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32.仕組まれた罠、新たなる序曲

「あ、たった今、塩崎防衛大臣が会議室から出て来られました。すみません、防衛大臣、塩崎防衛大臣、この度重なる挑発に対して、日本はどの様に対応されるのか、具体的な総理からの指示はあったのでしょうか?…お願いします、一言だけでも」

 1時間半にも及ぶ、シャットアウトされた重々しい空間から出てきた塩崎防衛大臣は、マスコミの執拗なまでの質問には、無表情のままに、足を速めていた。日本時間、午前7時30分に打ち上げられた、人工衛星と称される長距離弾道ミサイルに緊張が走ったのは言うまでもない。ただ、未然にアメリカ国防省よりそのような動きがあるとの情報を得ていたことから、関連各国はすでに厳重警戒態勢に入っており、我が国ではPAC-3が、前日の内に各地数ヶ所に配備されていた。国内に保持されているイージス艦6隻のうち、日本海に於いて巡視していた4隻にも眠れぬ夜が続いていた3日目のことだった。

 塩崎は警備に守られながら、総理官邸を飛び出し、専用車に乗り込んだのはミサイルが日本上空を通過し、太平洋上に落下したという報せの入った4時間後のことである。幸いにも今回も事なきを得た。

「どういうことだ?結局は失敗しただと?一体、何をやっているんだ?」

 政務官、一人の報告に対して、塩崎はその怒りを露わにしていた。

「ったく、あれほど計画は間違いのないものだと言っていたのにか?」

 車は防衛省市ヶ谷庁舎を目指していた。庁舎の外にも数十人ものマスコミと、右派と目される数十人とが待ち構えていたが、目立ったトラブルもなく、その間を滑り込むように車は庁舎内へと消えていった。

 車を降りた塩崎は、小柄な政務官二人よりも頭一つ分ほど身長が高かった。少しがたいのよい彼は、またこれがどこにいても目立ってしまう理由でもあったのだが…。その男が明らかに苛立ちの表情をして部屋へと向かうのだ。誰もその歩みを止められる雰囲気ではなかった。

「少しの間、一人にしてくれないか?」

 そう側近に告げると、とある部屋へと塩崎は姿を消した。まだ昼過ぎだと言うのに、その部屋は厚いカーテンに覆われていて、外部からの明かりをまったく取り入れていなかった。ただ部屋の空調だけは適温に保たれているようだ。塩崎は首元をきつく締めていたネクタイを片手で緩めながら、ゆっくりと呼吸をし、冷静さを取り戻そうとしているようだった。薄暗い部屋に置かれたデスクへと足を進め、そしてデスクの上に全て集約されている一部のボタンを押すと、部屋全体に明かりが灯った。

「ん?き、君か、びっくりするじゃないか、明かりもつけないで」

 高級そうな黒革のソファーに身を委ねていた男が、外していた眼鏡を手に取り、スッとかけると、ゆっくりと立ち上がった。

「今回は、地下組織を明るみにすることは出来ませんでした」

「報告は聞いた。それは失敗したってことだな?」

 塩崎はその重い体の全てを丈夫な椅子へと預けた。

「いえ、ある意味、成功ですよ」

 その言葉に塩崎は、また苛立ちがこみ上げてきてしまい、デスクにその握り拳を落としていた。

「何が、成功だ?防衛装備三原則は国会を通過したものの、まだ反対を唱える国民の方が圧倒的な数ときている。今回の長距離弾道ミサイルや、国際テロが東京を、日本全土を震撼させ、それらの国民を押さえ込んでこそ、成功なんだ。そして、それでもこの国は万全を期して国民側の味方にあり、推進している東京地下施設をも正当化する。それが目的だとしたはずだ。次回の衆参同時選挙を持って、我々は大勝し、更にこの国を導かなければならん。我が国は国際危機に瀕しているのだ。国民には知られてはならんが、自動車産業や、宇宙開発で、どうして国が栄える?いつの時代も武器や戦争こそが金を産んできたんだ。だから、どうしようもない人間は過ちを繰り返し、未だに間違いだと気付いてても、私欲に走るんだ。ここにいる君も私もそうだろう。それとも何か?君に任せたのが私の間違いだってことか?」

