[4th night]☆
若干R15描写が入ります。
なにがきっかけだったのだろうか。
思い出そうとしてはみるものの、その時の彼の目の中にあったなにかが先に思い出されて、記憶はそこで留まってしまう。
服を徐々に剥ぎ、露になった肌をなぞった掌の感覚も、それを追い掛けた唇の感覚も、わたしの中に入り込んできた指の感覚も、後に思い出して身震いしたのは、そこにあったのが悦びではなく恐怖だったから。
「これで君は僕のものだよ」と、甘く囁いた彼の眼を見れなくなって、わたしはそれに気付いた。
彼はわたしを愛しているわけじゃなかった。カルスはただ、わたしを妻にするということに酔っていただけなのだと。
それは、わたしを打ちのめすには十分だった。
彼に抱いていた憧れに似た恋心も砕かれ、彼を愛することは出来ないと悟った。
そう思った矢先。
事態はわたしが考えていたよりも深刻になった。
元よりの婚約者とはいえ結婚前の娘の純潔を奪った男を父は歓迎せず、それにより友好的な関係性を築いていたはずのロベルカ家とデオナール家の確執が生まれることとなり、口頭のみの約束だった婚約は一からの見直しを余儀なくされた。
加えて、ロベルカ家の財政難を立て直すだけの財力を持たない、デオナール家との縁談を取り止めようと画策していた父の計略はそこで泡となった。
純潔を失ったから。
父がかたく箝口令を敷いたはずのその情報を、なぜかこの男は知っていた。
今わたしを組み敷いている、この男。
何の前触れもなく深く入り込んできた舌に舌を翻弄されて、わたしはいつの間にか広く柔らかいベッドに押さえ付けられていた。
身体を覆うものは乱れたシーツ以外には何もなく、目の前の猛ったアメジストはその素肌を舐めるように見つめている。
抵抗の言葉が出ることはなかった。奇妙に高ぶった身体が徐々に開かれていくのを、ただ意地の悪い誰かに意識させられるばかり。
彼は満ち足りたような笑みを浮かべ、身体中にキスを落とし赤い跡を刻み付けていった。
そして、やがてそれに満足したのか、しっとりと濡れた場所に長く武骨な指を1本差し入れると、内側を擦ってわたしに快楽を幾度深く染み込ませた。 そしてそれは、2本になり、3本になり…
「君は私のものだ。そうだな?」
やがて放たれた息一つ乱さない問い掛けに、わたしは何も考えず頷いた。
彼は一瞬、苦しそうにアメジストを隠し、そして短く言った。
「挿れるぞ」
わたし達の長い夜が、幕を開けた。