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社長令嬢にとっつかまりまして。  作者: 雪村陽
第三章 青葉商店街の危機
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第四十二話 配送業者を探せ!①

「――陽菜子先輩の件、考えていただけましたか?」

「……十日間、期間を伸ばしましょう。ですが、これ以上は譲歩致しません。それまでに結果を出せなければ、必ずお嬢様にはお帰りいただきます。その意味はおわかりですね?」

「……はい、ありがとうございました」

 電話を切り、安堵のため息が出た。

 ゲンさんの体調不良によりスケジュールを大幅に調整せざるを得ず、先日、村上さんに陽菜子先輩の滞在期間を延長してもらえないかと相談していた。

 どうやら、村上さんは俺を試しているようだ。青葉商店街を救うことができれば、村上さんはきっと俺と陽菜子先輩の味方になってくれる。しかし、救えなければ――俺は二度と陽菜子先輩に会うことは許されないだろう。

 いずれにせよ、今陽菜子先輩を離脱させるわけにはいかない。なんとか、首の皮一枚でつながった。

「さて、と……」

 ネットショップのシステムはほぼ出来上がり、残すところテスト工程のみである。テスト工程以降は大沼に任せ、何か問題があれば翌日報告してもらうことにして、俺はここ数日間、一人で引越し業者と不用品回収業者の会社を訪問し、営業活動に勤しんでいた。

 手順としては、まず電話でアポイントを取ることから始まる。「お荷物のことでご相談があるのですが」と切り出せば、「どういった内容ですか?」等々で返されるので、「直接お伺いしてご相談したく、詳しくはその時に」と持っていく。当然、引っ越しや不用品回収の相談のために来てくれると相手は思うわけだから、後ろめたさがないわけではないが、とにもかくにも、会うことが大事だ。

 きっと話を聞いてくれるところはどこかあるはず。そう高を括っていたのだが――。

「無理無理! 忙しいんだからさっさと出ていけ!」

 話を聞いてもらう段階にすら至らず、こうして追い出されること、すでに十件目である。

――ここも駄目か。

 リストにバツ印をつける。追い出されるだけならマシな方で、罵声を浴びせられたり、ネチネチと説教を聞かされたりと、胃が痛くなるような思いをしたところもあった。

「次こそだ! 次こそいける!」

 自分を鼓舞して、次の目的地へと向かった。

 諦めるわけにはいかない。その理由は、青葉商店街を守る為だけではなくなっていた。

 ネットショップのシステムを作ってくれた三人のため。

 倒れるまで頑張ってくれたゲンさんのため。

 母さんに輝夫さんが間違っていないと証明するため。

 輝夫さんを見返してやるため。

 そして何より――ずっと俺を慕い続けてくれている、陽菜子先輩のためだ。

 しかし、容赦ない現実は、何度も何度も俺を突き飛ばした。

「君ねぇ。これから忙しくなるって時に! これだから今どきの学生は――」

「お願いします! 五分でいいんです、少しだけでも話を――」

「帰りなさい! 非常識にも程があるよ!」

 俺の担当になるつもりであっただろうその人は、怒鳴り散らして応接室を出て行った。説得を諦め、十一件目の会社を後にする。

 思えば、時期も悪かったのだろう。引っ越し業者、不用品回収業者は、いずれも三月と四月が繁忙期らしく、二月中旬である今は、すでにどの会社も慌ただしい様子だ。

「今日は次で最後だな……」

 街灯の下で、夜八時にアポイントが取れた『たわら引越センター』の資料に目を通す。

――従業員二十八名、代表者名が……俵勝美?

 男性名の可能性もあるが、事業内容を見ると、女性の社長だろうか。女性の引越しを応援していることが強くアピールされているため、そう察した。

 たわら引越センターに着くと、幅六十メートル程度の二階建ての営業所が見えた。外の駐車場には、大型トラックが見当たらず、中型トラックが二台、軽トラックが十台。女性向けの単身プランがメインとだけあって、主に軽トラックが稼働しているのだろう。

 呼び鈴を鳴らすと、インターホンから「二階の右奥の部屋へどうぞ」と女性の声が聞こえた。中に入って二階へ上がり、指示された部屋の前で立ち止まって、両手でパンと顔を叩く。泣いても笑っても、ここが今日最後の交渉相手だ。せめて詳細説明のところまで漕ぎつけて、明日に希望を見い出したい。

 意を決してノックをすると、数秒後に扉が開いた。

「「あ」」

 刹那、お互いに硬直した。というのも、見知った関係だったからである。うちの店に何度か来てくれていて、少し話をしたこともあった。

「これは驚いたね。ペリドットの少年じゃないか」

 そう言って、三十代後半であろうベージュ色の作業服を着た女性は、会議用テーブルの椅子に座った。「そちらにどうぞ」と言われ、俺も向かい側の椅子に腰をかける。

 女性は、湯呑みにお茶を注ぎ始めた。セミロングの黒髪は少し痛んでいて、目力が強く、なるほど体力勝負の引越し業者だという印象だが、一方で表情やしぐさに気配りがあり、懐の深さを感じさせた。

 お茶を注ぎ終えた女性は、名刺を差し出した。そこに書かれている名前は『俵勝美』。

 俺がハッとして顔を上げると、女性はニッコリと微笑んだ。まさか――。

「名前はまだ言っていなかったね。たわら引越しセンター代表取締役社長、俵勝美だ」

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