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旅路怪奇譚 異世界

作者: the.cat

私は、仕事の休暇によく自転車で地方に旅をする。 山を越え 都会を後にし 自分が望む所へ ペダルを漕いでいく。


〜プロローグ〜

人間が普段、生活している世界… 青い空、緑豊かな森林、渓流を水が流れる清く美しい川の水…そして、あらゆる生命。 それは、私達人間が普段感じている世界… もし、その世界が、もう一つあるとしたら? 私達が知らない 入ってはいけない世界があるとしたら…



夏の日差しに汗をかきながら、 目的地へと向かい休まずペダルを漕ぐ泰造。止まれば、灼熱の炎天下39度の殺人的な暑さが、一瞬にして水分を蒸発させ、ライダーのミイラを生成する阿房臭い環境の中、泰造は、山道の間道をジグザグに進んでいた。

夏の風物詩である油蟬の鳴き声が森に鳴り響く中、ようやく山を抜け、ポイントの川へと辿り着く。 川沿いを走って行くと前方にコンビニが見えたので、一先ずそこで休むことにした。

コンビニの店内は、非常に涼しく飲み物もある。 まさに旅人のオアシスである。

泰造は、コーヒーを飲みながら、頭の中に入っている地図を広げてみた。

(現在地から南の方角4km、〇〇店から2番目信号を左折…〇〇街道0.5km直進… 後は、川沿いに走って行く…これで今回の旅も無事大詰めかな。)

残り少ないコーヒーを一気に飲み干し 目的地へと向かうためコンビニを後にした。


南の方角へしばらく進んでいると 左側に見知らぬ古いトンネルが目に入った。 (こんな所にトンネルなんかあったか?)

トンネルに近づいてみると、付近は、夏にもかかわらず 妙に涼しかった。 いや 寒いと言ってもいい。

好奇心から少し寄り道していこうと思った。 腕時計の現在時刻は、12時15分。 時間帯としても2時間半も余裕がある。

トンネルの前に立つとそれと同時に背中を押されるかの様に風が吹いた。 トンネルがまるで、風を吸い込んでいるかの様。 泰造は、好奇心と冒険心を同時に抱えトンネルの中に入っていった。


トンネルの中は、シンとしており、自転車を漕ぐ音だけがこだましている。また、照明ひとつ無く、自転車のライトだけが、頼りだった。

しばらく進んでいくと 遠くに紫色の光が見えてきた。それと同時に息が凍り、身体を貫く程の鋭い冷気が、身体へ伝わった。 流石に泰造も恐怖を感じ、引き返そうと思ったが、(ここまで来て)という思いがあった。 体を震わせながら、泰造はトンネルの外へ出た。


外へ出た泰造が目にしたものは、生まれて22年間見たこともない景色だった。

辺り一面街だが妙に違う。 どれも建物が半壊しており、人の気配は無く 動物、鳥さえもいない。 絶え間無く吹く風の音は、人の呻き声かの様に聞こえる。 泰造が驚いたのは、それだけではない。空の色と、気温である。 空の色は、驚く程紫色で、雲一つ無く、頭上に太陽らしきものが鈍く光っていた。まるで朧月の様に。

外の気温は、まるで立冬並みで息が凍るほどだ。

この時の泰造は、恐怖で引き返すのではなく これまで一度も味わった事のないスリルや冒険心の方が勝っていた。

すぐさまスマートフォンを取り出しこの世界を隅無く調べ 撮影する事に決めた。


自転車を引きながら街へ入って行く泰造。 街並は、西洋なのか東洋なのか複雑な構造をしていた。 マンションの様な大きな建物もあれば、小さい日本家屋らしき家も多々ある。しかし、どれも半壊していた。

泰造は、その家々、空の色 川があったであろうほとりも 全てカメラに収めた。

(これはいわゆるゴーストタウンだな…)

街の奥に進むにつれ寒さが強まってきた。 泰造は、もともと寒さに強いが、これは度を超えていた。 同時に息苦しくなり、血生臭い臭いまでしてきた。 流石の泰造も戻ると決心し引き返そうと回れ右した際 トンネルが目に入った。

