第三十八話 助っ人
年は明けて、元旦。商店街はすべての店が閉まっていて、閑散としている。リーブステーションがオープンしたら、この光景が日常になってしまうのかもしれないと思うと、胸が締め付けられる思いだ。
母さんと姉さんに、近くの神社へ初詣に行こうと誘われたが、俺はとてもそんな気分にはなれず、こうして家に一人残っていた。神頼みでなんとかなるんだったらいくらでも拝みに行くけれど、現実はそんな甘いものじゃない。少しでも早くネットショップを開くことができるよう、準備を進めておいたほうがいいだろう。
ピンポーン、と家の呼び鈴が鳴った。
――だれだ? 元旦から……。
面倒な気持ちをどうにか抑え込んで、一階に下り、裏口の玄関を開けると、まさかの珍客がいて呆気にとられた。大沼――四角いシルバーの眼鏡がトレードマークの、文化祭で俺にコテンパンにされた奴――である。
「あけましておめでとう、と言いたい気分ではないな」
そう言った大沼の表情は、真剣そのものだった。
「だな。少しもおめでたくねぇや。あんたも聞いたんだな、リーブステーションのこと」
「ああ。少し上がらせてもらっていいか」
大沼を中に入れて、二人階段を昇る。その途中で、「しかし、源三さんはさすがだな」と大沼が切り出した。
「ああ。あんな頑固そうな顔でよくもまあ、次から次へとアイデアが出てくるもんだ」
年末は、ゲンさんの本気を見た気がする。マグロの解体ショー、和菓子のアートショー、セルフメディケーションの講義、ケーキバイキング等々、年末に畳みかけたイベントは、いずれも大好評だった。これらのイベントは、今後月に一回ずつ開催する予定だという。
俺の部屋に着くと、大沼は「貴様も面白そうなことをやっているようだな」と、俺の机の上にあるノートパソコンを見た。
「ああ。地域密着型のネットショップを開こうと思ってる」
「うまく進んでいるのか?」
「……正直、きっついな」
準備を進めているうちに、次から次へと出てくる課題。このままいけば、いずれ俺の手に負えなくなってしまうのでは、と弱気になっていたところだ。
「スケジュール管理はしているんだろう? 見せてみろ」
「へ? まあ、いいけど」
俺はエクセルで作ったスケジュール管理表を大沼に見せた。
「……クレジットカード決済も導入するのか」
「ああ。ネットショップってのは、基本的にカード決済がメインらしいからな」
「セキュリティーの問題は大丈夫か?」
「クレジットカード情報の管理は、決済代行会社でやってくれるからな。その点は安心だ」
頷いた大沼は、スケジュール表をじっと見て、やがてタスクの一つを指さして言う。
「この決済代行会社とのやりとりは……全く進んでいないようだな」
「年末、忙しかったからな」
「よし。これは俺が引き受けよう」
まさかの申し出に耳を疑った。人手が増えることは、もちろんありがたいことなのだが。
「引き受けるって……受験勉強とかどうするんだよ」
「貴様との勝負で、俺が学びたいものが、大学ではなくここにあるような気がしてな。どこの決済代行会社に依頼するのか決まっているのか?」
「開発のベースにしているオープンソースのカートシステムがあるんだけど、それにクレジットカード決済を導入するモジュールを持ってる会社があって……それがここ」
俺はその会社のURLを開いて大沼に見せると、大沼は「ブックマークしておくか」とスマートフォンを取り出し、操作し始めた。
「ちなみに、申し込みはゲンさんの会社名義。開発は陽菜子先輩がやってるから、どっちとも情報連携しながら進める必要があるけど、大丈夫か?」
大沼は「問題ない」とスマートフォンを操作し続けていたが、突然その動きがピタリと止まった。カクカクとこちらへ向けられた顔は、ややニヤけている。
「ひ、ひ、陽菜子さんが!?」
「言っておくけどな。陽菜子先輩に手を出したら、承知しねえからな」
大沼の下心が見えて、俺は怒気を含んだ声でそう言った。大沼は「わ、わかっている!」とたじろぎ、コホンと咳ばらいをすると、「進捗は随時連絡する」と言って部屋の入口へ行き、ドアノブに手を掛けた。
「もう帰るのか?」
「ああ。俺の目的は貴様のプランに参加することだからな」
大沼を一階まで送ると、大沼は玄関の前で振り返り、俺を鋭く見据えた。
「文化祭での仕事ぶりは、見事だった。この青葉商店街で、貴様がどんな仕事を見せるのか。最後まで、見届けさせてもらうぞ」
「……ありがとな」
「ふん。別に、貴様の為ではない。俺のためだ」
大沼はツンと俺に背を向けてドアを開けたが、段差でずっこけた。眼鏡の位置を直しながら起き上がると、顔を真っ赤にして去っていく。なんとも、あいつらしいことだ。




