろ!②

 里香が送ってくれた広告のチェックをしていると、コンコンとノック音が鳴った。

「入っていいぞ」

 部屋に入って来たのは、確認するまでもなく陽菜子先輩である。姉さんならノックと同時に入ってくるし、母さんならノックをせずに「優也ー?」と直接呼んでくる。

「……不安なんです」

 唐突にそんなことを言った陽菜子先輩に、視線を移した。

「らしくないな」

「もしネットショップが失敗したら……優也さんはどうされるつもりなのですか?」

「さあな。もし開店直後にお客様が全然来なかったとしても、改善策を考えて、いろいろやってみるつもりさ」

 そう答えたものの、恐らくは失敗した時点で、俺たち家族は青葉商店街に別れを告げることを考えなければならないだろう。数か月も赤字が続いてしまうようなら、銀行はそのうち金を貸してくれなくなる。そうなれば、ペリドットは詰みだ。借金が膨らむ前に、新しい道を探さなければ俺たち家族は暮らしていけない。

 それはつまり、陽菜子先輩との別れを意味するのだが、決してそれは言わなかった。陽菜子先輩に配慮したからじゃない。俺自身、考えると怖いからだ。

 失敗への不安から逃げたくなる気持ちは、どうにも抑えようがない。それでも、「大丈夫だ、きっと大丈夫だ」と自分を励ましながら、ゴール地点に向かってひたすら真っ直ぐに走り続けるしか生き残る道はない。立ち止まれば、ゲームオーバーだ。

「あと五日か……」

 呟いて、卓上カレンダーを見た。里香の「一日で終わる」という言葉を信じるなら、ギリギリで間に合う。

 再度陽菜子先輩に視線を移すと、元いた場所に陽菜子先輩がいない。あろうことか、俺のベッドにもぐりこんでいた。

「何してるんだよ!?」

「今日はここで寝ます」

「何馬鹿言ってんだよ、姉さんとこへ戻れ」

 陽菜子先輩は「嫌です」と一向に譲らず、断固としてベッドから出てこなかった。

「……わかったよ。俺は床で寝るわ」

 もう夜十一時を回っていて、これ以上無駄に体力を使いたくないという気持ちから譲歩した――が、陽菜子先輩がドンとベッドを叩いて言う。

「優也さんもベッドで一緒に寝て下さい」

「は、はあ?」

「寝、て、く、だ、さ、い!」

 シングルベッドじゃ狭いからとか、清く正しい男女交際をとか、必死に陽菜子先輩を説得するが、まるで効果はない。陽菜子先輩は俺が寝るスペースを空けたベッドの上をバンバンと叩き続けていた。

 それでも説得を続けようとする俺にしびれを切らしたのか、陽菜子先輩はムスッとして立ち上がり、上のパジャマを両手で掴み、少しまくりあげた。

「一緒に寝てくれないなら、ここで裸になります」

「おいいいい!?」

 徐々に肌が露出されている様を、俺は為す術もなく見ていた。

 もう少しで胸が見えてしまうというところで、動きが止まる。

「なるほど、優也さんはわたしの裸が見たいんですね! では――」

「わかった! わかったから!」

 陽菜子先輩はニコッとしてパジャマから手を離し、再度布団の中に入った。観念して、電気を消し、俺も布団の中に入る。

「あったかいですね」

 陽菜子先輩は俺にくっついてきた。柔らかい肌の感触とシャンプーの甘い香りに、理性が吹き飛びそうになる――という俺の邪な気持ちは、すぐに消え去った。

 陽菜子先輩が、震えている。

 思えば、陽菜子先輩はネットショップのアイディアを出した張本人であるし、その上、システム回りのほぼ全てを請け負ってきたのだ。もしネットショップの試み自体が無駄だったとしたら。もしシステムにトラブルが生じて青葉商店街に迷惑をかけてしまったら。

 怖いのだろう。俺と同じように。

 俺は陽菜子先輩の震えが止まり、眠りにつくまで、陽菜子先輩を抱きかかえ続けた。

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