終
終章
黒き死神は暗黒に身を戻し、小さく収束していく。一方、蒼龍は静止したまま輝きを放ち、姿が薄らいでいく。赤い髪の青年ジギーは天空を地上から見上げていた。
「しっかりと………目に焼き付けたぜ我が主」
隣で呆然とするトリス。
「あの黒い塊はなんだったんですか………?」
「さあな………でも、ありゃ本物だぜ」
玄室を去り、尖塔から飛び降り、トリスの雷網で着地したところ。すぐさまにトリスの仲間が飛空挺を飛ばし駆けつけ、都市から離れた。その後、空中は危険と判断した戦艦共々、地上に降り、事態を見守っていた状態である。それは誰もが同じ。そして、暗黒が豆粒程の大きさになる。ジギーは口を吊り上げ、ニヒルな笑みを浮かべる。やっと足がかりが生まれたと。
ゼノは暗黒を羽のように伸ばし、空中に滞空する。そして、顔を上げ、蒼き龍が歓喜の咆哮と共に光の粒子となり、一つに収束していくのを見届ける。そして、幸せが現れ、落ちてくる。ゼノは翼を広げ、その幸せに向かい、空を走り、両腕で抱き留める。
「やっと………やっと君に触れることができたよ」
抱き留めた幸せは、力を込めれば溶けてしまいそうだった。その幸せ、少女、モニカ。
「………ゼノ」
モニカは居心地が悪そうに腕の中で体をもじつかせる。
「………なに?」
「………恥ずかしい」
ゼノは片方の腕でモニカの両足を支え、もう片方で上半身を支える格好、つまりお姫様抱っこ。モニカは僅かに頬を赤らめ、ゼノの顔が近いこともあり、あらぬ方向にそっぽを向く。
「あれ………そういえば、ヴィーズは?」
モニカは胸に手を添える。
「………今は疲れたから眠ってる。でも、とても心地良さそう」
「そっか………」
微妙な沈黙が二人の間に横たわる。話すことが多すぎて、どちらも何を喋ればいいのかわからない。
「ああ、そういえば、約束、モニカの歌をあの丘で聞く約束はちょっと無理そうだね」
モニカはあらぬ方向に向けた首を戻し、呆然とゼノの顔を直視する。ゼノはなんとも居心地が悪くなり動揺する。
「………ゼノ、今、モニカさんじゃなくて、モニカって言った」
「………ああ、駄目かな………?」
「………いい。ずっとそれでいい」
モニカはゼノの首に腕を回し、ゼノの胸に顔を埋め、感触を実感するように頬を擦り付ける。顔が熱くなり、とてもじゃないがゼノには見せられないのだ。
「えと………モニカ」
「………ん」
モニカは上目遣いで視線を上げる。
「なんというか………思い切り抱きしめていいかな」
「………壊れ物注意」
ゼノは即座に、言葉を実現する。柔らかく、幸せの香りがした。
モニカは抱きしめられる感触を堪能し、ふと、最後に呼んだ少年の物語を思い出す。顔を上げ、真正面からゼノと瞳が合う。
「ゼノは………生きる理由を見つけた?」
ゼノはモニカの問いに苦笑して答える。
「見つけたよ。僕の目の前に」
「………あ」
モニカは一瞬、答えの意味がわからなかったが、理解し、再びゼノの胸に顔を埋める。残念ながら形の良い耳が赤く染まっていることにモニカは気が付く余裕はなかった。恐る恐るモニカは視線を上げるが、ゼノとすぐに視線が重なり、更に顔を埋める。
「………ゼノは卑怯者。それに迎えに来るのが遅い」
「それは謝るよ」
「………ゼノ、あっち向いて目を瞑って」
「………?」
ゼノは従い指差す方向に顔を向ける。すると、首に回されたモニカの両腕が強く締まり、モニカの上体が起きるのを感じる。そして、頬に柔らかな、微かな感触。
「………うん?」
目を開き、モニカを見ると既に胸に顔を押し付け、表情を伺えさせない。
「………えと、今のは」
「………埃がついてた」
「え、でも」
「………埃がとってもついてた」
「そっか………そっか」
ゼノは事の真偽を確かめることはせず、大事な人を一層優しく抱きしめる。そして、これからの生きる時間を想像し、止める。生きる時間なんて勝手に来る。今はこの柔らかい温もりを堪能することにした。
その時、天空は雲一つ無く、ただ一陣の涼風が泳いでいた。
ゼノ・ユルト・ヴァリア、僕、ゼノは、何から逃げていた、何故、彷徨い生きてきた。その答えは………。
4年前、物語を書き始めて5ヶ月程度の自分が書いた作品です。
ハードディスク整理をしていて見つけ、名残惜しいので、消す前にここに置かせてもらいました。
未熟過ぎる作品です。
こんな作品でも、読んでくれた貴方には感謝をせずにはいられません。




