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過去拍手  2 (二章 大嫌いだ、おまえなんて 以降推奨です)

「一条、悪いんだが今日の部活遅れるって倉石に言っといてくれないか?」

部活に行こうと教室を出ようとして、鳴木に声を掛けられた。

「構わないが……理由は?」

 うちの部活の顧問は話が分からない奴では無いが、部活の遅刻や休みに関しては

しっかりと理由を求められる。

 それをよく知っている鳴木は俺がそう言うと、困ったようにそれなんだがなぁ……と、

眉を下げるのに、用件の察しが付いた

「また、女子からの呼び出しか?」

「あぁ、部活の日の放課後とか勘弁して欲しいけどな……、日にちを変えるって手もあるけど面倒事はさっさと終わらせたい、どうせ答えは決まってるんだし」

 俺以外の奴が聞けば、余計な敵を作りかねないようなことを、心底面倒臭げに言っている。

 そういうセリフは思っても口に出さない方が無難だと一応忠告すれば

「相手は選ぶ、お前だって面倒がってるだろ?」

 と、笑われて思わず答えに詰まった。


 まぁ、確かにそう言う用件の面倒さは俺もよく知っている。 

 結局意中の相手以外からの告白や手紙なんて物は面倒事以外の何物でも無い、俺には好きな奴が居るし、鳴木も少なくとも今日の相手はこいつの心には何の波紋も落としては居ないんだろう。

 ただ、好きな奴が居るわけでは無いのならば多少の興味くらいは沸いても良いはずだと思うのだが、こいつは自分にそういう目的で寄ってくる相手には冷たいと言って良いほど素っ気なく、ことある事に面倒だと呟いている。

 元々部長に選ばれるだけ有って面倒見が良い鳴木は、ふと手をさしのべた女に惚れられるなんて事も良くあって、流石に少しは学んだのか最近は女子に対しては日常の接触さえも気にするようにはなっていた。


「まぁ、倉石だし素直に『一方的に呼び出されたらしい』とでも言っておいてくれ、下手な嘘付く方があいつの場合面倒なことになるし、この前試合会場で手紙断ったの見てたらしくて、女の子は大事にしろ? なんて言われたんだ、何か言われたらあの時のこと言ってやる」

 顧問の教師と驚くほどフランクな付き合いをしているらしい鳴木に呆れつつ、了解と背を向けたんだが

「っと、悪い、もう一つ……」

 背中にかかる呼び止める声に振り向けば、少し躊躇いながら俺に四つ折りのメモ用紙を渡してきた。


「あれ? 一条、どうしたの?」

 久々の美術室、俺は部活の前に校庭から美術室の窓をノックする。

 すると、驚いたように藤堂が俺を見つけて、駆け寄り窓を開けるのに

「鳴木に頼まれた」

 そう言って、さっき渡されたメモを渡した。


 藤堂は怪訝な顔をしてそれを開くと、公式らしい物を無意識な様子で口に出し納得したように頷いて

「……で、yになる、簡単だろ? 単純なんだよお前、引っ掛け弱すぎだ、たまには髪だけで無く頭もひねってみ……ろ? ~~っ! 鳴木ってば一言余計だよっ!」

 どうやら、こいつの苦手な数学の問題でも教えるためのメモだったらしく、けれどそこに付け加えられていた言葉に頬を膨らます様子に思わず笑ってしまえば

「一条まで~」

 不満げに俺を見る。

 くるくる変わる表情と拗ねて僅かに膨らむ頬。

 最近は俺に対しても随分無防備な顔を見せるのが嬉しくて笑ってしまったものの、けれどきっとそんな意味には取らないだろうから

「悪い」

 素直に謝れば、いいけどね、なんて呟いて、コロリと笑顔にその表情を変えた。


「届けてくれて有り難う、今日の塾のテストでちょっと公式が自信ないところが有るって、昨日駐輪所で話したんだけどね、……うぅ~、一言余計だけど、鳴木にも有り難うって言っておいてくれる?」

 どうやら、急に呼び出されたから自分では渡せなくなってしまった数学の公式を、わざわざ俺に託したらしい

「判った、伝える」

 そう答えて、グラウンドへと向かう背中に

「部活、頑張ってね」

 明るく掛かる声に軽く手を上げて部活へと向かった。


 修学旅行の時といい、俺から見ると明らかに鳴木にとっては藤堂は特別に思える。

 それは、そうだろう? 普段は『女子は面倒』それしか言わない奴が、わざわざ部屋に呼んで楽しみにしていたフリーの時間まで誘うなんて。

 今日のメモだってこんなもの、一、二年とクラスも部活も同じだが誰かに渡して居る所など見た事も無い。

 一体、鳴木は藤堂を、どう思ってるんだ?


「悪いっ! 遅くなった」

 シュート練習に駆け込んで来た鳴木が俺の後ろに並ぶ

「顧問にも藤堂にも伝言はしたが、随分かかったな」

 部活が始まってから、優に20分は経っているのにそう言うと

「泣かれた……」   

 困ったような顔をするのに成る程と思う。

 人の良いこいつのことだ、断ったのはいいものの目の前で泣かれてほおって置くことも出来なかったのだろう

「慰めて延々付き合うなんて事をしたら余計諦め付かなくなって……って所か」

「良く判ったな」

 軽く目を見張り俺を見ると、疲れたように、どんなにお願いと泣かれても聞けない物もあるんだが……、なんて呟いているのに慰労の気持ちを込めて軽く肩を叩いた。


「そういえば藤堂は?」

「あぁ、一言余計だって怒ってたぞ? でも、唸りながらも有り難うと伝えてくれって言われた」

 すると、いたずらが成功した子供のような顔で嬉しげに笑う

「こんな用事が無ければ直接見れたのにな」

「……年幾つだ、お前」

 子供の喧嘩のような余計な一言を添え、それを読む顔が見たかったなんて普段のこいつからは想像も付かない。

「いいじゃないか別に、ちゃんと教えたんだしそれくらい……全く、テストが今日じゃ無けりゃ俺が行けたんだが」

 まだ名残惜しそうに言っているのに、頭が痛くなる

 つまりこいつはまだ藤堂に関してはまるで、ガキなんだ。

 多分自分があいつを特別扱いをしている事にさえ気がついて居ないのかもしれない。

 

 けれど、俺からの伝言を聞いて役には立ちそうか……、なんて本人は自覚は無いんだろうが、俺に晒すその優しげな顔は、おそらくはこいつも俺と同じ場所に同じ想いを持っているんじゃないだろうか? なんて事を感じさせるもので……。

「あ~、でも、今日塾行ったら、あいつうるさいかもな?」

 妙に楽しげな鳴木にため息が出るのを止められなかった。


ネタバレを考えると「あいつ……変わったな」以降でも良いかなと思うのですが心の距離だとこれ位かなぁと。

二年生三学期位をイメージしています。


鳴木の彼らしさが出せた気がしたお話です。

今の彼も好きですが、拍手などでこの時期の彼ももっと書きたいなと、読み直すとつい思います。

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