もうすぐ夏、霊の夏! (霊なんて、いらないっ! その2)
夏のイベント話を書こうと思ったら、その前にこの季節ネタがあったので書いてみました。
また、怖くないホラーです。ファンタジーかしら・・・
最初の、「霊なんて、いらないっ!」のキャラクターが出ますが、前話を知らなくても問題ありません。
「許さないからな」
我がオカルト友達の井上 典子さま、典ちゃんが、憮然とした表情で言う。
「はあ、で、今日は?」
「覚えてろ、だってさ…」
一応、真剣な顔をして聞いていた、ワタクシ、藤原 晴花です。でも、もう限界です…。
「ぶあっははははは!! ”霊”に捨て台詞いわれる女って、すごくないかー!?」
「…フツー笑うか、人の不幸を、祟るぞ!」
典ちゃん、憮然。
く、苦しいっ! 今までいろいろな霊を見てきたけど、どこぞのチンピラのような捨て台詞吐いた霊は、初めてだからっ!! いやぁ、いい話を聞かせてもらいました。最高に笑顔の私を、典ちゃんがでこピンした。いったーい!
こんにちわ、霊能力はないけど、その手の話は大好きな 藤原 晴花です!
事の起こりは、おとついの夜。深夜、典子が部屋で寝ていた時のことだ。
なにやら、ガザガザとする物音で目が覚めた。なんだろう、と半分体を起こし、眠い頭のままでぼんやりと室内を見回した。
部屋の中はいつもと同じで、特に物が落ちたようにも見えない。
「…気のせいか」
もう一度寝ようと、布団をかけなおした時、天井の隅から声がしたのだ。
「許さないからな」
子鬼のような影が見えて、すぐに消えた。
一体、今のは、何だろう。そして、”許さない”って、何をだ? 私が何かしたか?
まるで覚えがないんだけど。そんな混乱をしたままで、朝を迎え、眠い目をこすりながらも、なんとかその日は乗り切った。
まさか、2日続けては来ないだろう、と この日は早くに寝ることにした。
しっかり寝入ったと思ったのに、やはり同じく深夜に目が覚めてしまったという。
昨夜と同じように、物音がしたと思うと、天井の方から…
「覚えていろ!」
と言われて、呆然となった。
一体、何が起きているのだろうか。なんで、私がこんな事を言われなくちゃいけない?
寝不足も2日めに突入し、イライラが募るばかりだ。かと言って、この手のネタは無闇に話せばいいというものではない。 下手に普通のクラスメイトになぞ話したら、明日から「電波」扱いが確定だ。
そう、こういう事は、こういう話がわかるヤツに話せばいい。
「で、ワタクシ、晴花の登場なんですね」
典ちゃんが、期末テスト前の日曜日なのに遊びに来て、更に”帰りにカフェに寄ろう”と言い出したのは、そのせいか。確かにファーストフードで、不用意に話して学校の連中にでも聞かれたら、たまんないもんね。
「で、なんだと思う? アレ」
アイス カフェ・オ・レを、ストローでカラカラとかき回しながら、典ちゃんが聞く。
「典ちゃんの第一印象は?」
私が実際に見ていない以上、出会った人の印象は大切だ。まずは、典ちゃんの印象が知りたい。
「…餓鬼、じゃないかと」
躊躇しながら、私を上目遣いで見てくる。 そんな顔してもダメだからね!
「うぇ、やめてよぉ! 凄い厄介じゃない!!」
思わず頭をかかえる。何がやっかいかというと、餓鬼というのは満足をすることがない。何を食べても、飲んでも、どんなものを貰っても満たされることがないのだ。だから、ありきたりのお祓いでは退けることができないのだ。
でも、おかしい。典ちゃんは、色々なモノに好かれるタイプだけれど、餓鬼に好かれるタイプじゃない。ヤツラが好きなのは、自分に似たタイプだからねっ!
「うーん、…典ちゃん、ちょっと ごめんね?」
テーブルに乗り出して、典ちゃんの首筋で、匂いをかぐ。
言っておきますか、私はそういう趣味ではありませんっ! 霊とかをはっきり見ることは、できないんですが、匂いでわかるんです。憑いているモノが。
「…知らない人がみたら、晴花、危ないヒトだよ」
と、知っている典ちゃんは笑う。
典ちゃんは、すごく霊に好かれやすい。もちろん見た目も可愛いんだけれど、霊にとって凄く魅力的に見える部分があるんだと思う。 一度なんか、複数の霊をぶら下げていて本気でびっくりしたものだ。
「うん、変な匂いは、しません! 典ちゃんのいい香りだけ!!」
「よし、変態確定だな、晴花!」
胸を張って言い切ったのに、ひどいよー、冷たくない?
