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Dark・Zone  作者: 桜龍
■第1章 ―始まりの鐘 編―■
4/5

■No.3 集う仲間




 「なんだ、烏伽か」


 「……へ?」


 教室で襲われ、押し倒された烏伽の上から聞こえてきたのは女の声だった。


 その声と同時に、下あごに突きつけられていた硬く冷たい感触がなくなる。


 「あ、あかり…?」


 顔を上げてようやく自分の上に乗っている人物を確認する事ができた。

 黒いロングヘアー、黒い瞳。自分と同じクラスの宮本あかりだ。


 「良かったわね、あんた『赤』じゃなかったら撃ち抜いてたわ」


 はんっと、あかりがいつもする嘲笑で烏伽を見下ろしている。

 さっきまで自分に突き付けられていた物の正体も解った。


 バレルの上に窓が開いた独特のフォルム…コルトパイソン375マグナム。4インチ。


 彼女の手には大きい、十分な存在感のある銃だ。


 「な、なんでそんなもの持ってるんだ…?おもちゃ?」


 例えモデルガンでも銃口を人に向けてはいけない。烏伽はそう教えられてきた。


 「本物かどうか。なんなら試しに1発撃ってあげましょうか?どこがいい?」


 「ないないないないない!危ないっ!!」


 ましてや、撃つとき以外引き金に指をかけてはいけない。とも教えられた。


 「じょーだんよ」


 そういうあかりの顔は笑っていなかった。

 鬱陶しそうに左手で長い髪をかき上げる。その手首に見慣れない白いブレスレットがはめられていた。


 ブレスレットにしてはぴったりと手首に密着し過ぎている気がする。

 しかし烏伽の目線はさらに下に釘付けになった。セーラーの制服の胸元がぱっくりと開いていて普段より肌の露出が多い。見上げる烏伽の目の前であかりの豊満な胸が揺れる。


 「…どこ見てんのよ」


 「…じゃ退けよ…?」


 あかりは未だ烏伽の上に馬乗りになったままだ。腰骨の上あたりに重みと暖かさを感じる。重い、とまでいかないが、違う意味で危ない気がする。色々と。


 「退く前に一つ聞くわ」


 なんの前触れもなくあかりが烏伽に覆いかぶさる。烏伽の耳元でささやいた。


 「答えなさい。『One for all/All for one』」


 「……は?」


 突然のあかりの行動に烏伽の頭は急停止してしまった。


 体は重なるほど接近して吐息は触れるほど近い。鼻腔に届くのは甘い柑橘類の香り。ほんのり混じる汗の匂いすら芳しい。


 「答えなさい」


 あかりが少し体勢を浮かせて対の目でこちらを見る。

 黒い、眼光。


 その強い瞳に引っ張られるように、ふわふわと浮上しかけていた意識を引き戻す。


 「あ、えっと、『一人はみんなのために、みんなは一人のために』…?」


 「……そう」


 あかりは何事も無かったかの様にすっと体を起こした。


 「いいわ。今のは忘れなさい。……あたしが合図するまで動くなって言ったの、聞いてなかった?杉浦」


 後半は烏伽に向けられた言葉ではなかった。

 あかりが睨み付けているのは前方の電子黒板だ。


 電源の入っていない黒板が、艶やかな鏡のように教室を映している。その白黒の鏡の中にあかりの背後にある扉が映っている。


 「悪い。聞いてなかったみたいだ」


 その扉からのっそりと長身の男子が姿を現す。


 青いぼさぼさの髪。烏伽の一番の親友と言ってもいい存在。杉浦徹也だった。


 「テツ!」


 親友の姿を捉えた烏伽は一瞬で安堵と歓喜の混じった笑顔になった。

 徹也は表情を変えずに「よお」と、まるで朝のあいさつの様に軽く手を上げて応える。


 「……良い格好だな、お二人さん」


 「「こいつと?!じょーだんっ!!」」


 烏伽とあかりの怒号が綺麗に重なった。




 「黎瑠と山川を呼んで来るわ」


 あかりが教室を出た後、烏伽と徹也はその場に取り残された。


 「なんであかりがあんなもの持ってるんだ?まさか本物じゃないよな?!ってか、今日のこの学校何なんだよ?!先生は?他のやつらは?」


 「後で説明する。とりあえずお前が無事で良かった」


 「心にもないことを…」


 烏伽が悪態づいて徹也の方を見ると、徹也も烏伽を見ていた。

 一瞬目が合う。


 ドキリとして烏伽の方が目を逸らす。


 「あ、えっと、黎瑠ちゃんと淳も一緒だったわけ?」


 明らかに不自然だが話題をすり変えてしまった。


 徹也は普段、人の目を見ない。

 だから、びっくりした。


 「あぁ。俺たちは4人で動いてた」


 もう徹也はこっちを見ていない。あかりが出て行った教室の扉の方を焦点の合わない無表情でぼんやりと見ている。


 「ウサとか宮野とか、女子たちは?」