「いぃえ、ただ我々の行く手を邪魔する最大の敵となる人物を消すことが出来たから、成功だと言っているんです」

 塩崎のその言葉にも男は動じていなかった。

「一体、それは誰だ?」

「浅原という人物です」

「あの湾岸署の警部補か?」

「えぇ彼の今までの実績も能力保持者であってのものでした」

 塩崎は絶句した。能力、能力とは聞いていたが、それはこの男から聞いているだけのことであった。アンフィスバエナのMr.Yという人物がそうだからと、この計画は間違いのないものだと、そう聞かされていたのだ。

「そもそも君の言う、その能力とやらを私も信じ切れていない。本当にそんな人物達が現存するのか?それに話に聞いた所によると、その浅原という人物だけではないだろ?Mr.Yも消息を絶ったというじゃないか。これから、どうやって我々の計画を実施していくつもりなんだ?」

「Mr.Yにも消えてもらったんですよ」

「何?どういうことだ?」

 塩崎には、またもやその言葉に耳を疑った。

「奴は私達の計画だけでなく、東京スカイツリーをも爆破しようとしましたからね。それはそれで厄介なんでね。私が阻止するのに一枚かまさせて頂きました」

「何?東京スカイツリーをだと?で、君は何を考えてるんだ?堤下…」

 堤下はその眼鏡の奥に冷酷なまでの光を輝かせていた。

「最大の邪魔になる存在を、こちらの扱いにくい駒を使って消し去ったまでのことです。毒は毒を持って制す。違いますか?」

「だが、こちらも最大の武器を失ったんじゃないのか?」

「そうでもないですよ、あ、その電話、総理官邸からだと思いますが、そこの置物、高いんでしょう?気をつけて下さいね」

「ん?何の事だ?君は何を言っているんだ?」

 そう塩崎が言った時、二人の会話以外には静かだった、その部屋にデスク上の電話が鳴り響いた。塩崎が立ち上がり、堤下の言葉を気にしながら恐る恐るその電話を出ると、それは総理官邸からの電話だった。

「まさか、君は…君もか?」

 塩崎はゾクッとした背筋に身を震わせ、その拍子に側にあった置物に手が振れてしまった。その置物は激しい音と共に高級感を失っていった。

「私は注意しましたがね」



 堤下は防衛省を後にすると、待っていた車へと乗り込んだ。

「しかし、浅原もMr.Yも同じように消えたはずだ。なら何故、私のとこに警察はたどり着き、東京スカイツリーの爆破を食い止めることが出来たんだ?恐らく事が起こる以前に仕掛けられていたはずだが。そして、Mr.Xまでが釈放されることもなく、あの交差点の爆破をも警察は阻止した。誰の指示だ?少なくとも二人が消えた時間には、他の誰にも気づかれていないはずだが…」

 堤下は暮れ行く東京湾の静けさに目を奪われていた。彼が考え事をする時には、いつも穏やかな情景を思い浮かべたり、見ていたりするのが常だ。そんな時は決まってクラシック音楽やヒーリング音楽を聴く。彼のそんな様子を見た運転手は何も言わずに、音楽を流し出すのだ。

「ん?待てよ。あの東京スカイツリーのエレベーターを降りる際に、一緒にいた奴は誰だ?どう見ても警察署員ではなかったようだが…まさか?」


「面白い、もし彼が警察署員じゃないなら、探りを入れてもその消息を掴むことは無理かな?だが、もしそうなら、私が必ず炙り出してやる」

 車は高速を横浜方面へと走らせていた。まるでその夕陽を掴みに行くが如く…。



「REW〜リウィンド〜」第一章 継承 完

 イメージ動画 https://youtu.be/yuI18uCdkrI


「REW〜リウィンド〜」第二章 再生 へ続く

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