第四十一話 まだ、頑張れる
医師の診断は、過労とのことだった。命にかかわるような異常は見当たらず、しばらく休めば元気になるそうだが、最低でも二週間はしっかりと休んでほしいという。
――俺のせいだ。
他に頼める人がいなかったとはいえ、商店街会長、酒屋の社長業、さらにはPTA会長と、多くの重責を担っているゲンさんに、さらに重い荷物を背負わせてしまった。そう考えると、元々俺のプランには無理があったんじゃないか――そんな気分になってくる。
翌日の夜、いつも通り集まった俺、陽菜子先輩、大沼、里香は、今後のことについて相談していた。ネットショップのオープン日は延期するとして、運送業者をどうするか。
「わたしたちが直接、運送業者に相談してみましょう!」
陽菜子先輩が明るい調子で言った。暗い雰囲気を変えようとしたのだとは思うが、心の中に焦りと不安が渦巻いている俺にとって、その声には苛立ちしか感じなかった。
「無理に決まってんだろ。三社とも大企業だ。学生を相手にしてくれるわけがねぇ」
「やってみないとわかりませんよ。きっと、なんとかなります!」
「陽菜子先輩は、本当は関係ないからそんなこと――!」
言葉を辛うじて止めたものの。後悔の念に駆られ、陽菜子先輩から視線を逸らした。なぜ、そんな言葉が出てきたのだろうか。陽菜子先輩がそんな軽い気持ちで俺の力になってくれているわけではないことは、俺が一番よくわかっているはずなのに。
陽菜子先輩は失望しただろう――そう思った瞬間、柔らかく温かい感触が、全身を包み込んだ。次いで、さらりとくすぐったい感触が頬を撫でる。
「大丈夫ですよ、優也さん」
陽菜子先輩は決して怒ることなく、ただ俺を抱きしめた。張り詰めていた心の糸が切れて、頭に昇っていた血が徐々に下っていくのがわかる。
「大丈夫です」
繰り返された言葉に、俺は「ああ」と頷き、「ありがとう」と陽菜子先輩の背中をポンと叩いた。俺から離れた陽菜子先輩は、優しく微笑を浮かべている。陽菜子先輩には、本当に助けられてばかりだ。
「すまん、もう大丈夫――」
大沼へ、そして里香へと視線を移した時。突然のことに、言葉が詰まった。
里香の目から、涙がポロポロと零れ落ちている。
「里香……おまえどうした?」
「えっ? あ、あれっ? これは、ほら! なんていうか、今のドラマのワンシーンみたいでさ! 感動しちゃったっていうか? そんな感じで!」
俺が戸惑っていると、大沼が「おい」と割って入った。
「事態は何も解決していないんだぞ。さっさと戻ってこい。足を止めている場合か?」
「……すまん、そうだな」
俺は一度深呼吸をした。そうして里香を見ると、ニコニコ笑っていて、いつもの様子に戻っている。心配ではあったが、思考を運送業者の問題に切り替えた。
「これだけゲンさんが頑張ってくれても駄目だったんだ。やっぱり、現状で一番いい条件を出してくれているところに頼むしか――」
ハッとして、ゲンさんから忠告されたことを思い出した。
『しかない、って言葉が出てきたときな。注意しろよ』
『どうして?』
『その言葉が出てきた時ってな。大抵、うまく行っていない時なんだが、物事の一点しか見えなくなっちまっていることが原因だったりするんだよ。ちょろっと外に目を向けりゃあ、コロッと解決したりするもんだ』
『外に目を向けるって……どうすればいいんですか?』
『そうさな。とりあえずオンリーを、ノットオンリーに置き換えてみな。もしかしたら、違うものが見えてくるかもしれねえ』
――一番いい条件を出してくれる運送業者に頼むだけじゃない……?
「どうした?」
大沼の声が聞こえて、俺は大沼に視線を移して言う。
「すぐに協力して作りたいリストがある」
「なんだ?」
「荷物を運べるのは運送業者だけじゃねぇだろ」
俺はみんなを見渡した後、正面を見据えて、パンッと手のひらに拳を打ちつけた。
「引越し業者と……不用品回収業者だ!」