「でも、それじゃあ、アレは何だろう?」
さすがに二日続けて深夜に変なモノに出られた典ちゃんの表情は暗い。
もし、これから毎晩出てこられたら、イヤだよね。 まあ、深夜にゴ○ブリを見るよりマシだが。ゴ○ブリを見たら、退治するまで眠れない。絶対!
あ、典ちゃんが、睨んでいる。いえ、アレとゴ○ブリを一緒になんかしてませんよ?ええ。
「あれ、今日は…、!! 典ちゃん、お守りあげるから、今日一日だけ我慢して?
で、明日の朝6時に集合! よろしくねっ!!」
「え? ええっ?」
うん、私たちは運がいいっ! この手の面倒は、あそこで解決して貰うに限るよ!!
わけがわからなくて、アワアワしている典ちゃんの手をブンブン振り回して、私は上機嫌だ。ついでに、美味しいモノも食べちゃおうっ!!と心に決めた。
朝、天気は、ちょい曇りかな? 楓太兄ちゃんに昨夜無理やり頼んで、車を出してもらった。
どーしても 今日じゃなくちゃいけないし、学校にも遅れたくないのっ!!と泣きついたんだ。基本、楓太兄ちゃんは、私に甘い。 ぶつぶつ言いながらも、車を出して付き合ってくれた。
行き先は、築地 波除神社。今日、6月の30日は、水無月の晦、夏越しの祓えです。
今年、半年の厄を祓い、夏をつつがなくすごせるように祈願する慣わしがある。
で、更に波除神社は、この時期は茅輪がたつ。直径2メートル近い茅輪をくぐって厄を落とす神事で、誰でも参加できる。本職である神職がやる大祓え式は、土曜日だけど そこまで待てない。
ならば、一番いいのは晦の今日だ。
え、よく知っているって? …すいません、楓太お兄様の受け売りです! いいじゃん、覚えたんだからっ!!
「ほら、早く行ってこい、時間が無くなるぞ」
楓太兄ちゃんに、急かされ慌てて典ちゃんと一緒に、作法通りに茅輪をくぐってお参りする。
「藤原 晴花ですっ、典ちゃんのトコに来ている変なの、引き取ってください!!」とお願いする。 更に、境内のお獅子にもお参りをして、お願いをしていく。
多くの人を集める神事は、下手なご祈祷よりずっとよく効くし、後を神様にお預けすれば再発防止にもなるという、一石二鳥。素晴らしい!
お参りも済んで、厄介ごとも解消したので、やはり、ここは…
「楓太兄ちゃん、おなか空いたっ! ご飯食べていこうよっ!!」
市場まで来たんだもん!そのまま帰る手は、ないよね? ね?? ああ、お腹すいた!
「お前、やっぱり、それが目的か…、ちゃっかりしてるなぁ」
楓太兄ちゃんは苦笑いしながらも、私の頭をぐりぐりなでながら、お店へ歩いていく。
私は、唖然とする典ちゃんの手をひっぱりながら、こそこそと説明する。
「築地に朝早くなんて、めったに来れないじゃない? んで、高校生には結構高いのよ、ここのご飯! だから、財布が一緒じゃないと、ね? 付き合ってね、典ちゃん!」
「晴花、聞こえているぞー。 ほら、店入るぞ」
頑張って早起きしてお参りして、美味しい朝ごはんにありついた。うん、私は運がいいっ!
メモ:金目鯛の煮付け定食は、美味しすぎっ! ご飯食べ過ぎて、授業中眠かったぁ。
「でも、結局、子鬼の正体がわからなかったー。」
夜、自宅のリビングで、期末試験の勉強をしながら、ブツブツと文句を言ってみる。
自分の部屋で勉強すればいいのだけど、集中力の切れやすい私は、誰かが居たほうがいいんだ。都度、集中できるから。
夕飯を食べに来た泰樹に、御祓いに言ってきた話をしながら、世界史の年表をノートに写して行く。私は書きながら覚える方なのだ。書いて満足しちゃう時もあるけどね。
「うーん、正体ねぇ、楓太従兄、想像つく?」
ご飯を終えてダラダラタイムの泰樹は、楓太兄さん頼みかい! いや、私もだけどね。すみません、お兄様!
