[7th night]
微睡みの中で、髪をゆっくりと優しく梳く、武骨な手を感じた。
「愛してる」
低くかすれた声は、薄い髪のカーテンを隔てたすぐ向こう側から聞こえる。わたしの頭に染み込ませるように囁かれた言葉は、はっきりしない意識の中にじんわりと広がっていった。
「……わたしも」
思わず笑んで返した言葉にその手は一瞬動きを止めるが、わたしが目を覚まさず、擦り寄るように頭を押し付けたのを確認すると、ふっとひとつ笑ってさっきと同じ動作を繰り返した。
笑いがどこか寂しげなのは、なぜなんだろう。
影。
華奢なようでいて、けれどわたしを包み込むには十分に大きなその影。
日はきっと高い。影越しに漏れる光はわたしの目蓋を突き刺すように入り込んでくる。
それでも瞼を開けることが出来なかった。
髪の一本一本までが感じている、この心地よい体温を手放すには名残惜しかった。
そしてそのうち、手は頬に残る跡に気付いた。長い指でそっとその跡を辿ると、影は苦しげに溜息を吐いた。
「すまない」
しっとりと、声は濃密な空気に溶けていく。
わたしは縋るようにその手に指を絡めた。驚いたように、ぴくりと震えたそれは、けれど次の瞬間にはしっかりとわたしの手を握り返していた。
影はもう一度「愛してるよ」と囁いて、そして部屋を出て行った。