2頁目 良く有るパターン?
そこはうす暗かった。
室内らしくひんやりと冷たい空気が頬を撫でる。
かなり高い位置に、ポツポツと数個の窓があり、そこから光が差している。
さっきまでの夕焼けの様に赤くはなく、昼間のような光が窓から差し込んでいる。
光は赤い絨毯の敷かれた石畳をほのかに照らしている。
とは言え、光源としては不十分で光が差している場所から数メートル先は黒で塗りつぶした様に真っ暗だった。
周りをグルリと上半身を捻って見渡したが、自分の立っている位置から数歩先は真っ暗で見えなかった。
いや、目が慣れていないだけか?
夕方とは言え、明るい路地を歩いていたのだ。
急にこんな所に連れ込まれたら、何も見えないはずだ。
少し目を閉じて目を慣らすとしよう。
その間、現状を考察するとしよう。
ここは何処か?
不明
時間は?
先ほど腕時計を確認したら16時半だった。
コロッケを買ったのが16時25分だったから、ほとんど時間は経っていない。
何故ここに?
不明
ではどうやってここに来た?
不明
可能性1
誘拐
不可能
見通しの良い路地を歩いていたし、横にバトルマンガの主人公クラスのチート人間がいるため、よほどの相手でないと実行不可能
しかも事は一瞬で成されている。
可能性2
葉山 剣助
低
仮にスポーツドリンクの恨みだとしても異常。
最早超能力や魔法のレベル。
可能性3
異世界勇者召喚、又は異世界トリップ
低
そもそもここが異世界なのかも不明
さらに主人公クラス二人が隣に居たのだ、わざわざ脇役の自分を召喚する意味がわからん。
可能性4
主人公二人の事件またはイベントに巻き込まれた
大
となると、あの二人も似たような状況だろうか?
現段階では不明である。
可能性5
白昼夢
大(願望含め)
ハハハハ、夢さ、おれはぁ夢をみてるのさ。
ハハハ、おーいっ俺! 早く目をさませー
とまぁ、いろいろな可能性を考えたが情報不足なため、どれもこれもイマイチだ。
だが、行動方向性は決まった。
幸いと言うべきか、拘束などは一切されてない。
少し暗い場所に放り込まれただけ。
生きているし行動も出来る。
ならばと、先ずは目を開けてみた。
目に写る風景は先程と違い、塗りつぶした様に暗かった場所も、その細部まで鮮明に視てとれた。
どうやら床も壁もすべて石造りの建物のようだ。
所々に太い石の柱がある。
昔の西洋のお城のようだ。
広い
自分がいるのはどうやら四角い部屋のようだが、とにかく広い。
学校の体育館よりも広いだろうか?
しかも、その広さの部屋をたった数本の柱で支えている。
素人俺には解らんがとにかくすごい。
正面を見ると赤い絨毯が続いており、その先には2~3段ほど盛り上がっていて、その上に椅子が一つ置いてあった。
ん~? アレは所謂、王座と言うヤツだろうか?
て事は、ここは謁見の間?
ここはお城のなか?
にしては人の気配が無い。
とりあえず王座の近くまで歩く。
カツカツとローファーが石畳をたたく音が大きく響く。
足音がここまで響くのは、構造のせいもあるだろうが、一切音が無いため大きく聞こえるのだろう。
後ろをチラリと振り返ると、絨毯に厚く積もった埃が足跡を残していた。
かなりの時間、人がこの場所を掃除……いや、出入りすらしていないのがうかがえる。
3段ほどの段差を昇り、王座を見る。
色褪せて輝きを失っているが、これは金だろうか?
赤い布地のクッションも埃が積もり、哀愁を誘う褪せ方をしていた。
王座からは少し高くなっているからか、部屋の中を一望できた。
よく見ると折れた剣や、本に、ボロ布などが、そこらじゅうに散らばっていた。
タイトルは『兵どもが夢の後』だろうか。
過去に、この場所で何らかの騒動が有ったのが伺い知れる。
本当にここは何処だ?
何気無に王座に手をかけて辺りを見回していたら、カチリと手の中で音がした。
(うお?! 何か押したオレ?)
すると、後ろからゴゴゴッと重いものが動く音がした。
振り返ると、そこには闇に慣れた目でも先が見えない四角い穴が開いていた。
大きさは人ひとりがやっと通れるくらいだろうか?
恐る恐る近づき、顔だけを突っ込み中を見ようとしてみるが、一切光源が無いのか、何も見えない。
仕方がないとズボンのポケットを探り、ケータイを取り出した。
ボタンを押し、ライトを点けて中を照らしてみる。
そこは狭い石の通路だった。
隠し通路だろうか? 城にはよく脱出用の隠し通路があると聞いた事がある。
他に出口に通じる道がある。
こんな怪しい通路を通ることは無い。
いかにも罠とかありそうじゃないか、やめれば良いのにと、本能が警鐘を鳴らすが好奇心が勝ってしまった。
規格外2人と付き合う内に、何処か危機感が壊れているのかもしれない。
警戒も無に、大判コロッケをかじりつつ、ノンビリとプチ冒険気分で通路を進んでいく。
(結構長いな)
曲がり角も、カーブも無く、ただ直線の通路を既に10分ほど歩いている。
手にしていた大判コロッケは既に全部が胃袋の中だ。
脇に挟んでいたスポーツドリンクを、飲もうとして
(つかコレ剣助と間接……いや、この先水を確保できるかわからないしな、まだ飲まないでおこう。)
微妙に用心なのか言い訳なのか分からない理論を展開しつつ、スポーツドリンクをリュックに仕舞って片手を空けた。
道はまだまだ先があった。