第四十五話 開店まで駆け抜けろ!①
「週間売上、前週比二十六パーセント減……だな」
ゲンさんの言葉で、夜の集会所に落胆の声が響いた。
一方で、ゲンさん自身はほっとしたような様子である。二月末に予定通りオープンしたリーブステーションが、開店セールを三日間に渡って行ったことを考えれば、上々の数字と考えていいだろう。
「まあ、短期的な数字だからそんなに気にすることねえやな……つっても、このままほっとけば、まずい状況になるってのは肝に銘じてくれ。優也、そっちのほうはどうだ」
ゲンさんに聞かれ、俺はスケジュール表を開いた。この状況下、できるだけ早くネットショップを開店させたいのだが――。
「システムテストで致命的な不具合が確認されまして。それに伴う修正、テストは完了したのですが、ピッキングや梱包等のシステム以外の作業を含めた運用テストが始まったばかりです。運用テストの期間は五日、さらに広告を配る期間が五日。どんなに頑張っても、あと一週間はほしいところです」
隣にいた陽菜子先輩が、「申し訳ありません」と心苦しそうに頭を下げた。
「陽菜子先輩は何も悪くねぇよ」
ほとんど一人でシステム回りをやってくれているのだから、何らかの見落としがあるのは当然のことで、責任は俺にある。
「広告配布とテストを、並行して進めてみようと思うのですが――」
陽菜子先輩をフォローしたい一心で提案したが、「焦るな優也」とゲンさんに遮られた。
「でもゲンさん――」
「運用テスト中にまた不具合が出たらどうする。広告を配っちまったら、もう後には退けねえんだぞ。確実にやれ。お前らしくもねぇ」
「……すんません」
当たり前のことで叱られてしまった。焦りは禁物。わかっていても、気が急いてしまう。
会合が終わって自宅に戻る途中、店のシャッターを下ろしている大沼がいた。
「ずいぶん遅くまでやってたんだな」
「いや、店を閉めたのはいつも通りの時間なんだが、おふくろが体調を崩してな。親父は会合だし、少し手間取っただけだ」
「そうか。そんなところ申し訳ないんだが、運用テストの期間、短縮できないか?」
そう頼むと、大沼はしばらく思案し、苦し気な表情で言う。
「四日間でなんとかしよう。だが広告配布はどうする? 運用テストを一日短縮したところで、こっちが何とかならなければ焼け石に水だぞ」
「だな……とりあえず、里香に広告作成の状況を確認しておくか。電話貸してくれないか?」
大沼はスマートフォンを取り出すと、少し操作して、「ほら」と俺に手渡した。里香の電話番号が発信されていて、「サンキュ」とそのまま耳に当てる。
「もしもし?」
「よ、俺だ」
「……優也? 大沼先輩の携帯番号だったけど?」
「今借りてるんだわ。広告のレイアウトの方はどうなった?」
「もう出来上がってるよ」
「そうか、助かる。それですまないんだが、広告の配布、協力してくれないか」
「そりゃもちろん、協力するけど……」
里香の声が途切れた。さすがに図々しいか。
「すまん、無理しないでくれ。俺の方でなんとかする」
「ううん、違うの! そうじゃなくってさ。ひと肌脱いであげようかなって。うまくいけば、一日で終わると思う」
――なんだって?
「どうするつもりだ?」
「ふふん、それは内緒。運用テスト終わったら教えてね!」
「……信じていいのか?」
里香は自信たっぷりに「任せて!」と言って退けた。




