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熱発パラレル 一条 (本編読了後推奨です)

熱発シリーズ最終回 今回は一条編です。


前作と同じく、少し設定に緩いところがあるのと、三人分有るのでパラレルとしましたが基本いつもの紗綾&彼らとなっております。

 ――何やってるんだ、あいつ?

 教室に向かう途中、ロビーにある自販機の前で藤堂が妙にぼうっとした様子で立っている。

 廊下のかなり前からその様子は見て取れたものの、足音でいつもならとっくに振り向く距離まで近づくも、まだぼんやりと立ちすくんでいる姿に

「何やってる?」

 声をかけると

「あ……ん~」

 ゆるりと振り向いて俺を見ながら少し自販機から下がる

「ごめん、先い~よ」

「いや、別にそういう訳じゃ無いが、さっきからずっとそこに立ってるから」

「あ~、のどが渇いたな~って、あつい気がするから冷たいものがいいかなって、けど、つめた~いって文字見るとぞくぞくするんだ……じゃ、暖かい方がいいのかな~って、でも、あついんだよね……」

 そんな事を、眠たげな口調で言うから、嫌な予感がした

 言っていることも微妙におかしい上に、こいつがこんなに覇気の無いのも変だ

「う~ん……どう、しよっかな…………っとと」

 俺が使わないならと、再度自販機に近寄ろうとして少しふらつくのを慌てて支えて

「……っ! お前、熱あるだろ!?」

 体の熱さにさっき感じた嫌な予感が当たったことを悟る。


「あ~! だから、こんなに調子がおかしいのか~、熱なんて久々で」

 すると得心がいったようにそんな事を言って

「ごめん、帰るから、塾に言っておいて……」

 本人的にはさっさと、なんだろうがおぼつかない足取りで、椅子に立てかけてた鞄にむかう後ろ姿に

「親に連絡しろ、そんなんじゃ危ない」

 声をかけると

「ん~、今どっちも居ないんだよ、ま、へーき、へーき」

 全くもって信用出来ない返答に

「判った、送る」

 そう言って、鞄を引き取る。


「歩けるか?」

「え? うん、っていうか、何いってるの? 塾始まるよ?」

 とろりとしていた瞳を見開いて、驚きのせいか少し力のある視線で俺を見るのに、歩く体力くらいはありそうだとほっとしながら廊下に歩き出すも

「だいじょぶだよ~」

 後ろから俺が持った鞄を取り返そうと藤堂が手をかけるのを無言で却下していると

「どうしたの?」

 今来たのか、教室に向かおうとする松岡に声をかけられた

「丁度いい、すまないが塾に俺と藤堂は休みだって言っておいてくれないか?」 

 すると、松岡は眉をひそめて 俺の視線の先を辿れば

「かばんくらい、もてるよ~」

 こんな僅かな時間で、とうとう喉にもきはじめめたのかすこしかすれた声の藤堂。


「こいつ熱あるんだ、親も留守で迎えも期待出来ないらしい、……だから送っていく」

 そう松岡に話す間にも大したことは無い、なんて訴えつつ、だるそうにため息をついているのに呆れていると、松岡はすっと藤堂の額に手を伸ばした

「まずいわね……ちょっと高い気がする、紗綾、おうちにご両親が居ないって、ずっとなの?」

「ううん、塾始まる頃には帰って来るはず」

「なら……一条君、お願い」

「松くん!」

「勉強会なら一回ぐらい抜けても二人纏めて私がフォローするわ? それに今から貴方の家に行って戻ってくるなら一条君も授業には間に合うし、少しぐらい遅れてもそれ位のフォローなら簡単な事よ? それよりも、ここで迷う時間が勿体ない」

 頭の良い松岡らしいきっぱりとした物言いに、強情な藤堂も反論を封じられるのに正直助かったと思いつつ

「済まないな、松岡……ほら、いくぞ?」

「うぅ……」

 促せば、まだ不満はありそうだったけれど、口論する体力も無くなってきたらしく息をつくと

「ごめん、じゃぁ、お願い」

 諦めたように俺の隣を少しふらつきながら歩き出した。


「使うか?」

 行きなれた道でのいつもの階段。

 けれど、熱にふらつくこいつにはいかにも危なっかしく見えて、……少し迷いながら差しだした手。

 すると、一瞬惑うも俺の手をとり階段を降りるから、その素直さと手の熱さに調子の悪さを再確認する。

「調子悪いなら、ゆっくり降りろよ」

 声をかけると、ふと、俺の方を向いてくすりと笑って

「やさし~ね、一条は」

 なんて、手を貸しているからこその近い距離と、熱のせいで力の無い、けれどその分柔らかな瞳に俺を映して言うから、どくりと、本当に聞こえてしまうのでは無いかと心配になるほど胸の奥で鼓動が鳴り、思わず立ち止まってしまう。

