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社長令嬢にとっつかまりまして。  作者: 雪村陽
第三章 青葉商店街の危機
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第二十七話 会合

 翌日の夜、ゲンさんが各店の代表者を集め、青葉商店街の入り口から徒歩五分ぐらいのところにある集会所で会合が開かれた。俺もペリドットの代表として、席に座っている。

「……大体こんなところだ。何か質問はあるか?」

 ゲンさんが青葉商店街の置かれている状況を説明し終えると、誰もが暗い表情をしていた。三年前、有田駅付近に建てられたデパートの影響により、すでに厳しい商売を強いられているのだから、当然だろう。

 やがて、一人手を上げた。クローバー薬局店長の橋本さんだ。

「具体的にどのぐらいの売上減を予想されてますか?」

「ポイントカードに登録されている住所から町丁目別にして、柳沢駅寄りのお客を割り出してみた。結果は二十六パーセント。このままいけば、現在の売上の二十パーセント減は堅いだろうな」

「おいゲンよ」ラーメン屋の店主の魚住さんが割って入った。「そんなに、その、リーブスてのはすごいのかよ」

「ああ。小平市のショッピングモールの話になるが、食品売り場は特にすげえ。いつ行っても、ぴっちぴちの食材が並んでやがる。品質管理が徹底されている証拠だ。見た目も、包装や食品トレーに工夫があって、つい手が伸びちまう。レストラン街もすげえな。大物がこれでもかってほど入ってやがる。『信玄』知ってるだろ? あそこも入ってたぜ」

「くそったれ……!」

 信玄は全国各地に出店していて、テレビ番組のラーメン対決で常に上位に入っている有名なラーメン店である。有名店が自主的に集まってくるほどに、リーブスという名前の影響力は強大だ。

「何か対策は思いついたんですか?」

 俺がゲンさんに聞くと、ゲンさんは頷いて腕組みをし、眉を顰めた。これから話す内容が、解決策には至っていないことが伺える。

「リーブスにはできない、商店街の強みを活かしたい。例えば、シンさんにマグロの解体ショーをしてもらったり、トキちゃんに和菓子のアートショーを開いてもらうとかを考えてる。こういうことは、やつらにはできねえだろ」

 シンさんは魚屋の新之助さん、トキちゃんは和菓子屋の時子さんである。

 みんな頷いているが、表情は固いままだ。たしかにいい考えだとは思うが、対策としては少々弱い――そんな空気が漂っている。

 ゲンさんは他に質問が無いことを確認すると、深々と頭を下げた。

「これから厳しい状況に立たされると思う。なんとか、みんなの力でこの苦境を乗り切りたい。力を貸してほしい」

 魚住さんが「水臭えぞ!」と言って、景気良く笑った。会場が笑いにつつまれたおかげで、暗い雰囲気を残すことのないまま、会合は終わった。

 帰り支度をしていると、時子さんに肩を叩かれた。

「ねえ優ちゃん、あなたを呼んでるみたいなんだけど」

 時子さんの視線の先にある出口を見て、目を疑った。そこに立っていたのは、陽菜子先輩だ。

 慌てて陽菜子先輩に駆け寄った。最後に別れたあの日のままに、表情に生気がない。

「……何しに来たんだよ。もう話しかけんなっつったろ」

 そう咎めると、陽菜子先輩は抑揚のない声を返してきた。

「お父様が、お話があるそうなのです。一緒に来てくださいませんか」

 周囲にどよめきが起きた。「あれって、葉山家のお嬢さんよね?」、「葉山家って、リーブスの……」という声が聞こえて、俺は小さく舌を鳴らす。

「行ってやれ、優也」

 後ろからそう言ったのは、ゲンさんだ。

「いや、でも……」

「こんな夜遅くに、ひでえ面して。よっぽど訳ありだろ。こんなかわいいお嬢さんを困らせちゃいけねえよ」

「……わかったよ」

 陽菜子先輩は深々と頭を下げ、「向こうで村上が待っています」と歩き出した。

――こんなことしてる場合じゃねえのに!

 内心苛立ちながら陽菜子先輩についていくと、村上さんがリムジンの前で待っていた。

「お久しぶりです、森田様」

 村上さんはリムジンのドアを開き、陽菜子先輩が中に入った。俺も「どうも」と素っ気なく言って、それに続く。

「で? 輝夫さんが何の用だって?」

 陽菜子先輩に聞いてみたが返答はなく、代わりに「森田様」と村上さんの声がした。

「はい?」

「先日は、ありがとうございました」

 何のことかと躊躇っていると、俺の無言で察したのか、村上さんは「例の、お嬢様が轢かれそうになった車の件です」と続けた。

「ああ。完全に忘れていましたよ」

「そうでしたか。実は、犯人が捕まりまして」

――なんだって?

 物的証拠が何もないだろうから、さすがに逮捕まではいかないと思っていたんだが。

「それはよかったですね。自白でもしたんですか?」

「自白させたのですよ。葉山家に狼藉を働けばどうなるか、よぉーくわかるように……ね」

 村上さんの冷たく重々しい声。体が凍りつくような感覚に襲われた。その言葉は、俺にも向けられているような気がして――。

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