ろくでもない事を思い出してしまった
(熱い)
『私』こと、シェリーナ・リトリアは、鈍い痛みを訴える頭を押さえる。この世界には、体温計というものが無いのだから、実際の温度は分からないが、間違いなく40度はあるだろう。非常に辛い状況では有るものの、ここで不用意に泣き言でも言おうものなら、ベットの横に有る椅子に座り、こちらをガン見している人物?が、間違いなく大騒ぎをするのでそれもできない。
(ていうか、全然眠れない!!)
いや、普通に考えてそうだろう。たとえ具合が悪いと言っても、ずっと見続けられれば気になって眠れるわけが無い。よって、眠ろうにも眠れず、体調はさらに酷くなっていくばかりである。
「あ、あの、ディオル、ずっと見ていられると、眠れないんだけど」
私が弱々しく遠回しだが、こっちを見るなと言ったにもかかわらず、返って来たのは、
「何故だ?」
という、1mm足りとも表情を変え無いでのこのセリフ。
(いや、どうしてって。気になるからに決まってるでしょうが…)
巫山戯てるのだろうか?いや、この顔は本気だ。本当に分かっていないのか。
(はぁ、仕方ない)
その反応から私は、これ以上何を言っても無駄だと早々に諦め、暇だからという理由でディオルの観察を始める。しかし、すぐにこれは失敗だったと気づく。猫っ毛の柔らかそうなミルクティー色の髪、ニキビのニの字も無い程すべすべの肌、高い鼻、そして髪の毛と同じ色をした大きな瞳、を持った5歳児。の姿をした、精霊王。もう一度言おう、精霊王だ。精霊では無い。実際の姿は美しいという言葉では表せないほど光り輝いている。
(あー、正直憎たらしいわー)
私は私を見ているディオルを見ながらそんな事を思う。
ここで幾つか疑問が生じる。何故私の側に精霊という存在がいるのか。そして、この世界には無い体温計という存在をどうして私が知っているのか、だ。
答えは簡単だ。私には前世の記憶がある。そして、この世界は私が元いた世界である意味人気だった乙女ゲームの世界とそっくりの世界なのだ。まさに、近頃本でよく見るストーリーのようだが、私もただ似ているだけで自分に関わりが無ければヒロインと攻略対象との恋を影から(ニヤニヤして)眺めていられたのだが、そうもいかない。
だって、私は主人公の『ライバル』の役なのだから。