「一条?」

 そんな俺に不思議そうに声をかけられ

「馬鹿なことを言うな、行くぞ」

 そう、少し強めに腕を引くと

「きゃっ」

「わ、悪いっ」

 いつものこいつなら軽くとどまれる程度の力でも熱に浮かされた体には強かった様子で、ふらりと傾く体を急いで支える。

 

 繋いだ左手はそのままに、右手で回した俺の腕の中で

「ご……ごめん」

 そう言って藤堂は慌てて体を起こそうとするも、ふと力を抜いて俺に寄りかかる

「……!?」

 俺とお同じくらいの身長の、けれど俺とは違う柔らかい熱い体。

 俺の肩に額を押しつけて深呼吸をしているから、余程気分が悪いのかと焦りながらも、寄り掛かられ、殆ど抱き締めるような近さにこいつがいるという、甘さ。

 交錯する感情に脳が痺れるような気さえしていると


「ごめん、ちょっと目眩がした」

 最後にひときわ大きな深呼吸をして、顔を上げ、体を起こして残りの階段を下りていく

 俺はと言えば、図らずも体全体で感じることになったその感触が中々抜けなくて、情けなくも早い鼓動に気がつかないふりをして必死のポーカーフェイスを保つのがやっとで。


 改札をくぐり電車に乗り込むと、気が抜けたのかふにゃりと体の力を抜いて

「ほんと、ごめんね」

 椅子に体を預けて、申し訳なさげに俺を見るから

「いいから、楽にしていろ」

 そう言うと、小さくうん……と言って目を伏せる

「起こすから寝ててもいいぞ?」

「……ん」


 コトン

 と、肩にぶつかるあいつの頭。

 さっきから触れる事の多い藤堂の体は熱のせいかかなり熱くて。

 かなり前、美術室で匿われた時の事を思い出した。

 あの時は、あいつの手も身体もひやりとして居て……、まだ、そんな記憶が残って居る自分に自嘲めいた笑みが漏れる


 怠そうな様子に眠るだろうとは思ってたから、過剰な反応をして起こしてしまう愚は起こさないで済んだ物の、、近すぎる距離にさっきから心臓はうるさい程で、横を向いて顔を確認する事も出来ない。

 さっき流れたアナウンスによれば、間の悪い事に通過待ちが有るらしくて、降りる駅まではまだかかりそうだ。

 冷静を保とうと、バッグからテキストを出して眺めては見る物の、頭になんか入る筈も無く、俺の意識は寄りかかる熱い体と肩に乗せられた頭、小さく聞こえる寝息何かに集中していて。


 全く、自分でも情けなくなる。

 恋は人を愚かにする……とは、誰の言葉だったか。

 こいつを知る前、まだ、今よりもっと子供だった俺は、寄せられる異性からの好意を受け取り、ままごと見たいな付き合いなんて事をした時もあって、この程度の接触、経験が無い訳ではない。

 けれど、顔も朧気な初めて彼女と名乗った存在に手を取られた時も、抱きつかれた時さえ、こんなに胸が騒いだ事は無く


 なのに、相手が藤堂こいつだというだけで、いっそ引き寄せてしまいたくなる腕を理性で縛り乍ら、顔を向ける事も出来ず、ひたすら冷静を装い、早く駅につけばいいと思う気持ちと、このままずっと眠るお前に触れていたいという矛盾した思いを抱えながら、電車に揺られていることしかできなくて。

 小さな寝息に苦しみの色が無いことを確認し、それに安堵はするが、気はやすまるわけも無い。

 頭を乗せた肩とそのまま俺の胸元に流れる髪の感触に俺まで熱が出そうだ。

 お前の熱はやがて下がる、だけど、どうしてくれる? 

 ……俺の中のこの熱は胸の奥でいつまでも溜まり続ける、きっと


 ――いまだ目的地さえ定かでは無いこの想いの行き先を思うと、知らず深い溜め息が洩れた。


楽しんで書いた三部作、お付き合い頂きましてありがとうございます。


現在執筆中の作品の合間に書いたものでして、本当はそちらの公表と同じく最終話と目論んでいたのですが力足りず……。


ともあれ、今回は三週間お付き合いありがとうございました。

読んで頂けてとても嬉しかったです。


引き続き精進を重ねますので宜しくお願い致します。

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