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2話 ケイミスの影響

 私――アンナフィリアはガスタークの妻です。

 そして同時に彼の知恵袋でもあります。

 私は人並み以上に頭の回転が速いため機知に富み、これまで幾多もガスタークに献策してきました。

 そして、今回もそう。

 私達の大切な友人であるケイミスの領土を奪えと進言したのは私なのです。

「あなた……」

 私はガスタークの背中に声をかけます。

 声を出しざるを得なかった、それほどまで彼は悲壮に染まっていたから。

「アンナフィリアか、どうした?」

 ガスタークは私に無理な笑顔を見せます。

 これが彼の強さ、己の弱い部分はケイミスであろうと私であろうと見せようとしないのです。

 私は、その姿が痛ましすぎて一瞬躊躇しますが、それでも言葉を続けます。

「ガスターク、あなたは何も悪くありません。責められるべきは私なのです、あなたはただ私に操られていたのです」

「アンナフィリア、慰めは良い。例え操られていようと決定を下したのは私だ。神が白だと言おうとも、他ならぬ俺自身が黒だと認めてるいるのだ」

「あなた……」

「アンナフィリア、そんなに苦しそうな顔をするな。お前の策は最もだ。もしケイミスの領土を俺が奪わなくとも、他の誰かが奪っていた」

 私達の友人、ケイミス=アクエリアスは真の善人です。

 善人過ぎて、優しすぎて人を疑うことを知らない。

 そんなケイミスが領主としてやってこれたのは、偏に国が安定していたから。

 秩序だった世界ではケイミスのような人間が最も尊ばれるでしょう。

 が、これから先はそんな世界でない。

 私達革命軍が国を取った先に待っているのは不条理と力が支配する乱世。

 少なくとも、隣国のカザノハ王国が戦争を仕掛けてくるでしょう。

 その乱世において必要なのはケイミスの様な聖人君子でなく、ガスタークの様な奸雄なのです。

「アンナフィリア、ケイミスの官吏達と話はついているか?」

「はい、つきました。つきましたが……」

 ケイミスの城は相当頑強な要塞。

 もし力づくで落とすのなら千人単位の兵が必要だったでしょう。

 だから内通者と結託しました。

 これから先、国の生き方を憂い、ケイミスの治世に不安を覚えているが、彼が育てたこのフォン地方を護りたい有志の協力を得てこの城を奪いました。

「優秀な官吏やいてほしい士官程、暇を出されるのです」

 彼らのおかげで城を手に入れられたので、相応の報酬を出すべきなのですが、彼らは受け取らずそれどころか辞職を申し出ているのです。

「ケイミスは優れた人材を多数揃えていることで有名です。なのにそんな彼らを従えられないとなると、とてもではありませんが大願を果たせません」

 ケイミスが領主として優れている点を挙げるとすれば、人を見抜く力が挙げられます。

 彼の人材眼に適った者は大抵優秀であり、もし政府がケイミスをもっと重用していれば私達は他国での活動を余儀なくされたでしょう。

「それは不味いな」

 私の言葉にガスタークは腕組みをします。

「ケイミスが重用した人材群。彼らを残らず従えさせなければ何も出来ん」

 この話題は成功でした。

 ガスタークの目に炎がともり、その身に覇気が宿ります。

「俺は革命軍の一幹部に納まるつもりはない。もっと上、世界の覇者となる。そのためには優秀な人材が必要不可欠だ。その人材の集まりである彼らを従えられなくて、何で世界を取れよう?」