「正確ではないが、最近、貴人が亡くなっているよな。
そして、晴花の友達の家は、確か御陵の近くじゃなかったか?」
貴人というのは、皇族だったり、徳の高い人に対して使う言葉で、人を特定したくない時に、こんな言い方をするんだ、楓太兄ちゃんは。
「以前にもあったんだが、貴人が亡くなられた場合、大規模な法要が行われる。それも長期に渡って。 そうすると、そのご祈祷mにより、浮遊霊や死霊が一斉に成仏るんだ。
それはもう、一時期、H市は空気が澄んで、視界がよくなったと言われるほどに。」
「どんだけ、すごいんだよ!…気合の入ったご祈祷だなぁ」
泰樹も驚いている。ふぇぇぇ、ご祈祷の力もバカにできないねぇ。
「でもさ、それと、子鬼の件とどう繋がるのさ」
うん、よくわからないよー。
「…例えが悪いんだが、お前たちがやっているゲームとかで、
ダメージを受けたり、装備がなくなったら、そのキャラクターは、弱くなるんじゃないか?
それと同じで、今回の子鬼は、少し強くなったおそらく狐狸の類。子鬼に偽装することができる位には育っていた。
だが、ここへ来て、貴人の大規模な法要で自分が捕まえていた浮遊霊や、怨霊がはがされ、
ご祈祷で大部分の力が殺がれたんだろう。
高僧が10人以上も集まって、声明をされたら、普通の狐狸なら、消滅しかねない」
「え、じゃあ、典ちゃんのところへ、子鬼が出たのは…」
まさかの
「八つ当たりだろう。
僧侶や、神職に面と向かって喧嘩を売るわけにいかないから、見える人間に、文句を言いにいった、
そんなところだな。たぶん、今頃はなんの霊力もない雑霊になっているだろうよ」
「あー、だから、『覚えてろよっ!』なんだー。 うん、喧嘩にまけた時の決まり文句だよね!」
そう、負かされキャラの捨て台詞だ。 なんというか、可哀想というべきか。
いや、やっぱり、これは…
「うん、ヘタレ狐だなっ!」
泰樹、祟られてもしらないよ?
典子Side-----------------
静かな夜だ。 深夜にたびたび起きていたのが嘘のよう。
今朝のお参りが効いたのかは、わからないが、今夜は子鬼が現れない。いつもの夜が戻ってきた。
今朝の騒ぎを思い出して思わず笑みを浮かべる。
早起きをして神社へ行き、晴花と一緒に手を繋いで茅輪をくぐった。
”ほら、左足からだよ! ∞のマークみたいにね、3回くぐるの!”
獅子頭にもお参りして、次は、こっちだ、あっちだと、お参りなのに笑いっぱなしだった。
晴花は、卵塚を見ながら、「ここから何か産まれたら、ヤダよね…」と言って騒いでいたら、楓太さんに怒られていた。この兄妹は、仲がいいよね。
初めて築地でごはんを食べた。朝からたっぷりの量の温かいご飯を食べているうちに、子鬼の不安は消えていった。
「大丈夫、生きている人間が、一番強いよ」
と、楓太さんが笑顔で頭をなでてくれた。多分、何かあった時の為につきあってくれたんだろう。
胡散臭い話だと、馬鹿にするのではなく、真摯につきあってくれて、本当に嬉しかった。
改めて、あの人たちは、霊能力者ではないんだと、思った。
特別に霊が見えたり、話せたり、当てモノのように霊の断じるのが能力者というのなら、
彼らは、霊と一緒に共存するための過去からの経験と、知識を持つ”ガイド”なんだろう。
だから、彼らは必要以上に霊を怖がらない。否定しない。警戒もしない。不思議な人たち。
いつか、彼らの「仕事」のことを聞かせてもらえる日がくると、いい。
そんな事を思いながら、眠った。
典子: 本当に餓鬼だったら、どうしたの?
晴花: ふっふーん! 丁度、7月の中日が施餓鬼会なんだよ。
対餓鬼には、これが一番! だからね、私たちは、運がいいんだって!
何よりも、晴花の性格が、一番の強者でしょうか。恋愛にたどり着かない・・・