(最後にトンネルを撮るか…)

トンネルに近づいてみると そうも長くないトンネルだと分かった 先の方に青い光が光っていた。

泰造がカメラを構えた。その時、トンネルから 髪を振り乱しながらこちらに向かってくる老婆が目に飛び込んできた。

泰造は、腰を抜かし身動きが取れない。老婆は、どんどん近づいてくる。 遂に老婆は、泰造の前に立った。泰造は、老婆の顔を見た瞬間凍りついた。

肌の色は赤紫に近く、驚くほど痩せていた。 左目の眼球はなく 右目は、失明しているのか白く濁っていた。

老婆のビジュアルにビビっている泰造。 老婆が口を開いた。

(ここに来てはいかん‼︎ 直ぐ引き返せぇー‼︎)

驚くことに老婆の声は、野太い男性の声だった。また老婆の息は、強烈な血の臭いで鼻が痛くなり無意識に手で鼻を抑えた。

(お前は、ここに居てはいかん‼︎早く帰れぇー‼︎)

ようやく足が動き 無我夢中で泰造は、自転車でもと来た道を全速力で走った。 同時に後ろの方から (ゴゴゴゴゴ)と重機でも走ってるような音まで聞こえ出した。

動物的な本能であろう。決して後ろを振り向かない方がいいと悟った。

街まで差し掛かった瞬間、妙な視線を感じたので右側を見ると、半壊した家々の隙間から、人らしき物が覗いているのが分かった。左側を見ても何か気配を感じる。

(まさか、ずっと監視してたのか⁉︎)

一気に背筋が固まりゾッっとした。

その時、脳裏に(マズい‼︎連れてかれる‼︎)


今何故、その事を思ったのか分からないが、このままだと命ある人ではいられないと思ったからだろう。


ようやく街を抜け、トンネルが見えてきた。

泰造は一心不乱になりながらトンネルの中に飛び込み、ただ走り続けた。

だんだん気温が暖かく、森林の良い匂いがしてきた。

鉄砲玉でも出るかの如く泰造は、トンネルを出 30分掛けて急いで自宅へ戻った。


泰造は、魂でも抜けた様に、居間でボ〜としていた。

ふと、時計に目をやると12時46分

(12時台…あれから…時間が経っていない…。)


その後泰造は、熱を出し 完治まで1週間はかかった。



泰造は、あの日のことを友人に話したが、笑われるだけだった。

(泰造 夢やて! そんな事があるわけないじゃん!)

(本の読みすぎなんじゃねーの!)

少しムッっとしたが、こちらには証拠がある。 スマートフォンに撮った画像や動画が!

スマートフォンのフォルダを開け 友人に渡した。

友人は、集まってまじまじと見ていた。

(ほらな!撮れてるだ…)

言いかけた途端、また爆笑の嵐である。

(泰造!何を撮ってるんだよ!しかも何枚も!)

驚いてスマートフォンの画像を見てみると ただの黒塗り画像だった。 動画も見てみたが、黒塗りで音も全く撮れていない…。

(どんまい!泰造!)

方をポンとたたかれ 友人達は、気になってる女友達の話をし始めた。


(いや、俺は確かに見た。あの風景、血生臭い空気…それに、あの老婆…俺は、確かに居た!)

泰造は、悔しさからもう一度 確かめるべく あのトンネルに行くことにした。


後日、泰造はその場所へと行ってみた。 ところが 驚いたことにトンネルがあった場所は家と家の間の空き地だった。

泰造は、近辺を隈無く探したが。 やはり行き着く先は、ここだった。

(何回も確認したが 確かにここだ! ここに間違いない)

しかし、泰造は、ただ空き地を見ているしかなかった。





今でも思い出す。あそこは、どこだったのだろう。あの老婆は、何だったのだろう。 そして もし、あの青い光を放つトンネルに足を踏み入れてしまったら…

世の中には、科学では、証明出来ない(何かが)ある と 私は思う。

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