 ガスタークは早足に廊下を進みます。

「行くぞアンナフィリア。彼らを引き留めねばならん。それが俺の最初の仕事だ」

 そう力強く言い、私を置いていく速さでした。

「ガスターク、ケイミスの処遇についてですが」

 私は悪魔です、目的のためならば全てを踏み台にします。

「何処に追放するかお考えはありますか?」

「恥ずかしい話だが、まだないんだ」

 ガスタークの悩みは最もです。

 ケイミスを国から追放する以上、必然的に諸外国へとなります。

 ケイミスの能力を知る者がいる国に贈るのは論外。かといって全く知らなかったとすれば良くて殺され、最悪ケイミスを人質にして揺さぶりをかけてくるでしょう。

 こちらに被害が及ばない程度の理解がある国は何処なのか、ガスタークは選別している最中です。

 ならば――。

「ケイミスをカザノハ王国へ追放するのはどうでしょうか?」

 カザノハ王国はこの国の政府と敵対関係なため、敵の敵は味方という論理によって私達と友好的です。

 カザノハ王国にケイミスを送ることによって友好を確認し、かつ更なる援助を期待する。

 当然ケイミスは革命軍の障害にならないよう監視してもらいます。

「お前、悪魔だな」

 ガスタークは犬歯をむき出しにして笑みを作ります。

 この策は一石二鳥。

 ケイミスという一石だけで二つの利益を齎してくれます。

「非情だとお考えですか?」

 最後の最後まで、骨の髄までしゃぶりつくすその姿勢。

 間違っても恩人に対して報いることではありません。

 常人なら良心の呵責によって狂ってしまうでしょう。

「ああ、非情だ。しかし、そんなお前を使う俺こそ最も非情だ」

 が、ガスタークは呟き一つで非情な策を許可しました。

 ……

 …………

 ……………………

 本当に、私とガスタークはケイミスを友人だと思っているのか。

 時折、そんな疑問が浮かんでしまうことは当然だと言えます。



「おお、よくぞ来た。ケイミス=アクエリアスよ!」

 カザノハ王国の国王――ギランバール=カザノハ=シェルクラインは謁見に来たケイミスをもろ手を挙げて歓迎する。

 ギランバールは年齢四十代の健康な壮年で覇気が鋭く、その柔和な笑みも何処か人を警戒させる疑心を呼び起こしていた。

「身に余るご厚意、感謝いたします陛下」

 が、ケイミスは民衆に向ける笑みと変わらない表情を浮かべる。

「領土を失い、流浪の身となった私を王国に招いて下さり感謝の念に堪えません」

 急なのにこの場には王とケイミスだけでなく、何人ものカザノハ王国の重臣が揃っている。

 彼らが発する重圧は、空気を二段落ほど重くしているのだが、ケイミスはほとんど影響を受けていなかった。

「陛下」

「おお、済まんなメディ国務長」

 カザノハ王国二番手、ギランバールの元教育係であるメディ=イクサロンが鋭い声を発したので、彼は一つ咳ばらいをした。

 これから始まるは記録が残る公式な謁見。

 迂闊なことは王でさえ御法度である。

「ケイミスよ、お前はこの王国に何を齎すつもりか?」

「――カザノハ王国に住まう民衆に安らぎと希望を」

 ケイミスは厳かな口調で答える。

「私に必要なのは民衆のいる場です。そこにさえ行かせてくれるのであれば特権など不要、それこそ一介の平民としての立場に落とされても受け入れましょう」

 ケイミスには地位も特権も必要ない。

 ただ、民衆さえいれば良い。

 それはケイミスの信念――民衆と共に生き、民衆と共に死ぬことを貫くためであった。

「ならんならんケイミスよ。わしの国は勿論、遠い国でさえ名君として讃えられるケイミス=フォン=アクエリアス。そんな人物を平民へと降格させてみよ。わしはどんなそしりを受けるか考えただけでも恐ろしいわ」

