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25.不審物の在り処

「なんて事を言うんですか?よりにもよって私たちの切り札となるんじゃないですか?この秘密は…」

 取調室を出てきた浅原にまくしたてるように、質問を投げかけた。直人には、どうしてもこの浅原の言動が理解出来なかったのだ。

「なぁに、私たちがMr.Yに次に会う時には、否応無しにもバレてしまうんだ。それに奴がMr.Yに会うのも我々と同じタイミングでなきゃならん。一網打尽にするならな。ならば私達自身がバラそうが、奴がバラそうが変わりはないことだろ?それに、また昨日に我々が戻ってしまえば、私の言葉もMr.Xの頭の中からは消えてしまうんだから、少しくらい奴の反応を楽しんでも罰はあたらんだろ?」

 呆れた。直人は浅原がここまで先読みして、行動していることに感服してしまった。そうだ、僕たちは絶対に勝たなければならないんだ。Mr.Yが相手でも勝たなければ、必ず被害は底知れないものとなる。以降、誰も太刀打ち出来る相手はいないのだ、我々以外に。そんな小さなことを意識している時間は無駄な事であった。

「よし、行くぞ」

「え?どこへ?」

 浅原は既に署から出ようと中央ロビーを目指していた。

「東京スカイツリーだろ?新たな情報収集をせねばならん。だがな、その前に飯だ」

 二人は署を後にした。


 スカイツリーの周辺は厳戒態勢がしかれていた。この警察の動きを見て取ったのか、それともMr.Yが予め告知していたのかはわからないが、その周辺には野次馬に紛れて各局のテレビが生の映像を届けようと、既にその多くがスタンばっていた。

「こんなに大事になって…本当に仕掛けられているんですかね?」

 警察車両を降りた直人は先を行く浅原の背後から、そう話しかけるのがやっとだった。人の関心事というものには、恐怖さえも感じられる。その野次馬に押しつぶされまいと必死だった。

「奴等が仕掛けていると言うなら、間違いなく仕掛けてあるさ。国民の関心というのも当たり前のことだ。東京スカイツリーといえば、現存する電波塔としては、KVLY-TV塔の628.8メートルを上回る世界第一位を誇るものとして、生まれたんだ。世界的なテロ集団が自分達の力を誇示する的として、ここを選んだんだ。日本のみならず、今やこのニュースは世界の注目を集めているだろうよ」

 ようようと立ち入り禁止区域へと達した二人は、その中へと足を踏み入れた。

「え?なんで、彼は入れるのよ?私達も入れてよ」

「あ、茜さんだ。TV局も全社が来てるんじゃないですか?」

「この電波塔は、NHKを含む全6社の夢の形なんだ。彼らにとってはそこの爆破予告なんて、生きた心地はしないだろうよ」

 二人に下山が歩み寄った。

「爆弾処理班も、松島さん達も必死になって不審物の発見に全力を注いでいますが、まだ見つかっておりません」

「ん?彼等は?」

 その時、数台のリポーター、カメラに取り囲まれている数人の責任者のような格好をした男達が浅原の目に入った。

「スカイツリーの設計・監理や施工会社、通常の安全保障会社の責任者や広告塔である人達みたいですよ」


「いいですか?我々の英知が結集されましたこの塔には何も不安な要素はありません。全てにおいて世界一を誇るものなのですよ。強風や巨大な地震の揺れにも十分に対処できています。壁杭を連続させて、放射状に地中に張り巡らせた基礎の部分は地盤と一体化しております。ちょっとやそっとでは倒れるようなことはありません」

「また、我々の安全保障も常に24時間、警備をおこたったことはございません。不審者が出入りしていたのなら、爆発物を設置される前に取り押えることができていたはずです。サミットやオリンピックにも備えて十分なテロ対策はしてあります。ご安心下さい」

「すみません、設計はおたくの会社が?」

 浅原はカメラにも関わらず、質問に割って入った。

「そうですが…貴方は?」

 浅原は身分証と共に警視庁の手帳を見せ、更に続けた。

「私はここの責任者となるわけだが、このスカイツリーの設計図は拝見できますか?設計図と言っても表舞台のものではないですよ、業務用のエレベーターはどこまで地下に潜ります?是非、その辺のこともお聞かせ願いたい」

 浅原の言葉に各々は青ざめた顔をした。

「え?すみません。今の質問の意図がわからないんですが、設計図にない隠された場所があるって言うんですか?どうなんですか?」

 リポーター達の質問責めに一斉に火がついた。

「どういうことですか?お答えください」

「ば、馬鹿な。何を言っているんだ?彼は本当に責任者なのか?騒動を大きくする目的はなんなんだ?」

 リポーターに揉みくちゃにされそうになった人物達を必死でガードマンは取り押さえようとしていた。


「どういうことなんですか?」

 直人が一部始終を聞いていて、浅原に質問を小声で投げかけた。

「地下の構造図を覚えているか?東京タワーならまだしも、ここ東京スカイツリーはジオフロント計画以降の産物だろ?繋がりがないとは到底、考えにくい。まだ、構造図には予定地区のように記されていたが、あの構造図はいつ製図されたかもわからん。不審物が見つからないとなると、君ならこの事実をどう考える?それにこの建造物はボヤ程度の爆破では倒れん。だが、倒さなければ、自分たちの力は誇示できないんだ?効率的に倒壊させる方法は?地下にその秘密があると思わないか?」

 側にいた下山はこの二人の会話が何を意味しているのか、全くもって理解できなかった。

「あのー、すみません。私にもわかるように説明してもらえませんか?」

 そう言った時だ。彼等に近づく者がいた。

「貴方は何かを知っておられるようですね。貴方ならこの惨事を止められますか?もし、その自信がおありなようでしたら、私についてきて下さい」

 そう男は浅原の耳元で囁くと、スカイツリーの方へと浅原のほうに振り向きもせず、足早に歩き出した。

「行くぞ」

 浅原は、直人と下山を従えて、その後を追った。


 その男とともに業務用のエレベーターに乗り込むと、男は徐ろにボタン表示のない、少し下がった場所に指紋を押し付けた。

「ここに指紋を読み取るチップが埋め込まれてあります。間違って触ってももちろん作動することはありませんよ。無論、あなた方のお一人が触っても誘導はしてくれません」

 そう言うと、エレベーターは認識をしたのか、4人の体に宙へと浮かせる感覚を体感させていた。高速で下降し始めたのだ。

「どういうことなんですか?」

 下山の問いには誰も答えを口にしなかった。ほんの数分の間に下降が止まったのだろう。両足に自分の体重が重くのしかかった。

「私も久しぶりに足を踏み入れます。気をつけて下さいね」

 エレベーターのドアが開くと、やはり紛れもない、ジオフロント構造の空間がそこには広がっていた。そして、彼等が目にしたのは要所要所に夥しいまでに据え付けられた爆弾の数々だった。

「まさか、こんなことが…」

 案内をした男は絶句していた。

「後は私達に任せていただけますか?」

 男は静かに頷いた。

「爆破予告の時間ってあるのか?」

「えー、午後3時です」

「奴等はここに私たちの気をそらせておいて、分散させる気だな」

 少し考える素振りを見せると、浅原は

「一旦、此処を出よう、私に考えがある」

 そう言って、3人とともにエレベーターの方へと乗り込んだ。

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