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社長令嬢にとっつかまりまして。  作者: 雪村陽
第二章 戸塚高校文化祭
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第二十一話 葉山陽菜子大勝利

「先に総評のお時間をいただいてもよろしいですか?」

 陽菜子先輩は文化祭実行委員長からマイクを受け取ると、一礼をして話し始めた。

「本来、すべての順位発表を終えてから総評という流れですが、このような状況ですので、先に総評をさせていただきたいと思います。文化祭の目的の一つとして、『学生同士の親睦を深め、学生生活の充実に役立つこと』とあるにもかかわらず、先ほどのような穏やかではない発言の数々、生徒会長として、とても残念に思います」

 大沼は「申し訳ありませんでした」と言って、ますます項垂れてしまった。別に、陽菜子先輩は大沼の事だけを言っているわけじゃないと思うが。

 陽菜子先輩の凛とした表情が、穏やかな笑みに変わった。

「ですが、大沼さん。他クラスとの合同出店を実現させるため、ひたむきに頑張るあなたに、わたしは強く心を打たれました。実のところ、わたしもメイドという役割を快く思っていませんでしたが、そんなあなたの姿を見ていたからこそ、最後まで頑張れたのですよ。ご自分を責めずに、どうか、胸を張ってください」

 涙を湛えて陽菜子先輩を見ている大沼の目には、まさしく『女神』が映っていることだろう。

 陽菜子先輩は体育館にいる全員を見渡しながら続ける。

「今回の勝敗を分けたのは、ひたむきな努力をどれだけお客様へ向けられたか、ではないかと思います。演劇部、そして二年C組は、一致団結してお客様と触れ合い、アピールすることを惜しみませんでした。この二つの団体に、心から拍手を送りましょう」

 拍手は初めこそまばらだったが、共鳴するかの様に隣から隣へと広がっていき、仕舞いには大きな拍手音が体育館内に鳴り響いていた。どうやら、丸く収まったようだ。

 正面に居た大沼が立ち上がり、俺の肩をポンと叩いて言う。

「俺の完敗だ。どうやら、貴様は陽菜子さんに相応しいようだ。陽菜子さんのこと、よろしく頼む」

 盛大な勘違いをして格好良く去ろうとしている大沼を呼び止めようとしたが、「みなさまに報告がございます」と言う陽菜子先輩に阻まれた。『結婚前提のお友達』という謎の宣言をされた苦々しい記憶が甦って、もう嫌な予感しかしない。

「実は、わたしもポスター作りだけ、二年C組の出し物に参加させていただいていました。ね、優也さん?」

――おい、総評どこいった。

「あ、ああ、まあ……」

「あのポスター、結構苦労したんです! あ、見返りを求めてるとかじゃないですよ? そんなんじゃないです! もう、全然!」

 陽菜子先輩の態度はあまりにもわざとらしく、何かを求めているのは明白である。

 だが俺は、断固として陽菜子先輩に目線をあわせなかった。「見返りなんていらない」って言ったのは陽菜子先輩だ。俺は悪くないからな?

――このまま知らんぷりを続けて、やり過ごしてやる。

 そうは問屋が卸さないと、里香が割り込んできた。

「えー!? まさか優也、あんなに頑張ってくれた葉山先輩に何もしてあげないっていうの? やだぁ、それって男としてどうなのー? ありえなーい!」

――テメェェェ!

 里香だけではなく、遠藤まで首を突っ込んできた。

「森田君がそんな、かっこ悪いことするわけないでしょ? ここはビシッと、男らしく、葉山先輩をデートに連れて行ってくれるわよ!」

――デートはどっから出てきたんだよ!

 俺はこの場を切り抜けようと、頭をフル回転させた。なんとかしなければ――そうだ!

「いや、デートとか無理だな! 金無いし! 俺って貧乏だからさぁ!」

 土壇場でひねり出した俺の言い訳を、長谷川が「文化祭の稼ぎがあるんじゃ?」とあっさり切り捨ててしまった。そして博史が「ナイス!」と長谷川に向けて親指を立てる。

――最後の頼みの綱は……!

「助けて! 俺を弁護して!」

 小田切にすがるように膝をつくと、小田切は「まかせろ」と俺の肩を叩いた。

「僕が示談案を提示しよう。葉山先輩とデートへ行くか。それとも、今ここでメイド服を着て社会的に死ぬか。さあ、好きな方を選んでくれ」

 まさかのデート・オア・デッド。

 突然博史が「優也! 優也!」と手を叩き始めた。そのノリは瞬く間に体育館内全体に広まり、みんなが優也コールを始める。完全に仕組まれた。

 こうなってしまった以上、受け入れるしかない。断れば、絶望的なまでに男が廃る。

「わかったよ! デートすりゃいいんだろ!? どこへだって行ってやるよ! 国内か!? 海外か!? それとも宇宙船に乗ってナメック星か!?」

 陽菜子先輩は「優也さんっ!」と叫んで舞台から飛び降り、人をかき分けて一直線に俺の方へ向かってきた。俺は逃げる間もなく陽菜子先輩にダイブされ、両足に陽菜子先輩の体重がのしかかる。次いで、黄色い歓声が耳を鋭く突いた。


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