 ケイミスの君主としての評価は、それこそ未曾有の領主という評判である。

 唯一、自国からの評価が低いのは、彼が余りに大きすぎるため正史眼で見られていないからだった。

「其方の処遇は追って説明する。それまで質素だがこの王宮内で過ごすと良い」

 これで謁見は終わる。

 ケイミスは恭しく頭を下げ、それに集った重臣が続く。

全員が頭を下げる中、ギランバールが立ち上がり、メディを共としてこの場を退出していった。


「予見はしておったが、実際に起こるとなると何とも心が痛い」

 わし――ギランバールは廊下を歩きながら先ほどの謁見を思い起こす。

「ケイミスがああなってしまった間接の原因はわしにあるというのに」

 もしわしがあのガスタークとかいう革命軍に資金を提供しなければ、ケイミスは今も領主として振る舞っていたじゃろう。

 敵国の領主でありながらこのわしのところへ何度も足を運び、友好と平和を訴え、他国との停戦協定仲介人を務め続けたケイミス。

「後にも先にもあんな真似をできるのは彼一人じゃわ」

 内外から血に飢えた狼と揶揄される戦争狂なわし。

 戦いが好きなのは否定せんが、そんなわしだって無用な戦争は避ける。

 戦争をし、それに見合った対価を得られる場合は良い。

 が、実際はそんな戦争がある方がまれ、大抵は国力を疲弊させて終わるのが常。

 国王という立場を鑑みると、そう好き勝手に戦争を起こせないんじゃよ。

「早速ケイミスと出会った影響が出ましたね」

「なんじゃ? メディ?」

「陛下がそんな人間らしい表情を浮かべるのはケイミス関係だけです。普段は野獣の如く獰猛な雰囲気をまき散らしていますので」

「……」

 この辛辣な口調。

 他の者なら即座に首を撥ねておるが、メディは幼少からの付き合いゆえ強く出れん。

「やれやれ、幼い頃の呪縛というのは真に恐ろしいのお」

 思わず愚痴が出てきてもうた。

「さて陛下。ケイミスの処遇についてですが」

 わしの愚痴を無視したメディは続けて。

「私としましてはこのまま王宮内に滞在し続けて欲しいのです。何せ彼がいれば陛下は戦争を起こそうと思いませんので」

「……」

 こ奴、本当に好き勝手言いよるな。

「国務長の私の立場を鑑みてください。一昨年は北のマグル王国、去年は南のギシュタール都市国家、そして今年は西のララリア地方……戦争しすぎです。国庫も兵数も底をつきかけているのです」

「しかし、勝ったから別に良いじゃろ? 来年には支出以上の収入が入ってくるはずじゃ」

「で、その収入をまた戦争に費やすでしょう?」

「……」

 その通りなので何も言えん。

「私から意見を述べますと、ケイミスを私の補佐官としたいのです。当然ゆくゆくは私の後継者として陛下を諌める役割を担って頂くつもりです」

「メディ!? それは真か!」

 わしに直接物申せる国務長の座――例えケイミスが有能だからといっても看過できん。

 いみじくも他国の者に国の中枢を握らせるとはどういう了見か?

「私もそろそろ潮時を感じ初めまして……後継者の育成に力を入れたいのですよ。しかし、周りを見渡してもいるのは陛下と同じく戦争狂かイエスマンばかり。他国の者に任せるしかないのが実情です」

「む……うう……」

 メディのぎらつく眼光の前にわしは唸ってしまった。

「しかし、ケイミス……ケイミスか……」

 わしはケイミスの顔を思い出す。

 あの全てを包み込む大きな包容力と無邪気な少年の笑顔。

 彼を見ていると昔を思い起こし、戦争などどうでも良くなって――

「それはいかん!」

 反射的にわしは吠える。

「……突然吠えて済まなかった。ケイミスの処遇についてはもう考えておる。実は今年併呑したララリア地方。あそこに住まう少数部族が厄介でな。度重なるゲリラ戦に兵も消耗し、就きたがる貴族もおらん。そこに領主として着任してもらおうかとな」

ケイミスは人の心を和ませ、落ち着かせる特異な才能がある。

その才能を存分に発揮してもらおうか。

「来年にはケイミスがいた国との戦争する予定じゃ。革命軍との内乱で弱まり切ったあの国を併呑するのは来年が最適じゃと見ている」

そこを鑑みるとララリア地方に兵を割くのは良くない。

 ララリア地方を治め、そしてわしの評判も傷つかん我ながら見事な采配じゃ。

「左様ですか」

 わしの提案にメディは足を止める。

「……それほどまでこの国を滅ぼしたいのですか」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ、陛下。私は何も」

