表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/72

ダンジョン攻略、その四

「此処、何処だ?」

 ヴィーが大声で叫ぶ。

「同じ所をグルグル回っている気がするぞ」

 メンバー最年長のスロウも、少し焦っているようだった。


 ダンジョン第二十二階層:「迷路の間」

 クリア条件:「ミノタウロスを倒すこと」


 二十二階層は迷路となっている。クリア条件は迷路の真ん中にいる牛の頭に人間の体を持つミノタウロスを倒すこと。だが、迷路に入ってずいぶん時間が経つが、一向に真ん中へ辿りつけない。

「壁自体が動いている可能性が高いな」

 プライは汗をぬぐいながら、辺りを見渡す。行き止まりに遭遇した時、元来た道を戻ると微妙に来た道と違っていた。壁が動いているとしか思えない。

「どうするの?壁が動いているんじゃ、永遠にゴールまでたどり着けないわよ」

 ラストの言うことはもっともだ。このままでは、百年かかってもゴールには辿りつけない。既に「壁を破壊する」、「魔法で迷路を索敵する」という方法はとってみた。だが、どれも無駄だった。

 壁には防御魔法が掛けられており、どんな攻撃をしても破壊できず、索敵魔法は妨害魔法によって無効化されてしまう。壁によじ登り全体を見渡すという方法もとってみたが、無限に迷路が広がっているのが見えた。おそらく幻術の魔法も掛かっているのだろう。

 プライは十秒程考え、自分の考えを述べる。

「こういうのは、どうだろう?」

 全員、プライの考えに従う。反対する者は誰もいなかった。

 まず、壁が動く法則を見付ける。侵入者が動くことで迷路が動くのか、それとも時間が経つごとに迷路が動くのか、まずはそれを見極めることにした。

「イヤーアップ」

 アリスが聴力を強化する魔法を皆に掛ける。しばらく待ってみると、小さな音ではあるが、どこかで壁が動く音が聞こえた。調べた結果、壁はちょうど一分ごとに動くことが分かった。

 次に、壁がどのように動くのかを調べる。今まで通った道はアリスが全て覚えていたため、その記憶と今までの道とを比べる。あとは、壁がどのような規則性で動くのか見付けるだけだ。

「計算します」

 アリスが空中で指を振ると、空中に文字が現れる。それは、計算式だった。アリスは次々と計算式を空中に書いていく。計算式の意味はアリスにしか分からないが、とても複雑な計算式だということは分かった。

 約二十分後、計算していたアリスの手が止まる。

「できました」

 アリスは、ふうと息を吐く。

「ありがとう、アリス」

 プライが礼を言うとアリスはニコリとほほ笑んだ。後はプライ達が頑張る番だ。プライ達はアリスの指示に従い、迷路を進んでいく。


「グルアオオオオオオオオ!」

 三メートルを超えるミノタウロスが巨大な斧を振るう。「シン」のメンバーはその攻撃を躱していく。計算で疲労しているアリスは一番後ろだ。

「そりゃ!」

「グロオオオオオオオオ!」

 トニーがミノタウロスの足の腱を切る。ミノタウロスはグラリと体勢を崩した。

「おおおおお!」

 雄叫びと共にスロウがミノタウロスに斬り掛かる。ミノタウロスの体に深く大きな傷が付く。

「とどめだ!」

 スロウの付けた傷にプライが剣を突き刺す。剣は深々と突き刺さり、内臓に達した。

「グハッ」

 ズシンという大きな音と共に、ミノタウロスが血を吐いて倒れる。その瞬間、迷路が消えた。ゴゴゴゴゴゴと次の階層に進むための扉が開く。

「何とか、クリアできたな」

「もう迷路は、もうこりごりだぜ」

 トニーが大きなため息を吐く。

「今回は、アリスのお手柄だな」

 スロウの言葉に皆が頷く。彼女がいなければ、ミノタウロスの元に辿りつくことは相当困難になっていただろう。

「いえ、わ、私は別に……」

 皆に褒められ、顔を赤くするアリス。その微笑ましい光景を見て、プライも笑う。和やかな雰囲気で「シン」のメンバーはこの階層を後にした。


 彼らが去った後、ミノタウロスが立ち上がった。プライ達に付けられた傷はすっかり元戻っている。ミノタウロスが立ち上がるのと同時に迷路も再び現れた。

 その中心で、ミノタウロスは次の侵入者を待ち構える。


 ダンジョン攻略メンバー「シン」。第二十二階層クリア。



「ゴボバ!」

 巨大な顎に挟まれ、ミノタウロスの体が潰れる。顎の力で骨は砕かれ、鋭い牙が肉を貫く。

『ペッ』

 ティラノサウルスは噛み潰したミノタウロスを吐き捨てる。潰れたミノタウロスは壁に叩きつけられ地面を転がる。

 目的地に辿りつく、最短のルートは直線である。

だが、実際は障害物を避けなければならないため、何もない平地でもない限り真っ直ぐ進んで目的地にたどり着くことは難しい。

 だが、障害物を壊す圧倒的な力があれば話は別だ。

 迷路に入るとティラノサウルスは真っ直ぐ進んだ。壁があろうがなかろうが、一切蛇行することなく、直進した。迷路の壁には防御魔法が掛けてあったが、ティラノサウルスの進行を止めることは出来なかった。ティラノサウルスが壁にぶつかる度に壁はまるで発泡スチロールのように壊れていった。時間にして僅か三十秒程でティラノサウルスはゴールまでたどり着いた。

 ティラノサウルスに吐き捨てられたミノタウロスが壁にぶつかり、地面を転がると迷路が消えた。そして、次の階層への扉が開く。

 ティラノサウルスが扉を通る。その後をナノが追いかける。


 ティラノサウルスとナノが去った後、ミノタウロスが立ち上がった。ティラノサウルスに負わされた致命傷はすっかり元に戻っている。ミノタウロスが立ち上がるのと同時に迷路も再び現れた。