 「宮野は休みだと思う。朝、来てなかったみたいだ。ウサたちはどこに行っちまったのか分からない」


 ぽつりぽつりと返されても、今のこの状況を理解できる納得の説明はなかった。


 自分の質問の仕方がまずかったと考え直す烏伽へ、今度は逆に徹也が聞いてきた。


 「…さっき、宮本と何を話してた?」


 「あん?あかりと?」


 自分の思考をいったん止めて、ついさっきの記憶を呼び起こす。


 「……髪が赤じゃなけりゃ撃ちぬいてただの、銃が本物かどうか試してやろうかって恐ろしい事を…」


 「いや、何か、こそっと言われただろ?」


 「……あぁ~……」


 見られてたのか。


 烏伽の脳裏に柔らかな感触と甘い香りがよみがえる。


 「なんか突然、『One for all.All for one.』って聞いてきて…」


 「そうか」


 即答で遮られた。もうそれ以上興味はないようだ。


 「なんだよ?そっちから聞いといて。悪かったな、期待されるようなことはなーんにもなかったよ」


 「……烏伽」


 「あん?」


 徹也はゆっくりと口を開いた。


 「………俺は…」


 言いかけて、ためらっているのか、考えているのか…次の言葉は出てこなかった。そのまま何も言わずにスタスタと歩き出す。


 半開きの扉を掴んで勢いよく開ける。


 「なに、どったの?テツ」


 烏伽がきょとんと後ろから覗く。廊下には誰もいない。


 「………、いや。………なんでもない」


 徹也はくるりと反転して教室の中へ戻る。その時、彼のベルトに挟まれている物がちらりと見えた。烏伽がそれを指さして。


 「……なんでそんなゴツいナイフなんか持ってんの?」


 「後で説明する」




◆◆◆




 あかりが階段下に待機させていたらしい黎瑠と淳を連れて戻った。烏伽との再会を二人は純粋に喜んでいた。


 「烏伽さんも無事だったんですね。良かった」


 「もーっ!電話もしたのに烏伽くん電源切ってたでしょ?!」


 「あぁ、そういえば…」


 烏伽は自分の鞄の中を漁った。学校から支給されている自分の携帯電子端末を探す。


 「出したところで意味ないけどな」


 「は?なんで…」


 ふと烏伽が徹也の左手にあかりと同じ白いブレスレットがはめられているのを見つけた。


 「それ、あかりとおそろい?」


 烏伽が指差すと徹也はその存在を思い出したように左手を軽く上げた。


 「あぁ、これは…」


 「ぼくもおそろいだよー!」


 「と、言うか、みんな付けられたみたいなんですが…烏伽さんはないですね?リング」


 「リング?」


 「それより、あんた17番だったわよね」


 言うが早く、あかりが一歩烏伽に近づき胸ポケットの中に入っていた生徒証を抜き去った。


 「なっ?!おい?なに人のロッカーを勝手に…」


 あかりは教室の壁に設置されているロッカーの鍵を、烏伽の生徒証をかざして開ける。

 その様子を烏伽以外の3人は黙って静かに見守っていた。


 驚いたのは烏伽だった。

 中から出てきたのは布に包まれた黒光りする長い棒…と言ってもロッカーの中に納まる長さなので約60センチと言ったところか。


 棒ではない。日本刀だった。


 「へぇ…これがあんたの武器か」


 あかりがすらりとその刀身を引き抜く。銀色の輝き。ずしりと重い鉄の刃。


 「なんで…俺、そんなもん知らねぇぞ…」


 「誰もあんたが校則違反だ銃刀法違反だなんて言ってないわよ。良かったじゃない、実用的で」


 「どこがっ?!」


 烏伽の全力のツッコミもどこ吹く風。あかりは金属音をたてて刀身を鞘に納めるとスカートのウエスト部分にそれを刺そうとする。めくれ上がったスカートの裾から白い太ももが露出するのを見て慌てて黎瑠が駆け寄った。


 「紐がついてるから、これでたすき掛けにした方がいいんじゃない?」


 あかりはこくりとうなずいて黎瑠に任せた。


 刀の存在をすんなり受け止めているクラスメイトたちを烏伽は理解できない。

そもそもあかりは拳銃まで持っていた。今は彼女が制服の上に身に付けているショルダーホルスターに納められている。


 徹也があかりの方をちらりと見る。


 「…烏伽のまで取るんなら、俺のコルトパイソン返してよ」


 「ダメ。あたしのと交換って言ったでしょ」


 あかりは徹也の方を見ずにそう答えた。


 「なんなんだ…今日の学校はなんなんだ…」


 烏伽が頭を抱えてどこからつっこもうかと悩んでいる。


 「この状況に名前が欲しいの?」


 あかりの声が5人しかいない教室に響く。



 「だったら簡単よ。……『ダーク・ゾーン』が始まったの」







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