「……そうか」

 メディの口から不穏な言葉が漏れたが、問い詰めても無駄じゃろう。

 わしは先ほど思い付いた妙案を実行すべく執務室へ足早に向かった。



 心というのは不思議なものだ。

 俺――ガラクス=ブラウンは青空を見上げて詩人の様な事を考える。

 俺は、俺達は厳密に言うと人ではない。

 褐色の肌に二階まで跳躍できる脚力を持つ少数民族の一派だ。

 少数派なので多数派の人間からよく迫害され、彼らより一段と低い扱いを受けるのが世の常。

 実際俺も、このフォン地方に来るまで差別というのを嫌という程味わっていた。

 しかし、このフォン地方は他と違う。

 一言で表すなら地上の楽園。

 俺の様な少数民族も迫害を受けず、太陽の下を歩けるのはここだけだろう。

 この楽園を作り上げたのは我が君主――ケイミス=フォン=アクエリアス。

 彼には痛い程感謝している。

 おかげで俺も家庭を持ち、子の成長を素直に喜べるのだから。

「やれやれ、俺ってこんなにも薄情だったのだな」

 そこまでしてくれた恩人に対して俺は何を報いたか。

「何もかも投げ出して死にたくなる」

 そう、外部と結託し恩人であるケイミスを追い出した。

 必要なことだったと思う。

 あのケイミスの性格だと遅かれ早かれ領地を追い出されていた。

 その際、新しい領主は今までの生活を保障してくれるとは限らない。

 ならば少しでもケイミスに理解のある人物に任せようと誓った。

 例え俺が裏切り者として烙印を押されようとも、この楽園を守るために。

 しかし、そう決意はしても実際に起こると良心の呵責が凄まじい。

 あまりの痛さに俺は職を辞し、この場から立ち去ろうとした。

 が、それを止めたのが。

「待たせて済まなかったな、ガラクス未来地区長」

「お気になさらずに、ヴァズナブル新領主」

 不敵な笑みを浮かべる若き覇者――ガスターク=ヴァズナブル。

 彼の説得によって俺はこうして生き恥を晒していた。


「中々興味深い地区だ」

 新領主は俺の案内を受けながらそう感嘆の声を上げる。

「少数民族を一カ所に集める施策は他の場所もあったが、こうまで活気はなかったぞ」

 スラムとこの未来地区を同列に語るな。

 あそこは臭いものは蓋をしろというごみ溜めだが、ここは未来を先どった地区だ。

 いずれはこの地区をモデルとして全地方がこのようになるという願いを込めてケイミスが名付けたこの楽園。

 そう簡単に褒められても嬉しくとも何ともないね。

「その反抗的な目……ああ、済まなかった。ここまで持ってくるのにお前もケイミスも相当な苦労を要しただろう。なのにぽっと出の俺が褒めても侮辱にしかならん」

 こいつ、何故俺の考えが分かった?

「クハハ、俺はこう見えても世界に広がっている革命軍の幹部だぞ? 相手の心の一つや二つ見透かせなければ出世できんさ」

「……」

 豪放磊落かつ繊細緻密。

 なるほど、ガスタークは噂以上の傑物らしい。

「さて、腹の探り合いは置いてもっと案内してくれ」

 ガスタークがそう急かしたので俺は視線を逸らし、先導を再開する。

「活気があるように見えるがそれは上辺だけ、住民の奥底には不安が渦巻いていると推察して良いか?」

 ああ、その通りだよ。

 幾らお触れでこの地区の施政は変えないと公布しても、俺達が敬愛するケイミスがいないのは事実。

 法や習慣、戒律など信じる対象は幾らでもあるが、究極的には人自身へと行きつく。

 俺がガスタークを信じていないのと同様にこの地区の住民達は革命軍に心を許していないぞ?

