「悪の勇者、なのです!」
わたしのママはねこみみ魔女。パパは人間の勇者。だからわたしはねこみみ勇者なのです。
……なのです、が。つい先日、うっかりソーセージの誘惑に負けて魔王の軍門に下ってしまいました。
あれです。魔王を倒さなければ報酬をもらえない出来高制の勇者よりも、魔王の下はいえ組織に属した方がお給料とか出そうな気がして、こっちのがいいんじゃないかとかちょっと思ったのはナイショです。
……悪墜ちした勇者とか、ちょっとかっこいーかも、とか思ったりはしていません。ほんとうです。にぅ。
今日も酒場に向かいます。
ダメおじちゃんは、いつものようにカウンターで飲んだくれていたので、お膝によじ登ります。あーん、と口を開けたら、から揚げがお口につっこまれました。もぐもぐ。おいしいです。
「ハァー。今日も来たのか、ちびねこ勇者よぅ」
ダメおじちゃんが、呆れた様な声で言いつつも、こんどは揚げたジャガイモをわたしのおくちにつっこんでくれました。にぅにぅ。でりーしゃすなのです。
「おじちゃんの軍門にくだったので、ちゃんと面倒見てください。にぅ」
「ちゃっかりしてやがる。ガハハ」
おじちゃんが、わたしのねこみみをなでなでしてくれました。わたしの頭の上の妖精さんも、おじちゃんに何かもらったようです。……食べ物のカケラがぽろぽろ上から落ちてきます。
「ところで魔王おじちゃんは、ふだんは何をしてるのです? お手伝いするです」
食べた分は働かなければなりません。いったい、どんな悪いことを言いつけられてしまうのでしょうか。わくわく。にぅ。
「あん? つか魔王じゃないんだが、おじちゃんはだなー……」
「あー! こんなとこにいたにゃー」
おじちゃんが何か言いかけたとき、酒場のドアをバン、と蹴り破ってママが入ってきました。
まずいです。知らないおじちゃんに貢がせていたとばれたら怒られそうです。
「おう、ねこみみ魔女か」
「勇者は帰ってきたならちゃんと家に顔出すにゃー」
「……にぅ?」
勇者ってわたしのことじゃないのです?
「おや、ねこみみ勇者もパパと一緒だったにゃ?」
……どうやら、ダメおじちゃん。わたしのパパだったようです。にぅ?