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過去拍手 8(二章~「理不尽な感情 (side 一条)」以降推奨です)

とてもとてもお久しぶりで申し訳ありません。

新作、こねくり回しているのですが、中々形にならないまま日々が過ぎていきあわあわとしております。


そんな勢いでとうとう年末となってしまい、せめて、と言うにはあまりにお粗末ですが拍手のupだけはしたいと突如思いつきました。


ネタバレとしては前作以降で問題は無いのですが、時期としてはこの位かなぁと。

クリスマスも開けやらぬうちにバレンタインネタ……外しすぎと言いますがフライングと言いますか……。

ですが、相変わらずの甘苦さを楽しんで頂けたら幸いです。


新作の方は今だ先が見えないままもがき気味ではございますが、明けぬ夜は無く、夜明け前が一番暗いと信じて思う存分もがいてみようと思っております。


今年は紗綾が終わってからは、殆ど発表も出来ず、少し心残りではありましたが、新年こそは取り敢えずどんな形でも新作を一本(紗綾の新規番外とかになってしまうかもしれませんが)仕上げてみたいと思っております。


今年一年お付き合い頂きありがとうございました

新しい年もよろしくお願い致します。



「一条君、これ、貰って欲しいの」

「すまない、そういうものは受け取らない事にしているんだ」

「今日調理実習で作ったの、食べてくれないかな?」

「悪い、甘い物は余り得意では無いんだ」


 バレンタインデー前後に調理実習でチョコレートマフィン、まぁ、学校という場所にしては粋な計らいと言えるだろう。

 公平に見ればそんな生徒の人気取りじみた事も、平穏な学園生活の彩りとしては評価しても良いのかもしれない。

 だが、只でさえこうして毎年のようにチョコレートを持った女生徒に追いかけられるというのに、今年に至っては調理実習で作ったというマフィンを持ったのまで増えたことを思えば、結局どこまでも迷惑でしか無く、やっぱりあの教師は苦手だと溜め息が漏れる。


 それらのピークは今日、二月一四日。

 手紙もプレゼントも受け取らないと最近は広まって居るはずなのにに、この日だからと声を掛けてくる女生徒はその手元の菓子のせいもあって通常の倍以上。

 さっさと校舎を抜け出したいと思いつつ、慌てて教室を出たせいか月曜提出のプリントを一枚机の中に忘れたことを思い出し、部活の後教室へと寄った。


「あれ? 一条、どうしたのそんな格好で」

 すると、教室には藤堂が居て

「プリントを机に忘れたのを思い出したんだ、おまえこそどうしたんだ?」

「あぁ、これ、机の中に置きっぱなしだったの思い出したんだ、流石に土日挟んだら腐りそうだし、……それはちょっと寝覚めが悪いかなってね」

 持て余し気味にチョコレートマフィンを摘まむ姿に、そう言えばこいつは甘い物が嫌いだったなと思う

「家族にでもやれば良いんじゃ無いか? 無理に自分で喰わなくても」

「パパも嫌いなんだよ、甘いもの、今日から弟とママがお祖母ちゃんちに行くから片づける人も居ないしね~」

 そこまで菓子を邪険に扱う女も珍しいと手元のそれに目をやると

「そうだ! ねぇ? 一条部活後でお腹空いてない? 味は大丈夫、味見で食べた時皆は美味しいって言ってたよ? 私も一口食べたけどまずくは無かった! 甘かったけど」

 あまり参考にはならない感想に苦笑すると

「あ……駄目が」

「え?」

 急に何かを思いついたように溜め息を付く

「今日バレンタインデーだっけ? 一条山盛り貰ってるよね?」

「……そんな事は無い」

「なんで?」

「好きでも無い奴から貰えないだろ? 全部断った」

 そんな物を当たり前に受け取っていると思われたくなくて、思わず語気が強くなる

「あぁ、そういう事か、じゃぁ余計にこれは駄目だねぇ……」

 ぷらんと甘いそれを目の前にぶら下げて苦い顔を浮かべる藤堂に思わず

「喰ってやろうか?」

 そう提案すると

「良いよ、信念曲げて貰うほどのことじゃないし……そういえば今日塾だし、誰かにあげ

ちゃえば良いか」

「俺に渡そうと思ったんだろ? いいからよこせ……それともおまえは俺に何か特別な感情でもあるのか?」

「一条に? そんな物は無いけど、良いの? 何とも思ってない子から物は貰わないこと

にしているんでしょう?」

「おまえにそんな感情が無いなら、問題は無いだろ?」

 それに俺にとっては、なんとも思って居ない相手では……

「あ、そっか……んじゃ、愛は込めないから安心して?」

「判ってる」

 だからそんなにはっきり言うなと内心思いつつ、差しだしたマフィンを受け取ると

「っと、そろそろ帰らなきゃ! 塾の課題まだ残ってるんだ、じゃぁね」

 そう言って慌てたように教室を出て行く後ろ姿を、つい目で追ってしまう……。

 手のひらの上には想いはこもっていないと本人にお墨付きを貰った、想い人からのチョコレートマフィン。


 問題はこれをどうやって持って帰るか、だ。

 今はユニフォーム姿で、鞄も何も全ては部室に置いた状態。

 今日は散々渡されるこれらの品を断って来た俺が、これを素の儘で持っているのを見た奴が居ればそこを突っ込まれるのは確実で、それを突破口に自分のも受け取れと言ってくる奴は出るだろう。


 だが、俺が特別に思うのはこの簡単な透明なフィルムに包まれたチョコレートマフィン一つ。

 あいつは深い意味も無く俺に渡したのは判っては居ても、それに執着する自分は居て、もし俺が断れば、それが鳴木にでも行くのかもしれないと思ったら……妙な理屈をこねてでも自分の物にしたくなった。

 

 このまま部室に持ち帰ればやっかい事にしかならなそうなマフィンを見つめて、ふと思う。

 ここはひと気の無い教室、部活の後だけあって空腹も感じない訳では無い。


 いっそ……。

 思い切ってセロファンを解いて一口囓ると口の中に広がる、バターと砂糖の混じった風味はあいつの言っていたとおりそんな悪い出来では無い。

 けれどそこに混じるカカオの香りが今日は何の日かと言う事を強く感じさせて。

 想いは込めていないと言い切るあいつの言葉を思い出してしまえば、舌の上に感じるその味はやや苦みが勝っているように感じた。

 


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