「ふむう……予想通りといえばそうなるが、仕方ないな」

「うん?」

 ガスタークの声色に諦観が入っていない。

 どちらかというと備えておいて良かったという保険について満足感を覚えているようだ。

「ヴァズナブル殿、一つ尋ねたいことが」

 それが何なのか気になった俺はをう首を向けるが、それと同時に前方にて騒ぎが起こっていた。

「お待ち下さい! まだお代を頂いておりません!」

「煩いぞ! この店主風情が!」

 飛んでくる喧騒からする代金を踏み倒そうとする不届き者が現れたらしい。

 それだけなら自警団が成敗して終わりなのだが、その輩が。

「俺は革命軍の一員だぞ! 腐った貴族からお前らを解放してやったんだ! なのになんだその態度は!?」

 ……最も危惧していた革命軍の一員だった。

「――やれやれ、俺は本当に生きるべきだったのかねえ」

 思わず天を仰いでしまう。

「ヴァズナブル殿、あんたには悪いが、介入させてもらうぜ」

 俺はガスタークが領土を治めることは望んだが、その領民に狼藉を働くことを黙認したわけではない。

「ヴァズナブル殿とこの地区に住む少数民族……どちらかを取れと迫られれば俺は後者を取る」

 その矜持だけは護らせてもらう。

 でないと俺は本当にただの裏切り者に成り果ててしまうからな。

 そう前置きして俺は現場に向かおうとすると。

「その必要はない、俺が行く」

 ガスタークが手に力を込めて俺をその場に引き止めた。

「しかし――」

「同じことを言わせるな。これは革命軍内での問題だ」

 ――こいつ、この若さにして覇気まで身に付けてやがるのか!?

 上に立つ者なら必ず習得すべき力。

 味方を心服させ敵を委縮させる覇気。

 ガスタークの後姿は先ほどまでと比べて大きくなっているように思えた。

「貴様、名を名乗れ!」

「!?」

 ガスタークの一喝に問題の革命軍の一員は勿論、野次馬たちも静まり返る。

 この場に揃う全員の注目を集める中、ガスタークは優雅に笑う。

「ガ、ガスターク同士!? いえ、あいつ等が俺達を侮辱するものですから」

「侮辱? 何処をどう侮辱された? まさか商品の適正な売買を行うことが侮辱になるというのではあるまいな?」

「しかし、俺達はここを解放したんですよ? ちょっとぐらい色を付けてくださっても――」

「革命軍! 第三条一項を述べよ!」

「う……」

「早く述べろ!」

「……民衆の私物をみだりに奪う者は斬首に処す」

「そうだ、その通りだ。よって俺は貴様を処罰しなければならない」

 ガスタークは腰から剣を抜き放つ。

 ガスタークの眼には人を殺す愉悦も同志をこの手で殺める悲哀もねえ。

 為すべきことを為すという氷の様な冷徹さに染められてやがる。

「ま、待って、待ってくれ!」

「待たん! その口を閉ざしてろ!」

 後ずさりし命乞いをしようとしたがガスタークの一声に何も出来なくなった。

(ガスタークの覇気は死の恐怖すら上回るのか)

 俺が冷や汗をかいたのは言うまでもない。

「~!!」

 衆人環視の中、狼藉を働いた革命軍の一員は声一つ立てることなくガスタークの剣の錆に消えた。

「同士が迷惑をかけた」

 血のりをふき取ったガスタークは怯えきっている店主に向かって深々と頭を下げる。

「迷惑料として俺が代わりに払おう……これで足りるか?」

 そうガスタークは前置きして金貨を十数枚店主の前に置く。

「さて、ガラクス。城の兵士を呼んで来てくれ。こいつの死体を広場の前に飾る。乱暴を働いた者の末路はどんなの惨状になるのかを分かり切らせるためにな」

 容赦ねえ。

 俺でさえ背筋が凍るほどの残虐かつ効率的だ。

「ヴァズナブル殿」

 駆けつけた兵士に全てを任せた後、先を進むガスタークに俺は懸念を口にする。

「少し貴方の人柄というのが分かりません。我が領主ケイミスを追い出した時はあれほど苦しんでいたのに、今は何の躊躇いもなく人を斬った」

「安心しろ、俺が人間味を見せるのはケイミス関連だけだ」

 ガスタークはいたずら小僧の様な笑みを浮かべる。

「お前もそうだろ? 俺であれ誰であれケイミスを前に心動かされん奴はいないぞ?」

 何を馬鹿なことを。

 俺は昔から今までこの性格で通してきたんだ。

 が、妹は大分変わったな。

 人間憎悪一色だったのにケイミスと関わり合ってから相当丸くなった。

「あいつ、ちゃんと我が領主に会えたかなぁ?」

 すぐそこにガスタークがいたにもかかわらず俺は顔を上げ、ケイミスの後を追った妹について思いを巡らせた。


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