 その中心で、ミノタウロスは次の侵入者を待ち構える。


「大型獣脚類ティラノサウルス及びエルフ族ナノ」、第二十二階層クリア。



 ダンジョン第二十八階層:「七首の間」

 クリア条件:「ヒドラの頭を破壊すること」


 七つの頭を持つ巨大な大蛇、ヒドラがプライ達に襲い掛かる。

 ある頭は火を吐き、ある頭は氷を吐き、ある頭は雷を吐き、ある頭は毒液を吐き、ある頭は酸を吐き、ある頭は鉄を吐き、ある頭は黒い煙幕を吐いた。

  

「おりゃあああ!」

 雄叫びと共にスロウがヒドラの頭の一つを破壊する。ヒドラの頭はそれほど頑丈ではなく、魔法や武器で簡単に破壊できる。ただし、破壊してもすぐに再生してしまう。

スロウに斬られた頭もすぐに再生してしまった。

「外れか……次はどの頭だ?」

 クリア条件が「ヒドラの頭を破壊すること」にも関わらず、ヒドラの頭は破壊してもすぐに再生してしまう。そこで、プライ達は七つの頭の内、六つは偽物で本物の頭は一つだと推測した。この階層をクリアするには七つ頭の内、本物の頭を破壊しなければならないと考えたのだ。プライ達は、ヒドラの頭を一つ一つ破壊した。ヒドラの頭はそれぞれが違った攻撃をするので直ぐにどの頭を破壊したのか判別がつく。

「いや、今のが最後の頭だ」

 プライの言葉にスロウが目を見開く。先程の攻撃で、全ての頭を破壊したというのなら、どうすればクリアできるのか?

「いや、大丈夫だ」

 この事態をプライは予想していた。大声で皆に呼びかける。

「皆、俺を援護してくれ!」

 叫ぶと同時にプライは走る。ヒドラの頭の一つがプライに炎を吐く。アリスが防御魔法をプライの周りに展開して、ガードする。次に氷を吐く頭がプライに狙いを定めた。

「させるか!」

 ラストが矢を放つ。矢は氷を吐こうとしていたヒドラの目に突き刺さった。目に矢を受けたヒドラの頭は思わず攻撃を中止する。仲間達からの援護を受けて、プライは目的の場所に辿りついた。

プライが目指していた場所。そこはヒドラの尾だった。

「くらえ!」

プライはヒドラの尾の先端に剣を突き刺す。

「ギエエエエエエ!!!」

 剣で貫かれた尾が突如として、尾が二つ分かれ叫び声を上げる。二つに分かれ尾の内側には牙と舌が見える。それは、まぎれもなく口だった。さらに尾の皮膚が動き、そこから目が現れる。

「やはり、こちらが本当の頭か」

 擬態。尾だと思っていた部分こそが、ヒドラの本当の頭であり、頭だと思って攻撃していた部分が尾だったのだ。

「グエエエエエエエエエエエエエエエ」

 本当の頭に剣を突き刺されたヒドラは断末魔を上げ暴れたが、しばらくすると動かなくなった。ゴゴゴゴゴと次の階層の扉が開く。


ダンジョン攻略メンバー「シン」。第二十八階層クリア。



「シャアアアアアアアアアアアア!」

「グオオオオオオオオオオオオオ!」

 二体の爬虫類が雄叫びを上げ、互いに相手を威嚇する。一方は頭が七つある大蛇。もう一方は二本足で歩く巨大なトカゲ。体格は、やや七つ頭の蛇の方が上だ。

「グウオオオオオオオオオオオオ!」

 先に動いたのは巨大なトカゲ。凄まじいスピードで、あっという間に七つ頭の大蛇との距離を詰める。

「シャアアアアアアアアア!」

 一気に距離を詰められた七つ頭の大蛇は慌てて攻撃する。それぞれの頭が炎、氷、毒、酸、鋭利な鉄、黒い煙幕を吐いて、巨大なトカゲを攻撃する。

 だが、巨大なトカゲにその攻撃は全く通用しない。巨大なトカゲは大蛇の七つある頭の一つに噛み付いた。

「グルアアア!」

 そして、まるで巴投げのように七つ頭の大蛇を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。七つ頭の大蛇の胴体、そして尾が激しく叩きつける。

「グベッ」

 地面にめり込むほど激しく叩きつけられた七つ頭の大蛇の尾が割れる。

 二つに分かれた尾の内側には牙と舌が見える。それは、まぎれもなく口だった。さらに尾の皮膚が動き、そこから目が現れる。尾だと思っていた部分が七つ頭の大蛇の本当の頭であり、頭のように見えていた部分が七つ頭の大蛇の尾だった。

 七つ頭の大蛇の本当の頭は、ピクリとも動かない。地面に叩きつけられた衝撃で、頭蓋骨が割れ、脳に致命的なダメージを受けたのは明白だった。

『……あれ?』

 巨大なトカゲは首を捻る。投げ飛ばしたのは単に相手の体勢を崩す為であり、これで勝敗が決まるとは思っていなかったのだ。

『こっちが頭で、あれ?じゃあ、こっちは?こっちも頭?あれ?』

 巨大なトカゲは、七つ頭の大蛇の体の構造を興味深げにしげしげと見る。ゴゴゴゴゴゴと次の階層への扉が開いてもなかなか、その場から動こうとしなかった。共にいたエルフも巨大なトカゲが動くまで、その場から動くことはなかった。


「大型獣脚類ティラノサウルス及びエルフ族ナノ」、第二十八階層クリア



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