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熱発パラレル 鳴木 (本編読了後推奨です)

熱発シリーズ第二弾 今回は鳴木編です。


前作と同じく、少し設定に緩いところがあるのと、三人分有るのでパラレルとしましたが基本いつもの紗綾&彼らとなっております。

「じいちゃん! 車止めて、どこでも良いから!」

「何じゃ? いきなり……トイレか? だからさっき行っておけと」

「そんなんじゃ……あっ、そこのコンビニなら入れるよな」


 月一回恒例の爺ちゃんとの釣り、その帰り道の車内で遠くから目に入ったのは見慣れた自転車だった。

 だけど、量産品の有りがちなデザインだけあって良くあることかと逸らしかけた視線が再度引き寄せられたのは、それを何故か漕がずに重そうにひいて歩く同い年くらいの女の姿。

 モコモコとした帽子から零れたくるくると長い髪……走っている道路と並行して通っている路線はいつも塾に行くのに使って居るものだが、塾も家も全くの逆方向……あいつ、こんなところで一体何を?


「こりゃ! 何処に行く」

「悪い! すぐ戻るからちょっと待ってて!」

 道路脇の駐車場に車が入るなり飛び出し、そこから300mほどの距離を走りながら

「藤堂!」

 人影にかけた言葉にピクリと肩を揺らし顔を挙げてこちらを見るのは、やっぱりさっき脳裏に浮かべた顔。

 ……だけど、こいつ特有の力のこもった瞳が何時もより緩んで見える上に、妙に上気した頬に嫌な予感がして手を伸ばせば

「な……るき、なんでごんなとこ?」

 驚いたように呟いた声もいつものハリは無く

「あつっ! 熱あるじゃないか、病人のくせになんでこんなところにいるんだよ」

 触れた指先の想像していたよりも熱い感触

「え? ……あぁ、だからこんなにだるいの……」

「……っおい!」

 呟きとともにゆらりと揺れた体を慌てて支えるも、藤堂の手先からハンドルが離れた自転車はバランスを崩し

「まさか祖父にナンパの片棒を担がせるとは……」

 こいつとは反対側に倒れて行くのに片手を伸ばすも届かなかった筈の自転車はピタリと動きを止め、同時に背後からからかうような爺ちゃんの声が聞こえた。


 俺を追いかけてきたらしい爺ちゃんのトンデモナイ言葉、だけど俺の腕で支えた藤堂の顔色を見るなりこりゃいかんと呟くのに、これ以上の状況説明は要らないか……と、思ったのに

「ご、ごめん! 鳴木、自覚したらちょっとふらっとしただけ、あぁ! 自転車すみません抑えていただいて」

 風邪の自覚も無かったらしいこいつだけ、俺の腕から離れ、爺ちゃんから自転車を受け取ろうとする

 「何を言ってるんじゃ、その顔色で! 優吾の友達なんじゃろ? 送ってくから車に乗りなさい、自転車も乗せられるから大丈夫じゃ」

「え?」

「助かる、こいつ、同じ学校の奴……藤堂、俺のじぃちゃん」

 頼むつもりだった事を口に出すまでも無くじぃちゃんが言い出してくれたのにホッとする、なのに

「藤堂紗綾といいます、鳴木君とは学校と塾が一緒っ、で…ッコン……ケホッ…」

 どこまでも強情なのかこいつは、ふらつきよろける程な癖に咳き込みながら大丈夫です、なんて自転車に手を掛けようとしていて


「えっ! あの!」

「じぃちゃんっ!」

 この強がりををどうすべきかと考えているとじいちゃんはひょいっと藤堂を抱き上げ

「きちんと挨拶出来るのは偉いが、無理はいかん、子供の保護は大人の役目じゃ」

 なんて腕の中のあいつに言いながら歩きだした。

「わ! 私、歩けますっ!」

「そうかの? 嬢ちゃんは強情そうに見えるが下ろした途端逃げたりせんか?」

 途端、逃げませんからっ、と必死な声がかえるのに爺ちゃんは藤堂を下ろし、ちらりと俺を振り向くと何故かニヤリと笑って自転車持ってこいよと言うと車に向かって足を早めた。


「鳴木、私が引くから」

「お前は……じいちゃんまた呼ぶぞ?」

「うっ」

「いーから、こいよ」

 ……俺だって、たとえじいちゃんとはいえ、他のやつの腕の中にいるお前、なんて見たいわけじゃねーんだから

 とても口には出せない狭い思いは心だけで呟いて、さっきの道を逆に辿って車に戻ると、爺ちゃんはもうエンジンをかけて暖房を効かせていて、その車内に藤堂を坐らせると、トランクに自転車を積み込みながら俺に、駐車料金代わりに買い物をして来ると言い置いてコンビニに入って行った。


「で? お前はこんな寒空の下、風邪をおして何でこんな所に居るんだ?」

 そのまま俺は後部座席に乗り込んでいつも婆ちゃんが乗る時に使っている膝掛けを渡して隣に座ると

「迷惑かけてごめん、こんな体調悪いって気がつかなかったんだ、走ってたら段々辛くなってきちゃって、コンビニ見えたから飲み物でも買って一息つこうと思ってたんだよ」

 成る程、……俺も経験が無いわけじゃ無い、家を出る時は微妙な喉の違和感ぐらいだったのに、きっちり体育も含めた6時間を熟した後は異様に体が重くなったのは、つい先月。

 こいつも基礎体力はある分妙な無茶をしたんだろうと判るから

「ま、ありがちだよな」

 と頷けば嬉しげにへにゃりと笑った、が

「でも、何でこんな場所に? この辺って確か藍澤の家とかがあるとか聞いた気が……」

 続けた俺の言葉にその表情をわずかに引きらせた。


「ちょ……とね、買い物、ここへは塾からなら線路沿いで来れそうだったし自転車があった方が探しやすいかなって」

「探すって、この辺のことなら藍澤に聞いとけばいいじゃないか、大体そこまでしていったい何を……」

 心底不思議で出した言葉に、瞳をそらし気まずげな顔をした。

 この表情、藍澤にすら場所を細かくは聞いてない様子……大切そうに胸に抱いているのは、どこかの本屋の……そんなこんなから去年の出来事を思い出す。

「お前、まさかあの咲夜とかいう奴の本を……」

「……っ!」

 瞬間、熱のせいだけではなく頬の赤みは増し、耳までも赤くさせるのに

「……まったく、お前と来たら」

 色々な感情をため息をついて逃す。

「え……と、呆れるよね? こんな迷惑掛けちゃうし」


「こりゃ、お前は何を病人をいじめとるんだ?」

 しょぼんと俯いた時にちょうど爺ちゃんが戻って来て、そんな藤堂を見て軽く頭に触れて

「うちの孫がごめんな、これ飲んどくれ」

 茶を渡すのに、慌てたように財布を出したりするから、爺ちゃんは子供がそんな遠慮をするなと笑った。

 それにつられたように藤堂も表情を緩め勧められるままシートに深く体重を預け、思わず、と言うように深くため息を着くのに自分の未熟さを感じて情けなくなる。

 車に乗せた後、こいつの事を思うならこんな風に問い詰めるんじゃなく楽にさせてやるべきだった。


「これ、ありがと」

 なのに、渡したひざ掛けを嬉しげに体にかけて笑みを見せたりするから。

 熱のせいで潤んで見える柔らかい瞳、上気して赤い頬、きりりと結んでることが多い唇が、今日は少し開きがちで早い呼吸を繰り返す……そんな見慣れない藤堂を車内ゆえの触れそうな程近い距離で見つめてしまう

「これ、お前のコーラじゃ、出発するぞ?」

「あぁ……ありがと」


 冷えたコーラを飲みながら、頭を冷やすつもりで藤堂から目を逸らす、気にはなるけど、マジマジと見られたら休めるものも休めない……そう、放って置くと

 パサリと軽い音がして顔を向ければいつの間にか藤堂は瞳を閉じていて、力の抜けた腕が緩みさっきまで抱きしめていた本が落ちたのに気づく

「調子が悪そうなじゃな、着くまでそっとしておくといい」

 爺ちゃんの言葉に頷きながらその本を手に取る。


「また、現実逃避か? リアルに居ないぞ?、そんな目に星浮かべるような奴」

「そうやって馬鹿にするけどね! こういうのは心のご飯なんだから」

「はぁ?」

「私にとっては大切なことなの、こんな風にドキドキしたり、胸がきゅうっって、なることなんて無いんだから! ……鳴木にはどうせ判らないと思うけど」

 あの時、本のことを馬鹿にした後も俺はあの手の本を嬉しげに持っている姿を見る度、からかって、その中のいつだったか、あいつは俺の言葉ににそんな風に反論して来たけれど。


 ばぁか、俺なんてそんな本なんて読まなくてもいつだって。

 ほんの些細な事でもトクトクと早くなる鼓動、お前の一挙手一投足で心臓を握られたような想いだってしてきた。


 「……っ」

 ふいにトン……とあいつの手が俺の手に触れて、びくりと体が反応する。

 眠りが深くなったあいつの膝に置いていた手が滑り落ちて、俺に触れただけ、なのに。

 手の甲越しにも感じるそれは、柔らかくて、いつもより熱く……数㎝ほどの触れている部分に意識が集中していくのを止められない。

 呼吸に合わせて、僅かに動き、近づいては離れていくのを繰り返すうちに、離れる瞬間その指先を強く握り、捕まえてしまいたくなる。

 ……でも、その衝動は胸の奥に沈め拳を強く握りこんだ。 


 ――本当に捕まえたいのは、その指先だけじゃない、だから、今は……



 

らしくない紗綾にドキドキする彼らという基本コンセプトの中での、各々の違いを楽しんで頂けたらと思います。


次作は来週の土曜日にup致しますので、宜しくお願い致します。

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